NHKアナウンス室

アナウンサー仕事の流儀

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インタビュー 池田伸子

大嫌いが、大好きになりました。
11/06
自分が経験したことは、
自分の言葉で話せる。
  • 池田さんが幼少時代を過ごしたのは、
    どのようなところですか?

    私が生まれ育ったのは、新潟県の田んぼの真ん中にぽつんと家があるようなところです。周りは見渡す限り山ばかりで、冬になれば雪で一面真っ白な世界になります。私は、そんな環境がどうしても好きになれなくて、早く出て行きたいと思っていました。
    故郷を出たい一心で、東京の大学へ進みました。それまでテレビの中でしか見たことのなかった世界が目の前に広がっている。山ではなく、見渡す限りビル群です(笑)。まるで夢の中にいるような気分でした。
    ただ、大学の4年間は就職するための4年間だと考えていたので、入学と同時に就職するためには何をやればいいだろう?ずっと続けていける仕事はどんな職種だろう?と考えはじめました。うちは裕福ではなかったし、東京に出るときにも「4年間しか助けてあげられないからね」とも言われていたので、最短で卒業して自分が自立できる仕事を見つけることが、私の最大のミッションだったのです。

  • 大学入学と同時に就職のことを考えはじめたということですが、
    アナウンサーを志望するようになったのは?

    大学3年生や4年生を対象にした就職セミナーに、1年生のときから参加していろいろな会社の話を聞いていました。その中で、ミーハーだった私が興味を持ったのがマスコミ関係でした。故郷で見ていたテレビ、新聞、雑誌などの華やかな世界に身を置きたいと漠然と思うようになりました。3年生になると実際にマスコミ関係の会社の面接をたくさん受けました。そこで必ず聞かれるのが志望動機です。漠然とマスコミっていいなと思っていた私には当然うまく説明することはできません。
    でも、いろいろなところで話を聞いているうちに、しだいに自分が本当にやりたいことが分かってきました。現場に出向いて、真っ先に新しい情報にふれて、自分の目で見たもの、感じたことを自分の言葉で伝えることができるアナウンサーという仕事です。

  • アナウンサーになるためにどんな準備をしましたか?

    アナウンスについて学べる学校は、どこも私にとっては授業料が高額で・・・その中で「これなら私でもどうにかなるかも」と思ったのが、NHK放送研修センターの夏季限定のアナウンスセミナーでした。すぐにアナウンサーとしての技術が身につくとは思わなかったけど、せめてアナウンサーの試験がどんなものか知っておきたくて通いました。

  • NHKの採用試験で受けた面接のことは今も覚えていますか?

    鮮明に覚えています。面接官の方に「生れ育ったのはどんなところだったの?」と聞かれました。「冬は、雪しかないところです」と自分で見て感じていたことを正直に話しているうちに、不思議なのですがどんどん言葉が出てきました。「冬の雪が溶けていくにつれて、いろいろな匂いが立ち上がってきます。土の匂い、草花の匂いなど、私はそんな初春が一番好きでした・・・」と。面接官の方がそんな私の話を黙って聞いてくれたのがうれしかったのを覚えています。またその面接では、自分のことを自分の言葉で話せたと感じました。このとき、自分にしか語れないことは、実際に自分が経験したことなのだと学びました。

11/13
「迷惑はかけ切れ」。
  • 熊本でアナウンサーとしての仕事をはじめることになります。

    はい、初任地は熊本放送局でした。5月のはじめに赴任しましたが、熊本に降り立ったとき、5月なのに暑かったことを覚えています。新潟育ちの私には、熊本の陽射しはとても眩しかったです。そして、「ここで暮らし、ここでいろいろなものを見たり、体験したりするのだ」と思うとワクワクしました。

  • でも、仕事をはじめるとワクワクばかりではないのでは?

    すぐに打ちのめされました(笑)。「私にはこの仕事は向いてない」と思ったほどです。
    私は何も知らない。物事を知らないとインタビューをするにしても、何を聞いていいか分からない。どの部分を突き詰めて聞けばいいのかが分からない。下調べするにしても、何を準備すればいいのか整理できない。ですから、インタビューにも時間がかかりました。
    そしてインタビューしてきたものを上司や先輩に見てもらうと「ここ、聞き足りないよね」とか「この話をもっと掘り下げないといいインタビューにはならないよ」と言われてしまいます。そして、もう一度インタビューしに行く。その繰り返しでした。ですから、インタビューを受けてくださる方に本当に申し訳なくて。何度も、何度も「すいません!」と言いながら、「迷惑ばかりかけてごめんなさい!」と思いながら、インタビューをするとういう日々が続きました。

  • そんなとき、先輩から何かアドバイスはありましたか?

