NHKアナウンス室

アナウンサー仕事の流儀

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インタビュー 松岡忠幸

放送の可能性を広げたい。
07/02
お笑いと実演販売で話術を磨きました。
  • どんな少年時代を過ごしましたか?

    中高一貫校に通っていて、柔道部に入っていました。でも、弱かったですね。高校最後の大会では、お情けで個人戦に出場させてもらえたのですが、地区大会の一回戦、開始8秒、内股で一本負け。あっという間の出来事でした(笑)。

  • 大学では落語研究会に入ったそうですが・・・。

    子どものころ、自宅のダイニングテーブルで勉強していました。今で言う“リビング学習”です。母親がNHKのラジオを流しながら家事をしていたので、自然とラジオの声が耳に入ってくるわけです。いろいろな番組の中で、勉強の手を止めて聴き入っていたのが、『真打ち競演』や『上方演芸会』などです。当時は民放でもお笑い番組が数多く放送されていたので、次第に“お笑い”に対する憧れが強くなっていって、大学では落語研究会に入りました。
    とはいえ、わたしは、落語ではなく、漫才やコント。渋谷にお笑い専門のライブハウスがあり、オーディションを受けてお笑いライブに出演していました。
    また、長野県の戸倉上山田温泉が“お笑い”で町おこしをしようと「学生寄席選手権」を開催したときには、色物部門に出場しました。マネキンが「花形の紳士服売り場から、紳士肌着売り場に異動になってしまった」と悩みを告白するコントで、審査員長の立川談志師匠から審査員特別賞をいただきました(笑)。

  • “お笑い”の世界に入ろうとは考えなかったのですか?

    もちろん考えましたが、周りはすごい人ばかりだったんです。それこそ今では“お笑い”の第一線で活躍している人がたくさんいて、そういう人たちと比べると自分はおもしろくないなと思い、 “お笑い”の世界に飛び込むのは断念しました。

  • アナウンサーになろうと思ったきっかけは?

    人がまだ気づいていないおもしろいものを見つけて、それをおもしろく伝えたい。この思いは昔から強烈にありました。高校時代は、雑誌のようなものを立ち上げようとしたり、大学のときは落語研究会のホームページをつくったり・・・。何かを伝えたい、特におもしろいものをおもしろく伝えたいという思いが強くあったし、人前でしゃべることも好きだったので、アナウンサーという仕事に興味を持つようになりました。

  • アナウンサーになるために何か取り組んだことはありましたか?

    養成講座のようなところに通うことはしませんでした。ただ、舞台に立って目の前のお客さんにどうしたら笑ってもらえるかを考えたり、あと、スーパーマーケットでの実演販売のアルバイトでお客さん相手にしゃべったりしていました。
    “お笑い”もそうですが実演販売はとてもクリエイティブな仕事です。どうすればその商品の魅力が伝わるかを考えながら、話のストーリーを自分なりに組み立てていく。これは、物事を伝える訓練になったと思います。ただ、一日中延々としゃべり続けるので、かなりしんどいアルバイトでした(笑)。
    どのように話のストーリーを構築すれば人の心に届くのか、どんな言葉を選んで、どのような表情で話せば人は耳を傾けてくれるのかを、お笑いや実演販売で学びました。

07/09
大切なのは、サービス精神です。
  • 新人時代に印象に残っている番組はありますか?

    初任地は大阪放送局でした。
    東大阪はものづくりのまちで、職人がたくさんいます。もともとものづくりに興味があったので、東大阪のある鋳物工場の職人が銅鏡(青銅で作られた鏡)を今の技術で巨大化して再現しようとしていることを知り、そのチャレンジを夕方の情報番組で生中継しました。
    いよいよ本番当日。鋳型が外されて、直径1mを超える銅鏡をカメラがゆっくりパーンしながら撮っていきます。そのとき私は「ん?」と違和感を覚えたのですが、「いやいや、そんなはずはない」と疑念を振り払い、いかにそれがすごいことであるかを話し続けました。するとスタジオのメインキャスターが「あれ?ヒビが入っていませんか?」と・・・間違いなくヒビが入っていました(笑)。私は失敗するなんて思ってもいなかったので、どうフォローしていいか分からず生放送でタジタジになってしまったという苦い経験をしました。
    翌日、再チャレンジの様子を紹介することになったのですが、結果的には、その挑戦のハードルの高さと、それを諦めずに乗り越えようとする職人魂がより印象的に伝わったと思います。

  • ほかに印象に残っている番組はありますか?

