NHKアナウンス室

アナウンサー仕事の流儀

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インタビュー 田中泉

憧れが、私の原動力。
10/01
一生懸命生きている人たちを伝えたい。
  • 子どものころは、どんなことに興味を持っていましたか?

    本を読んだり歌を歌ったりするのが大好き。興味がわくことにすごく集中力を発揮するなど、好奇心は旺盛でしたが、比較的大人しい子どもだったと思います。周りの友だちが一緒に遊んでいるのは楽しそうと思うのですが、みんなが好きなかけっこやスポーツに興味がわかなくて(笑)。ただ、小学校の3年生から始めたクラシックバレエには夢中になって、ずっと続けていました。中学校の3年間はアメリカで暮らしていましたが、最後の方は週に5日間レッスンに通っていたほどです。

  • でも、小学校時代、みんなが一緒にスポーツをしている姿が忘れられなかったんでしょうか。私はある決意とともに日本に戻ってきました。「高校では絶対に“スポ根部活”に入る!」と。
    その結果、高校ではバトン部(チアリーディング部)に入部しました。通っていた女子校で最も厳しいと評判の部でした。もちろんバレエのおかげでダンスが好きだったというのもありますが、部活の厳しい練習やさまざまな苦難をチームメイトと一緒に乗り越えて何かを成し遂げる。そんな青春ドラマのようなシチュエーションに憧れていたんです(笑)。

  • バトン部で最も思い出に残っていることは?

    毎年春は大会に出場したり、学園祭でオリジナルのダンスを作ったりしましたが、一番思い出に残っているのは、甲子園のアルプススタンドで踊ったことです!高校3年生のときに、系列の男子校の野球部が45年ぶりに甲子園出場を決めたんです。特に母校愛の強い学校だったので、試合だけでなく応援もすごく白熱して、その中でみんなで校歌を歌って踊れたことは忘れられない思い出です。

  • アナウンサーになりたいと思うようになったきっかけは?

    子どものころからいろいろな人と楽しくお話できる人に憧れていました。今思うと、私の原動力はいつも「何かへの憧れ」だったような気がします。
    アナウンサーになれば、いろいろな人にインタビューができるし、自分の世界ももっと広がるのだろうなと漠然と思っていました。
    あと、中学生のときに起こった9.11(アメリカ同時多発テロ)もテレビの力を実感するきっかけになりました。当時、私はニューヨークの郊外に住んでいましたが、マンハッタンに行っていた父がなかなか帰って来なかったんです。結果的には無事に帰って来たのですが、待っている間は大きな不安とともにテレビの生中継を見ていました。情報が何もない私たちに事件の様子を伝えてくれるリポーターやキャスターを見ていて、「テレビの仕事って、世の中の役に立つ仕事なんだな」と思ったのを覚えています。

  • その思いが大学生になっても変わらなかったのですね。

    就職活動のときには、アナウンサーになりたいという思いがより明確になって「一生懸命に生きている人たちの姿を伝えたい」と考えるようになりました。今思うとそこには、人が気づかないうちに抱いてしまっている偏見を取り除きたいという気持ちもあったように思います。じつは私の身近なところに生まれた時から障がいのある人がいます。私はそれまでは、障がいのある人や周りの人を見ると大変そうだな、つらいだろうなと思っていました。でも、実際は違っていました。障がいがあることによる大変さはもちろんあるけど、それ以上に本人にとっても家族にとっても楽しいことや喜びがたくさんあることを知ったんです。偏見をなくしたその先に、真実や発見がある。自ら現場に行ったり事実と向き合ったりすることでそれを伝えられるアナウンサーになりたいと思うようになりました。
    去年3月まではニュースウオッチ9のリポーターとして、そして今はクローズアップ現代+のキャスターとして現場で取材したことをお伝えできることはとても幸せです。

10/09
先輩の仕事への向き合い方が、私の教科書でした。
  • アナウンサーになって、大変だったことは何ですか?

