NHKアナウンス室

アナウンサー仕事の流儀

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インタビュー 杉岡英樹

いろいろなスポーツの魅力を伝えたい。
10/5
1000分の1秒のせめぎ合い。
  • 担当している『勝利の条件 スポーツイノベーション』はどのような番組ですか?

    さまざまな競技のトップアスリートたち、今は東京オリンピック・パラリンピックで金メダルや勝利を目指している選手にスポットライトを当て、その技術のすごさや競技の奥深さを科学的に解析しています。勝敗を分ける根っこがどこにあるのかを、データや拡張現実(AR)という最新技術、そして専門家の分析をもとに探っていく番組です。

  • 拡張現実(AR)とはどのような技術なのですか?

    特別なゴーグルをかけると、例えばある選手が3Dで、実物大の大きさで目の前に登場します。そして、その動きをいろいろな角度から、さまざまなスピードで見ることができるんです。実際のトップ選手の動きを計測したデータから作成しています。

  • 具体的にはどんな分析や解析をするのですか?

    たとえば、体操の跳馬。余裕を持って着地を成功させるためには、ロイター板を踏み込む角度と、踏んでいる時間が決め手になります。それは、1000分の1秒で変わってくるし、踏み切りの角度によって跳躍の高さが3.1cm違ってくる。その1000分の1秒と3.1cmの高さが着地を成功させるかどうかの決め手になるんです。

  • それは選手もわかっていることなのですか?

    その回の放送では元オリンピック選手に解説をお願いしたのですが、選手たちは、「1000分の1秒」という時間を、数字ではないけれど、感覚としてわかっているだろうということでした。あくまでも感覚としてですが、選手たちは1000分の1秒という瞬く間の時間のせめぎ合いをしているわけです。
    番組を見てもらうと、その競技を楽しむ新しい視点や、トップアスリートたちのすごさを再発見できるのではないでしょうか。また、メジャーな競技だけでなく、じつにさまざまな競技を取り上げているので、それらの競技のおもしろさや魅力も感じてもらえるとうれしいですね。

  • スポーツ中継の実況では、どのようなことを心がけていますか?

    その試合の肝となる部分がしっかり伝わる実況をしたいと思っています。その試合の勝負の分かれ目だとか、その分かれ目になった伏線がどこにあったのか?そういうことが伝わる放送をしたいと思っています。

10/12
サッカーに関わる仕事がしたくて。
  • 学生のころに夢中になっていたことはありますか?

    サッカーですね。小学4年生のときに地元のクラブチームに入れてもらって、それから中学、高校とサッカー部で、大学でもサークルでサッカーをやっていました。
    どこも強豪チームではなかったですが、ずっとサッカーに夢中になっていました。

  • サッカーのどのようなところが好きだったのですか?

    自分たちでアイディアを出し合ったり、自分の動きに仲間が連動して動いてくれて、それが得点につながったり・・・。サッカーは、1つのボールを通してチームメイトとつながれる競技なので、そこが好きだったのだと思います。

  • サッカー経験が今の仕事に役立っていますか?

    そう思えるようになったのは最近ですね。若いころは、実況のことばかり考えていて、自分のサッカー経験を生かせるような放送はできていなかったと思います。ボールと選手を追うので精いっぱいで、試合の流れや、選手や監督の気持ちを想像しながら伝える余裕はなかったような気がします。

  • では、アナウンサーになったのはサッカーの実況がやりたくて?

    そうですね、とにかく大好きなサッカーやスポーツに関わる仕事がしたくてNHKを受けました。同時に、まだまだメジャーではないスポーツの魅力を多くの人に届けたいという気持ちもありました。
    ただ、スポーツ実況はそう簡単にできるものではないと、入局してすぐにわかりました(笑)。

10/19
「見る」取材が大事。
  • 新人時代に苦労したことは?

    人より器用でも才能があったわけでもないので、すべてのことにおいて時間がかかりました。
    5分間のリポートを作るのも、先輩だったら1時間の取材で大丈夫なところを、僕は一回の取材で足りずに何度も通ってようやくなんとか形になったり・・・。本当に、あらゆることが人より遅れていました。
    それで焦って、空回りばかりしていたのかもしれません。

  • その焦りや空回りは、どのように克服しましたか?

