NHKアナウンス室

アナウンサー仕事の流儀

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インタビュー 渡邊佐和子

09/04
宝塚にあこがれた高校時代。
  • 渡邊さんはダンスが得意だとお聞きしていますが、
    小さいころから習っていたのですか?

    小学校の3年生からクラシックバレエを習っていました。私は、どちらかというとおてんばだったし、堅苦しいイメージがあったクラシックバレエなんて嫌だと思っていました。でも、母親がバレエ好きで「子どもに習わせたい」と最初は無理やり教室に連れて行かれていたのですが、習いはじめてみるとすごく楽しくて、すぐに大好きになりました。身体を動かすこと、踊ることが自分の気質に合っていたのだと思います。そこから大学1年生まで10年ちょっとクラシックバレエは続けました。

  • ↑高校二年生の時。海賊のバリエーション。
    ジャンプが得意でした。

  • ↑元バーミンガムロイヤルバレエ団で
    ファーストソリストとして活躍した、山本康介さんと。

  • そして、タカラジェンヌに憧れていたそうですね。

    ずっと憧れていました!
    小学生のときに涼風真世さんの『ベルサイユのばら』を観て「なんてステキな世界なんだろう!」と感激して、それからずっと憧れていました。

  • 『闘牛士 マタドール』がテーマ。衣装は手作り。

  • 実際に宝塚歌劇団を受験されたのですよね。

    はい、3回受験しました。
    そのうちの2回は最終面接までいったのですが、結局ダメでした。最終面接では、バレエと歌と面接がありますが、歌がもう本当に苦手で・・・緊張するとうまく声が出なくなる。アナウンサーになって克服しましたが、それまでは人前に立つとガチガチになっていました。ダンスはある程度自信がありましたが、歌の面接では緊張で声がほとんど出なかった記憶があります。
    3回目の受験に失敗したときは、「夢破れたり」ということで本当に落ち込みました。合格発表を見て、東京に帰ってくる道中ではずっと泣いていました。途中、あまりにも落ち込んでいる私を元気づけようと母親が「平安神宮の桜が今きれいだから見に行こう!」と連れて行ってくれましたが、そのときの記憶がほとんどなくて・・・高校生にして、絶対にかなわない夢もあるのだと知って、本当に立ち直れないくらい落ち込みました。
    大学に進学しても踊ることは相変わらず好きで、学生同士で集まってミュージカルや英語劇をやったりしていました。だけど、あれだけ大好きだった宝塚歌劇団の公演は観に行けなかったですね。

  • その後、どうして
    アナウンサーになりたいと思うようになったのですか?

    学生同士で集まって舞台公演の準備をしていたとき、たまたまテレビでイラク戦争の映像を目にしました。私たちは舞台で、愛や友情、青春はすばらしいと叫んでいるけど、その一方でミサイルが飛んで来る恐怖の中で生活している人がいる。「なぜ、戦争のない世界や、貧困のない世の中はやって来ないのだろう?」と、漠然とそういうことを考えるようになり、ジャーナリズムという仕事を意識するようになりました。同時に自分の身体と声を使ってできる仕事って何だろうと考えていた時期でもあったので、アナウンサーという職業に興味を持つようになりました。
    それからは必死にアナウンサーになるための勉強を続けました。ですから、NHKに受かったときは、本当にうれしかった!それまでは、友人が宝塚の舞台に立っていても、観に行くことができなかったけど、そのころからようやく観に行けるようになりました(笑)。やっと、大きな挫折を乗り越えることができたのかもしれません。

09/11
今でも試行錯誤の日々です。
  • 渡邊さんはよくナレーションを担当されていますが、
    ナレーションは昔から得意だったのですか?

    そんなことはありません。ただ、私がナレーションを読むときの原点というべき出来事が最初の赴任地である熊本放送局にいたころにありました。
    まだ、ドキュメンタリーとは何かも分かっていない私に、ナレーションをやってみないかと言ってくれた先輩ディレクターがいました。彼は長期間にわたって、不慮の事故で両手を切断してしまった画家、大野勝彦さんのドキュメンタリーを撮影していました。
    ナレーション収録の前に、ディレクターと一緒に大野さんのところにあいさつに伺ったときのことです。大野さんは「渡邊さん、僕は自分の恥ずかしい部分も、人に知られたくない過去も、全部カメラの前にさらけ出し、正直に話した。それを彼(担当ディレクター)はすべて受け止めてくれて、いいドキュメンタリーにしてくれていると思う。でも、それを伝えるのはあなたです。よろしくお願いします」と言われました。
    その言葉は私にとってとても重く、同時にナレーションの一つ一つの言葉に真摯に向き合うことの大切さを教えてくれました。今でもナレーション原稿を読むとき、大野さんの言葉を思い出します。

  • ナレーションを読むときに
    特に心がけていることは何ですか?