    初任地の富山では本当にいろいろなことに挑戦させてもらいました。ニュースの中継、リポート、司会、高校野球の実況・・・。もちろん、うまくいかないこともたくさんありましたが「私は今、自分がやりたかったことを体験している!」と常に前向きだったような気がします。ですから、「あぁ、大変だ!」とはあまり感じなかったですね。高校の3年間、バトン部で仲間と汗を流して培ったチアスピリットのおかげかもしれません(笑)。
    ただ、富山放送局時代に、とてもやさしい上司に一度すごく怒られたことがありました。『NHK全国学校音楽コンクール』で司会を担当させていただいたときのことです。私は、うまくしゃべること、学校紹介コメントを間違えないように読むことに気を取られ過ぎて、現場の状況に気を配ることがおろそかになっていました。ある学校の演奏が終わり、ステージから生徒たちが退場したと思い、次の学校の紹介コメントを読みはじめたのですが、その時、まだ前の学校の車椅子の生徒が移動しきれていなかったんです。コメントを読むことだけに集中してしまって、その生徒さんのことに気づかなかった。
    コンクールが終わったあとに、そのことを指摘されてすごく怒られました。気づかなかった自分が情けなかったですし、アナウンス技術の前に、人として大事なことをそのときに教えていただきました。そのことは忘れられません。

  • 新人のころに特に影響を受けた先輩アナウンサーは?

    大阪放送局では、『ニューステラス関西』という夕方のニュース番組のキャスターを2年間担当しました。その1年目にパートナーを組ませていただいた先輩から、アナウンサーとしてとても大切なことを教えていただきました。でもそれは、何か言葉をもらったというのではなく、日々仕事に向き合う姿勢を通して大切なことを勉強させてもらいました。
    その先輩はアナウンサーとして、いついかなることが起きても動じないように常に万全の準備をしていました。たとえ本番直前に新しいニュースが飛び込んで来ても、生放送中にどんなアクシデントやハプニングが起きても、慌てることなく最善の方法で対処できる方でした。ですから、先輩がスタジオにいるだけで、私を含めスタッフ全員が安心できるんです。それって、すごいことですよね。
    アナウンサーは、アナウンスの技術だけでなく、いかなることが起きてもそれに対応できる心構えや準備が大事なのだと、仕事を間近で見ながら勉強させてもらいました。以来、いつか自分自身も何があっても動じない、周りのスタッフに安心感をもってもらえるアナウンサーになりたいと、ちょっとずつですが努力しているつもりです。

  • 富山放送局や大阪放送局時代の楽しかった思い出は?

    それはもうたくさんあります! その中でも一番に思い出すのは、大阪放送局の『ニューステラス関西』の中で担当していた「ハロー!スクール」というコーナーですね。毎週、大阪府内の小学校や中学校を訪問してリポートするのですが、それがすごく楽しくて。お笑いの授業がある学校があったり、お茶で有名な堺市では学校でお茶の文化を学んだり、蛍が見られる小学校があったり、その土地、土地で特色のある学校がたくさんあるんです。また、大人になって教室に入るのも、なんだか懐かしさがあり、同時に新鮮な気持ちにもなれて楽しかったですね。
    2年間で80校くらいを回らせてもらったのですが、学校へ行くと子どもたちが「あっ、ハロー!スクールのお姉ちゃんやん」と言って駆け寄って来てくれるんです。テレビを見てくれている子どもたちや先生方とダイレクトにふれ合えるのもうれしくて・・・毎週いろいろな学校を訪れるのが、とても楽しみでした。現場に行く楽しさを知りました。

  • あと、甲子園球場のアルプススタンドで高校野球の応援団のリポートをしたり、開会式の実況の準備のためにグラウンドに降りて取材したことも思い出に残っています。あ、私甲子園の土を踏んでるって!(笑)自分が高校時代にアルプススタンドで踊って応援したときのことがよみがえってきて、感動しました。

10/15
『クローズアップ現代+』は、いろいろな発見がある番組です。
  • 現在、担当している『クローズアップ現代+』の
    見どころを教えてください。

    毎日、番組を見ていただくと、今自分たちが生きている時代がどんな時代なのかが見えてくる。そこが、この番組のおもしろさだと思います。番組では、じつに多種多様なテーマを取り上げています。でも、それぞれのテーマを掘り下げていくと、根っこの部分でつながっていたりするんです。
    たとえば去年の4月には、スマートフォンで写真を撮ったときには、ピースサインをした指から指紋が抜き取られて悪用される可能性があるということをお伝えしました。いたるところにある監視カメラもそうですが、私たちは今、プライバシーがどんどん侵食されていく社会に暮らしています。

  • そして先日は、「デジタルフォレンジック」というデータ復元技術を取り上げました。この技術を使えば、たとえば洪水で流され壊れたカメラの写真データを復元させたり、一度は失った大切な思い出をもう一度取り戻したりすることができます。
    ですがこの技術にも光と影があって、本人自ら消去したデータを他人が復元することも可能な場合があるので、写真から指紋が取られたりするのと同じくプライバシーの侵害につながるリスクをはらんでいます。このように違うテーマでもつながっている部分に気づいたときに、私たちが生きている時代を知ることができると思います。毎回見ていただくといろいろな発見があるので、是非見て頂きたいですね。

  • 一緒に出演している武田真一アナウンサーの印象は?