    「迷惑はかけ切れ!」と言われました。
    先輩から言われたその言葉は今も胸に残っています。「中途半端に取材して、中途半端にその人のことを伝えたって、その人の良さは何も伝わらない」と。「徹底的に迷惑をかけろ。その代わり、迷惑をかけた以上のことを放送で伝えなさい。その人の努力やすごさを、自分の言葉でしっかり伝えなさい」と言われました。
    このアドバイスは、私にとってアナウンサーを続ける勇気や目標になりました。また、インタビューを受けてくださった方に「あなたに話をすることで、自分がやっていることを今一度振り返ることができたので、いい時間でしたよ」と言ってもらえたこともうれしかったです。
    でも、迷惑はかけないほうがいいに決まっています。的確な取材で、魅力ある話を聞き出すことは、今も私の課題になっています。

  • 現在、『コズミック フロントNEXT』では
    ナレーションを担当しています。

    専門知識や難しい言葉も出てきますが、私はロマンが詰まった壮大な映画のような番組だと思っています。ナレーションでは、あるときはワクワク感を、あるときは緊迫感を声で表現したいと思ってやっています。
    ナレーション原稿を受け取ったら、私が読むところだけでなく全体をまず読んで、自分のパートが全体の中でどういう役割を果たすパートなのかを理解するように努めています。理解した上で、そのパートをどのように声で表現するのがいいのかを模索します。

    サイエンスの番組でも、ナレーションの表現に変化をつけるんですね?

    何か新しい発見があった場面では、「ここから、すごいことがはじまるかもしれない」というワクワク感を表現したいし、惑星が地球に衝突する可能性があるかもしれないという場面では、緊迫感や緊張感を表現したいと思っています。 女性アナウンサーでもう1人、先輩の中條誠子さんもナレーションを担当されているので、いつも先輩の技を盗もうと思っていますが、なかなか難しいです(笑)。
    同じ原稿でも、私が読むのと中條先輩が読むのとでは、情報の伝わり方が違います。声のトーン1つで、目の前に流れている映像がより臨場感あふれる映像になることもあるんです。そういうことをこの番組で勉強させてもらっています。

11/20
音で、8Kの美しさを。
  • リポーターを担当している『ごごナマ』では、
    どんなところを楽しんでもらいたいですか?

    イメージとしては、気の合う仲間たちが集まって、情報交換している感じです。そこに、それぞれのテーマに精通した先生もいらっしゃいます。その井戸端会議に視聴者の方も参加している気分で見ていただけるとうれしいです。
    そして「今日は、いいこと聞いちゃった!」と思っていただけると最高です。そのためには、たくさんある情報の中から、どの情報やアイデアを紹介したらいいのか、先生も参加していただいてスタッフみんなで話し合っています。私も生活者の1人として「自分だったら何が役立つかな?」と自問自答しながらやっています。
    テレビの前のみなさんには、私たちのプレゼンや「おしゃべり」を楽しんでいただきながら、ふだんの暮らしですぐに役立つ、すぐに使える情報をお届けしたいと思っています。

  • 新たに担当することなった
    『ファミリーヒストリー』について聞かせてください。

    自分の両親はどのような経験をしてきたのだろう?自分の家族にはどのようなルーツがあるのだろう?それを知りたいけど、改まって両親や親戚に聞くのもちょっと照れくさかったり、また亡くなっていたりすることもあります。目の前には日々の忙しい仕事や暮らしがあるので、なかなか自分で両親や家族のルーツを調べる時間もない。それならば、この番組がゲストの方のファミリーヒストリーを探る旅にお連れします、というのがコンセプトです。

    たとえば、父親がどうしてその道を選んだのか?祖父はこの土地に足を踏み入れたのか?など、ゲストの方のご家族の決断や、思い描いていた夢などを解き明かしていきます。もちろん、そこにはプラスの感情もあるし、マイナスの感情もあります。思ってもみなかった言葉がご家族の口から飛び出すこともあります。
    ゲストの方はもちろんですが、取材映像を見ている今田耕司さんと私も思わず感動してしまうこともあります。この番組は、家族にまつわる壮大なドキュメンタリーだと思います。

  • 番組では、どのようなことを心がけていますか?

    今田耕司さんは、ゲストの方との距離も近いので、どんどん話を聞くことができるのですが、少し距離の離れた私が何を聞けるか?何を聞くべきなのか?をいつも考えています。せん越ですが、それぞれの方のヒストリーに自分を重ね合わせながら、少しでも本音が聞き出せたらと思っています。
    映像やインタビューを見ていると、ゲストの方と同じように感動したり、動揺したり、気持ちが大きく揺さぶられます。でもそこで、アナウンサーとして、今田さんとはまた違った角度から、ゲストの方の素顔や本音に迫れるお話を聞き出せたらいいなと思っています。

  • ラジオでは、5分間のサウンドトリップ、
    『音の風景』という番組のナレーションも担当しています。

    これは、自然の音が主役の番組です。音のプロたちが日本全国に行って録音してきた虫の鳴き声や、川が流れる音、草が風で揺れてふれあう音が主役です。その場所にいても、しっかり耳を澄まさないと聞き逃してしまう小さな音もしっかり録音されています。表情豊かな自然の音が積み重なることで、一気にその場所の風景がリアルに広がっていきます。
    音が主役なのでナレーションは最低限に抑えられています。5分の番組で、ナレーションは5行くらいです。すごく短いけれども、それがあることで流れてくる音のイマジネーションをより鮮やかに広げるお手伝いができればと思っています。

    今はテレビで、4Kや8Kというきれいな映像が話題になっていますが、
    ラジオでも美しい風景を届けることができるということですね。

    音とナレーションで、8Kを目指します(笑)。
    ラジオを聴いてくださる方に音とナレーションで8Kのような美しい映像をお届けしたいですね。

11/27
どんどん故郷のことが好きになる。
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