NHKアナウンス室

アナウンサー仕事の流儀

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インタビュー 森花子

常に未完成なアナウンサーでありたい。
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台本通りにいかない、おもしろさ。
  • リポーターをしている『あさイチ』について教えてください。

    とてもチームワークのいい番組で、のびのびやらせてもらっています。リポーターや出演者同士で会話をすることも多く、みんなで作っているというアットホームな雰囲気があって、それは放送でも出ているのではないでしょうか。
    自分がおもしろいと思えないことは見てくださる方もおもしろいと思ってもらえないはずなので、「ここがおもしろい」、「これって、役立つでしょう」ということを最大限の熱量と気合いでお伝えしています。

  • 緊張することなく、のびのびとやれている?

    いいえ、毎回、緊張しています。いつも脇汗がひどいんです(笑)。
    プレゼンしているとキャスターの博多華丸・大吉さんによく「今日も緊張しているね」と言われます。ただ緊張して失敗したり、読み違いしたとき、それをおふたりが笑いに変えてくれるんです。
    もちろん失敗はほめられたことではありませんが、失敗を恐れずに思いっきり
    やれるという環境を華丸さんと大吉さんつくってもくれるので、そこはすごく感謝しています。

  • 『あさイチ』で学んだことはありますか?

    これまで、自分の個性は自分で出さなくてはいけない、つくり出さなくてはいけないと思っていましたが、個性はチームの中で見つけられるものだと『あさイチ』に参加するようになって知りました。自分ひとりでは自分の個性はわからない。また、自分が欠点だと思っていたことが、個性だったと気付かされることもあります。
    「NHKの森花子」ではなく「森花子ってこういう人」というのをまわりのみなさんに見つけてもらっているような気がしています。

  • 『タカアンドトシのお時間いただきます』というラジオもやっていますね。

    毎回、大変ですが、おもしろいです(笑)。タカさんとトシさんの独特な視点にいつも驚かされていて「あっ、そういう考え方やものの見方があるんだ」と刺激をもらっています。ただ、おふたりはそのときに自分たちが感じたことや思ったことを自由に話されるので、台本通りに進行するのは不可能です(笑)。

  • 進行役としては大変ですね。

    いつもハラハラしています(笑)。自然なトークが売りの番組なので、私はそれについていくのに必死です。でも、そこがこの番組の最大の魅力だと思っています。台本には書けないおもしろさ、その場、その場で生まれるおもしろさ、それに勝るものはないのではないかと・・・。そして、収録なので編集の力でさらにおもしろさが凝縮されているので、ぜひ聴いてほしいです。

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いちばん驚いたのは私でした。
  • 剣道4段の腕前だそうですね。

    小学校から大学までやっていました。高校は剣道のスポーツ推薦だったし、大学もAO入試を使って剣道で進学したので、ずっと剣道、剣道の日々でした。小学校のころは、ただただ楽しかったのですが、中学、高校になると練習が本当に厳しくて正直つらかった。でも、剣道を辞めたいと思ったことは一度もありません。

  • つらくても剣道を辞めようと思わなかったのは、なぜでしょう?

    剣道が純粋に好きということもありますが、勝つ喜びを知ったからかもしれません。
    中学生のとき、経験者は私と妹だけという団体戦で、関東大会で優勝。全国大会ではベスト8まで進みました。それは、厳しい練習を乗り越えてつかんだ大きな成功体験でしたね。

  • 剣道を通して学んだことはありますか?

    「千鍛万錬(せんたんばんれん)」という宮本武蔵の言葉があります。千日、万日という長い歳月の先に結果がついてくる。その言葉の意味を体で理解できたことです。日々の地道な練習こそが何より大切なんだ、と。「千鍛万錬」は、今も大事にしている言葉です。

  • アナウンサーを志望するようになったきっかけは?

    中学生の時です。剣道の朝練前、憂鬱な気分でふと見かけたテレビのアナウンサーがとても輝いて見えて「この人たち、毎日楽しそう」とつぶやいたんです。
    その時母が、「朝練ごときで音を上げているあなたには絶対に出来ない仕事よ」と。
    その一言で「私にだって出来る」と闘争心をかきたてられました。記憶を遡って考えると、それがきっかけなんでしょうね。
    ただ大学生になって現実が見えてくると、それがどれだけ無謀なことか理解するようになり、記念受験のつもりで剣道の試合の合間を縫って、防具を担いで面接に行ったんです。なんども警備の方に止められて、説明を求められましたよ。忘れる事の出来ない良い思い出です。

  • 実際に面接を受けてみて、どうでしたか?