    武田さんからは学ぶところばかりですが、自分の感覚や感性にとても素直な方だと思います。番組で流すVTRの試写でもわからないときには「わからないなあ」とはっきり言うし、同時に「自分はこう思う」という意見もしっかり持っています。
    それは試写のときだけでなく、番組の中でもそうです。キャスターとして自分の意見をゲストの方にぶつけたり、単に情報をわかりやすく伝えたりするだけではなく、武田さんなりの視点でその日のテーマを深く掘り下げています。 番組で取り上げるテーマには、男女の違い、年齢の違いで意見や考え方が異なるものも当然あります。私自身もそこをきちんと一人の30代の女性として伝えることが大事なことだととらえているのですが、その意見も多様性の一つとして尊重してくれます。

  • 鎌倉千秋アナウンサーについてはどうですか?

    鎌倉さんには、アナウンサーとしてとても憧れる部分があります。特に私がすごいなと思うのは、ゲストの方が話したことを、その場でとても自然な形でわかりやすくまとめて、そこに自分の意見や番組の方向性をプラスして、またゲストの方に返すことができるところです。番組では、鎌倉さんとご一緒することがあまりないので、日々技を盗むことができないのが残念です(笑)。

    実はお二人には入局が決まった後に話をうかがう機会があったのですが、そのときのことを二人とも覚えていてくださっていました。まさか時を経てこうして番組をご一緒するようになるとは・・・。大事なご縁だな、と思っています。

10/22
自分らしさを大切に。
  • 今後、担当してみたい番組はありますか?

    具体的にこの番組というのはないのですが、じっくりインタビューをして、相手の言葉を引き出すような番組を担当できたらうれしいですね。それから、今以上に、いろいろな場所に行って、多くの人の話を聞いて、それを伝えていくことができたらなと思います。クローズアップ現代+を担当するようになってから、トルコやアメリカ、スウェーデンなど、海外でも取材していますが、現代を生きる人間として国を超えての違い、あるいは共通点をしっかり自分の目で見つめ伝えていきたいな、という思いもあります。

  • 休みの日にはどんなことをしていますか?

    じつは私、大学の4年間、体育会のゴルフ部だったんです。アナウンサーになって東京に来てからはたまにしかプレーしていなかったんですが、最近、またちょこちょこラウンドに行きはじめました。でも、まだまだ学生時代のスコアには戻りません。エンジョイゴルフ!ということで、あまりスコアを気にせずに楽しんでいます。気持ちの良い景色の中、良いショットが出ると嬉しいですね。

  • ほかに趣味はありますか?

    おいしいお店を探すのが好きです。あと、そのときそのときの状況に合ったお店選びですね。たとえば、友人たちとご飯に行くとなったら、それぞれが住んでいる場所を考慮して、どこで集まるのがいいかを考えたり、何をみんなは食べたいのか?などいろいろな条件を細かく頭の中で整理したりして、「このお店はどう?」と4、5軒提示するのが好きなんです。最近では友人から事前にお願いされるようになりました。(笑)
    一緒に行く人に喜んでもらえると、嬉しいですね。

  • おいしいものが好きなんですね。

    はい!!料理も好きです。大阪放送局にいたころから月に1、2回ですが料理教室に通っています。通いはじめて4年くらいですが、今は基本のフランス料理を勉強中です。平日は仕事もあるので作れないことが多いのですが、週末には2時間くらいかけてちょっと凝った料理を作ったりしています。

  • 最後に、いま、アナウンサーを目指している人にメッセージをお願いします。

    NHKのアナウンサーは全国におよそ500人います。そして、その一人一人が個性的で、みんな違うんです。それは、同期を見渡してもそうだし、先輩、後輩を見ても同じような人はいない。ですから、アナウンサーはこうでなくちゃいけないという形はないと思っています。こんなことを言うと、身もふたもないように思われるかもしれないけれど、これは大事なことのような気がします。
    NHKにはさまざまな番組があります。いろいろな個性を生かせる番組があるので、自分らしさに自信をもってほしいと思います。面接のときには、自分が本当に思うこと、感じていることを素直に伝えてほしい。「アナウンサーを目指すなら、こう言ったほうがいいだろう」とかは考えずに、自分らしさを堂々とぶつけてほしいなと思います。

    ありがとうございました。

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