    山形放送局にいたときに、タラの芽を育てている農家の女性を取材したことが、ひとつのきっかけになったように思います。彼女は、なぜか僕のことを信頼してくれて、いろいろなことを話してくれました。僕も、自分が誘導して話を聞き出そうとか、いいひと言をしゃべってもらおうという気負いを捨てて、ニュートラルな気持ちで話を聞くことができました。

  • その取材で学んだこととは?

    ちゃんとした信頼関係を築くことができれば、頼ってもいいんだなということ。頑張って自分がリードしようと思わなくても、取材する人を信用して、助けてもらいながら、一緒に番組を作っていけばいい。何から何まで全部自分でやろうとしなくてもいいんだと思えるようになりました。
    そう思えるようになると、ほどよく肩の力が抜けましたし、取材相手には多くのことを語ってもらえるようになった気がします。

  • 先輩や上司からのアドバイスで今も大切にしているものは?

    よくスポーツアナウンサーの先輩からは「見る取材が大事だ」と言われました。まずその人の動きや練習を「見る」ことが大事だと。すると、気付くことがあります。「あれ、いつもと動きが違うな」とか、「もしかすると新しいプレーに取り組んでいるのかもしれない」とか。じっくり見たあとで取材をする。「聞く」より、まず「見る」ことが大事だと教わりました。

  • スポーツ実況をする上で大事にしていることは?

    今の時代は、選手や監督の近況にしろ、ほかのメディアで語っていることなど、インターネットで調べると多くのことがわかります。でも、調べてわかることよりも、現場に出向いて、自分で見たこと、聞いたこと、感じたことを伝えたいと思っています。
    練習を見に行って、選手はこんなことをやっているとか、こんなことを考えていそうだなということを取材して、それが実況のベースになるように心がけています。

10/26
自分の知識や見方を深めたい。
  • プライベートでは、どんな時間を過ごしていますか?

    ステイホーム期間中は家でストレッチをやっていて、やっと前屈して床に手がつくようになりました(笑)。
    今はコロナ禍で出かけることが少なくなってしまいましたが、サッカーやフットサルをやるのは好きですね。個人フットサルというのがあって、知らない人同士が集まって2時間フットサルをやるんです。それに参加して、ストレスを発散しています。

  • その日、初めて会った人とチームを組むのですか?

    知り合い同士で参加している人もいますが、僕は1人で参加しています。上手な人も、そうでない人もいて、レベルはバラバラですが、それが楽しいんです。ひと言もしゃべらないけど、パスを出したりパスをもらったりしていると、お互いのレベルや好きなプレーみたいなものがわかってくる。上手かどうかではなく、相手のことを考えてプレーできていると、なんとなく信頼感が生まれてくるんです。ボールを通して会話している感じです。さっきまで全く知らなかった人と気持ちが通じ合えたプレーができたときはすごく楽しいですね。

  • これからやってみたい番組はありますか?

    新しいことにチャレンジするのもいいですが、僕は今やっている番組やスポーツ実況をよりいいものにしたいと思っています。スポーツ選手が「もっと上手くなりたい」と言うのと同じように、少しずつでも積み重ねていくことを続けていきたいと思っています。

  • アナウンサーとしての目標は?

    最終的には、いろいろなことを自信をもって伝えるアナウンサーになりたいと思います。たとえば、サッカーも、5年後には、今とはまったく違う戦術が主流になっているかもしれません。視聴者の方もいろいろなところから知識や情報を吸収できるので、どんどんサッカーに詳しくなっている。そんな中で、自信をもって伝えるには、僕たちも日ごろから練習や試合を取材したり、戦術を勉強したりして、知識や試合の見方を深めなくてはいけないと思います。常にこの見方でいいのか?とか、この表現であっているのか?と頭の中で葛藤しながら実況していますので、いつの日か自信をもって伝えられる日が来ると信じて研鑽していきたいです。

  • アナウンサーを目指している人にアドバイスを。

    NHKにはいろいろなジャンルの仕事があるので、自分のやりたいことにチャレンジできる環境があります。やりたいと思っていることを実現できる可能性は大いにあると思います。
    また、番組は多岐にわっているので、そこで新しい自分の可能性を発見することもあるかもしれません。ぜひ、チャンレンジしてほしいです。


    ありがとうございます。


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