    いくつかの放送局を受けたのですが、どこも面接は楽しかったです。
    当時、私は年に340日近くを剣道場で過ごしていたので、剣道関係以外の方と胸襟を開いて語り合う時間が新鮮でうれしくて。
    また、面接官も剣道界の話にとても興味を持ってくれて、面接で初めて「足の裏の皮が硬くなりすぎて、針が刺さらない」という経験が当たり前ではないという事に気がついたんです。ですから毎回、帰りの電車の中では、手ごたえこそほとんど感じませんでしたが、楽しかったという印象だけは強く残っていたんです(笑)。次の面談・面接が待ち遠しかった記憶があります。

  • NHKから内定が出たときの周りの反応は?

    大学の教授に「NHKにアナウンサーとして採用が決まりました」と報告したとき、にわかに信じてもらえず「もう1度ちゃんと確認したほうがいいよ」と言われました(笑)。私がアナウンサーとして採用されるなんて誰も信じてくれなくて・・・でも一番信じられなかったのは私自身だったかもしれません。
    母からは「これからが大変よ」と言われたのですが、その言葉の重さは入局してから骨身にしみました。

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たくさんの言葉に支えられ、今がある。
  • 新人のころは、どんなアナウンサーでしたか?

    何もできないアナウンサーでした。できないことが多すぎて、できないことにめげている時間もなかったくらいです。ニュースもちゃんと読めなかったし、ナレーションなんてもってのほか。取材して、その中から何をピックアップして原稿に盛り込むか?そういった基礎も全て入局後に教わりました。
    ですから、ただただ必死に、がむしゃらに目の前の仕事をやるだけでした。元気のよさと地道な努力は、剣道で鍛えられていましたから。

  • つらいことの多い新人時代だったのですか?

    ミスが続き落胆する日々ではありましたが、私はまわりの人たちに恵まれていました。当時の先輩も上司も、私のできないところをただ指摘するのではなく、「ここがいいから、それを次につなげよう」と言って指導してくれました。だから「へこたれないぞ」と思うことができました。
    また中継先でも、緊張している私を見かねて地元の方が「落ち着いて」と励ましてくれたし、中継後には「取材してもらえて良かった」、「今日は来てくれてありがとう」と言葉をかけてくれて。それが、仕事のモチベーションや原動力につながっていました。そういうたくさんの言葉や優しさに支えられた新人時代だったと思います。

  • 先輩や上司からの言葉で印象的だったのは?

    「女性アナウンサーの新たなロールモデルになりなさい」と。私は、入局3年目に出産したのですが、妊娠がわかったときこのままアナウンサーをつづけていいのか迷っていました。そんなときに先輩から言ってもらった言葉です。「後輩たちにこういう道もあるのだと伝えることのできる、そんなロールモデルになりなさい」と言ってもらえたことで、出産と子育て、そして仕事を両立していく勇気をもらいました。

  • アナウンサーとして大きな影響を受けた仕事は?

    水戸局で経験した東日本大震災です。公共放送としての役割や責任を痛感する出来事でした。当時息子は2歳。身を縮めて震える息子を夫や義理の両親に預けて局に向かった時の恐怖心は今も忘れられません。「職場に行ってきなさい。息子のことは私たちに任せて」という義母の一言が無ければ、きっと即座に動くことはできませんでした。未曽有の災害を前に、自分には何が出来るのか、何をしなければならないのか。刻一刻と状況が変化する中で、常に突きつけられていました。震災から数日後、NHK水戸放送局に一通のメールが届きました。「子どもに飲ませる粉ミルクが無くなりそうだ」という不安を抱えた母親からの切実な声でした。ラジオでそのメールを紹介すると、その日の午後にはNHKに粉ミルクや紙おむつが届けられた様子を見て、涙がこみ上げてきました。乳幼児を抱え避難所で不安な日々を過ごす親、足腰に不安を抱えているおじいちゃんやおばあちゃんなど・・・。私たちが発信する情報が誰のために、どのような状況下の人のためのものなのか?常に想像する必要があると強く認識した瞬間でした。

  • 自分が成長できたかなと思えた瞬間は?