    まず一視聴者になります。たとえば、そのドキュメンタリーが放送されるのは何曜日の何時なのか?ゆっくりしている土曜日の昼間の時間帯か、仕事で疲れた平日の夜なのか?同じ映像、同じナレーションでもそのときの状況で受け取り方は違ってくると思うので・・・。オンエアの時間帯はとても大切で、そのとき視聴者の方はどんな気分で、その番組を見るのかを想像することからはじめます。

  • そのほかに、ナレーションを読むときに
    大切にしていることはありますか?

    あとは、映像とナレーションの距離感ですね。映像に寄りすぎてしまうとダメです。ETV特集で『薬禍の歳月〜サリドマイド事件・50年〜』(2015年放送)というドキュメンタリー番組のナレーションを担当したときのことです。それは、妊婦が服用した薬が原因で重い障害をおった子どもが次々に生まれたという薬害事件を扱ったドキュメンタリーでした。中高年になった被害者が、改めて人生を振り返るという番組で、インタビューで語られている言葉の一つ一つが胸に突き刺さりました。
    リハーサルではじめて映像を見ながら台本を読んだのですが、私はずっと涙をこらえるのに必死でした。すると担当のディレクターがやって来て「全然、ダメだね。まず、距離感が間違っている。そんなにベタベタ読まれたら、見ている人たちは興ざめしちゃう。もっと突き放して読んでほしいのだけど」と言われました。でも私は、突き放せと言われても、具体的にどうすればいいのか分からない。そのあと、すぐに本番だから先輩に相談に行くこともできない。
    そこで、自分なりに考えて、事実を淡々と伝えることに徹しようと思いました。そして声のトーンはもっと低くしたほうがいいのか、硬い感じにしたほうがいいのかと試行錯誤しながら本番に挑みました。

  • 結局、そのディレクターはOKを出してくれたのですか?

    本番では「うん、良くなった」と言ってもらえました。
    そのドキュメンタリー番組は、内容が本当にすばらしかったので、放送文化基金賞の最優秀賞と、文化庁芸術祭のドキュメンタリー部門の大賞をダブルで受賞しました。もし、私のナレーションがディレクターに納得してもらえないまま放送されていたら、この作品はどう評価されていたのだろうと考えると怖くなります。
    ドキュメンタリーのナレーションは本当に難しくて、今でも試行錯誤の日々です。

  • 「薬禍の歳月~サリドマイド事件・50年~」が、
    文化庁芸術祭テレビ・ドキュメンタリー部門大賞受賞した時、授賞式で制作スタッフと。

09/18
「歴史は、実用品なんだ」。
  • 現在担当されている『英雄たちの選択』について教えてください。

    『英雄たちの選択』という番組は私の人生を変えました(笑)。
    学生時代、日本史はどちらかというと嫌いな科目でした。教科書に登場するのは男性が多いし、その人たちに感情移入もできない・・・「戦国時代はおもしろいね」と言われても、いつも鎧(よろい)を着て戦ってばかりで何がおもしろいのだろう?と思っていました(笑)。でも、今は違います!歴史上の人物に共感できるし、その人の人生と自分の人生を重ね合わせ、そこから多くのことを学べるのがとても楽しいのです。『英雄たちの選択』という番組に出会えて本当に良かったと思っています。

  • 歴史が嫌いだったのに、
    どうしてそこまで好きになれたのですか?