    いまだ仕事で納得した経験がないのですが、あえて言うと生放送や、そこで起こるハプニングを楽しめるようになったときです。それまでは、事前に考えた構成や台本通りに中継やプレゼンをやることに必死で、何かハプニングがあると頭が真っ白になってしまっていたんです。
    でも、現場に立ち、その場の空気感や温度を感じながら、その場で起こること、たとえそれが想定外のことでも臨機応変に対応して、台本以上の成果が生まれた時の達成感を知ることができました。
    そのことで、少し成長できたかなと感じましたし、仕事がより楽しくなりました。

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自分を飾らず、自分らしく。
  • これから、やってみたことは?

    目の前の仕事に全身全霊で向き合うだけです。毎回満点を目指して、誠心誠意取り組むものの反省ばかり。ただリポーター、中継、スポーツ、そしてナレーションやラジオと、さまざまな仕事をやらせてもらっているので、その中で「私、こういうのもできるようになったんだ!」と少しずつでも自分の幅をもっと広げていきたいと考えています。
    そこで新しい自分を発見できることも多いし、やりがいを日々感じています。

  • 理想とするアナウンサー像はありますか?

    常に『未完成なアナウンサー』でありたいと思っています。完成を目指さないという事ではなく、日々成長を目指し続けるという意味で。
    未完成ということは、まだ伸びしろがあるということだし、発展途上だということです。現状に満足することなく、歩みを止めずに、一歩、一歩先を目指すアナウンサーでありたいし、人間でありたいと考えています。

  • 母親として、目指すことはありますか?

    長男は今12歳。息子も剣道をやっていて今度全国大会に出場するのですが、私に勝ちたくて、勝負を挑んできます。これまでは返り討ちにしていましたが、私は稽古がほとんどできないので、そろそろ勝てなくなるかなと・・・。
    でも、「負けたくない!」(笑)。下には2歳の子もいますので、私も子どもたちと一緒に成長しつづけたいし、パワフルな母親でいたいなと思っています。

  • 日々、忙しいと思いますが、リフレッシュ法は?

    仕事の疲れは子育てで、子育ての疲れは仕事でリフレッシュしています。
    仕事の疲労が蓄積した時、息子をギューッと抱きしめて頭の匂いを嗅ぐと不思議と落ち着くんです。長男には嫌がって逃げられますが・・・。逆に子どもたちと公園で走り回り肉体的に疲れた時や独りの時間が欲しい時、職場でコーヒーを飲みながらパソコンに向かう時間を尊く感じて、集中力が高まったりするんですよね。
    私の場合、仕事と子育てという二足のわらじで生活していますが、自分にはこのスタイルが合っているのではないかと思っています。

  • アナウンサーを目指す人へアドバイスを。

    誰にでも欠点はあると思います。でも、それを隠そうとせず、向き合ってほしいと思います。私はこれまで、自分の欠点だと思うところを相手にぶつけることで壁を取り払ってきました。
    「アナウンサーになりたい」とか「こういうことをやってみたい」と思ったときに、自分の欠点を卑下して諦めるのではなく、是非隠さずに相手にぶつけてみてください。あなたが欠点だと思っていることが、実はあなたの武器や魅力になるかもしれませんよ。

  • 正面突破する勢いが大切ということですか?

    はい。勢いと正直さですね。アナウンススキルも何もない私が狭き門を突破できた理由は、「欠点を隠さず(隠すことが出来ず)、ありのままの自分をさらけ出したから」だと私自身は感じています。面接で繰り返したのは「剣道しか知らない私ですが、そのぶん伸びしろがあるはず。そこを見て下さい」という強い気持ち。
    うそやたてまえといったよろいで武装せず、幼い等身大の自分を面接官に披露した結果、私の欠点を魅力に変えるヒントをくれた面接官もいました。何かやりたいことを見つけた時、自分の欠点を卑下して諦めたらそこで終わりです。たとえ結果が希望通りにいかなかったとしても、挑戦することで開かれる扉や道があるんです。だからこれからの未来を作る皆さんには、是非怖がらずに一歩前へ踏み出してほしい、そう願っています。
    ありのままのあなたの姿に共感してくれる人が、必ずいるはずですから。

  • ありがとうございました。



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