    やはり、一緒にやらせていただいている歴史学者の磯田道史さんのおかげですね。教科書だけだと「ふーん、こういう人がいて、こんな出来事があったのか」で終わってしまいますが、磯田さんはその人物のことをまるで仲良しの友だちのように語ってくれるし、過去の出来事も実際に見てきたかのように教えてくれます。話を伺っていると、歴史上の人物がすぐそこにいるような感覚になります。
    この番組では様々な分野の最先端で活躍されている専門家もゲストでいらっしゃるので、過去の話だけではなく現代につながる話が聞けるのも楽しいですね。
    また、磯田さんは「歴史は実用品なんだ」といつもおっしゃいます。過去のものではなくて、今の生活にすぐに使える知識や知恵、教えがたくさんあるのが歴史だから、それらをどんどん活用しないともったいないと。

  • 番組では、有名な人物だけでなく、
    知られざる人物も取り上げていますね。

    教科書では紹介されていない人物も数多く紹介しています。有名ではないけれど、そういう人たちの決断や選択が歴史の本筋にどのような影響を及ぼしたのかを知ることはとてもおもしろいし、そういう人たちの存在をちゃんと伝えたいという使命感みたいなものも感じています。
    昭和の人物を紹介するときには、まだ評価が分かれる部分もあるので『昭和の選択』というタイトルで放送していますが、ぜひみなさんに知ってもらいたいと思える方がたくさんいます。
    たとえば、日本が戦争へと突き進む中で、国会で粛軍演説をした斎藤隆夫や、大津波対策として防潮施設を作った岩手県普代村の元村長、和村幸得。その防潮施設は東日本大震災の津波から多くの村の人々の命を救いました。
    あまり知られてはいないけれども、それぞれの時代や今の時代に影響を与えた人はたくさんいます。そういう人たちのことを知り、そこからいろいろなことを学ぶのは本当に楽しいことです。

09/25
仕事も、プライベートも充実しています。
  • MCをされている『土曜スタジオパーク』は、
    本当に楽しそうですね。

    楽しいです!
    バラエティーやドラマでも活躍されている渡辺直美さんと、女優としてキラキラ輝いている足立梨花さんと一緒に担当させてもらえて、本当によかったなと思っています。
    この番組では、ゲストの方とのトークが最大の見せ場というか、見どころなのですが、堅苦しい感じは一切なくて、視聴者の方と同じ目線でゲストの方に話を伺っています。渡辺さんも足立さんもとても明るくてキュートなので、番組を見てくださる方も自然と笑顔になっていただけるのではないかなと思います。

  • 特にゲストが女性の場合は、ほとんど女子会のようなトークが繰り広げられています(笑)。進行役は足立さんで、渡辺さんは自由!生放送だし、もちろん台本はありますが、その台本に渡辺さんのセリフは書かれていません。そのときに感じたこと、思ったことを自由にゲストの方に聞いてもらっています。私の役割は、お2人から出てこなかった質問を振ってみたり、話しを軌道修正したりすることですね。
    肩肘張らない自由な雰囲気の中で番組が進行していくので、ゲストの方もほかでは話さないようなこともこの番組で話してくださって、そこにいる全員が楽しみながらやっています。そして、その和気あいあいとした雰囲気の中にテレビの前の方も一緒に参加しているような気分になってもらえればいいなと思っています。

  • 最後に、渡邊さんのプライベートについても教えてもらいたのですが、
    今の一番の楽しみは何ですか?

    プライベートでは、歴史が好きになったので、遺跡に行ったりしています(笑)。常に、日本史の教科書と歴史の地図帳を持ち歩いていて、時間がある時は地図帳を広げて行ってみたい遺跡や歴史的な場所を探しています。
    先日も、千葉県の加曽利貝塚に行ってきました。本当に巨大な貝塚で、それを見ているだけでもワクワクしました!
    今、私の中では歴史ブームなのです(笑)。

  • 旅も好きですが、そこに歴史が加わると時空の旅になります。空間を移動するだけでなく、歴史を知っていると過去へトリップすることもできる。時間軸の旅ができることで、旅の楽しさが格段に広がったし、人生の幅も大きく広がりました。
    学生時代は、踊っているか、歌っているか、舞台を観に行っているかだったので、今、改めて歴史を勉強しているところです。しかも、とても楽しみながら(笑)。『英雄たちの選択』でご一緒させていただいている歴史学者の磯田道史さんの「歴史は実用品なんだ」という言葉を胸に、まだまだいろいろな遺跡や歴史に登場する場所に行ってみたいです。
    歴史が私の人生をこれほどまで豊かにしてくれるとは、数年前までは想像もしていませんでした。

    仕事とプライベートがリンクしているなんて、本当に幸せなことだと思います。ありがとうございました。

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