    2局目の高知放送局でのことですが、うどん屋のご主人のドキュメントをつくりました。とてもユニークな方で、お客さんにお茶を出す人手が足りないからと『茶ーミネーター』というロボットを作ったり、自動でコップを洗う『ロボ・コップ』という自動コップ洗い機を作ったり・・・。そして今度は、二足歩行ロボットを作る。しかも、ロボット同士が戦う格闘大会に出場するというので、わたしは、そのチャレンジを取材して、番組を制作することにしました。
    その方は中学卒業後すぐに働き出したので、ロボットのプログラミングなどを習ったことはありません。でも、うどん屋を営みながら、独学でコツコツ勉強してロボットを自作できるまでになったのです。
    当初、わたしが、番組で大きく取り上げようと考えていたのは、東京の後楽園ホールで開催される決勝大会。しかし、それは実現しませんでした。
    予選前日、その方を訪ねると、「目が光るとかっこいいな」と言いながらロボットの目を光らせる仕掛けを作っていたんです。本当は、予選に備えて大会の規定プログラムをしっかり確認しなければいけないのに、ロボットの目を光らせることに夢中になっていました。結果、予選でロボットはうまく動かず、敗退してしまったのです。
    すごいロボットを作る方なのですが、ついつい余計なことをして失敗しちゃう(笑)。でも、いくら失敗してもめげない。今日失敗しても、明日またチャレンジすればいいじゃないかと、とことん前向きなんです!めげないんです!!わたしは取材を通して、その方の明るさと、ひたむきにコツコツ努力する姿から多くのことを学ばせていただきました。
    ちなみに、番組は『今日はダメでも明日がある〜波乱万丈ロボット親父』というタイトルで全国放送されました。

  • アナウンサーとして大切にしていることは何ですか?

    大阪放送局で、先輩アナウンサーから、「放送はとにかくサービス精神が大事だ」ということを教えていただきました。先輩の放送を見ていると、必ずどこかでクスッとさせられたり、ドキッとさせられたり、感情が動かされるんです。
    学生時代に“お笑い”をやっていたこともあり、その先輩アナウンサーの言葉はとても共感できたし、これまで自分がやってきたことは無駄ではなかったんだと励まされもしました。
    より分かりやすく伝えたい、より感動的に伝えたい、ちょっとユーモアを交えて伝えたい、そんなサービス精神を大切にしたいと思っています。

07/16
アナウンサーの仕事は、補助線を引くこと。
  • 現在、担当している『国際報道2018』を紹介してください。

    世界情勢の話は、それぞれの国の歴史や、国と国との関係が絡み合っているので、難しいし、複雑です。でも、それをやさしくひもといて分かりやすくお伝えてしているのが『国際報道2018』です。「世界のニュースなんて、きっと難しいに決まっている」なんて思わず、一度見てもらうと、「あっ、意外と分かっちゃった」と思っていただけるはずです。

  • 分かりやすい番組づくりのために、大切にしていることは何ですか?

    「アナウンサーの仕事って何だ?」と聞かれたら、僕は「補助線を引くことです」と答えます。
    たとえば数学の図形の問題で、その図形に一本線を引くだけで、「あっ、そうか!」と理解できることがあります。アナウンサーの仕事もそれと同じなんです。伝えたいことを分かりやくするために、ひと言付け加えたり、どこかを強調したり、そういう補助線が一本あるだけで、伝わり方はガラリと変わります。ですから、どこに補助線を入れたらより分かりやすくなるかを常に考えながら番組を作っています。
    また、国際情勢を語る上で大切なのが世界地図です。

  • 国境など適切な補助線の入った地図があるだけでいろいろなことが見えてきます。たとえばシリア難民の問題でも、地図を見ればシリアの隣がトルコだということが分かります。すると、シリア難民がトルコに向かうのは当然のことだと思えるし、もしトルコが難民を受け入れなくなったら、難民はトルコの先に位置するヨーロッパに向かうことになるなと、目で見て理解できます。そうすれば「なるほど、トルコがヨーロッパへの難民流入の防波堤になっているというのはそういうことか」と納得できるんです。しかもそれをコンピューターグラフィックスだけで説明するのではなく、地図の上を指でさしたり、なぞったりすることで伝わり方は格段に違ってきます。
    番組を見ていただけると「そうか、今のが補助線か!」と思える瞬間がたくさんあると思います。

  • キャスターの花澤雄一郎さんは、どんな方ですか?

    すごくバイタリティにあふれていて、明るい方です。そして、何事も自分の目で見て、耳で聞かないと気が済まない人ですね。
    花澤さんはいつも、「物事を先入観にとらわれて見てはいけない」と言っています。先入観があると、いろいろなことを見誤ってしまうし、それはとても恐ろしいことだ、と。例えば、前回のアメリカの大統領選挙では、ヒラリー候補が勝つのを前提で話していたメディアが欧米を中心に多かったのですが、花澤さんは「様々なデータを冷静に分析すると、トランプ候補が勝つ可能性は十分にある」と言っていました。
    僕たちはいつも花澤さんに、先入観を捨てて、事実は何なのかを見つめ直すことを教えてもらっています。

  • もう一人のキャスター、酒井美帆さんについても教えてください。

    酒井さんはこれまで国際報道に関わってきていたわけではありませんが、この番組では彼女の存在がとても大切です。記者の経験があるので彼女も自分で徹底的に調べないと気が済まないたちで、勉強家です。そんな彼女の感覚や意見は番組作りに欠かせません。会議でも恥ずかしがらずに「そこ、わかりません」と言ってくれます。それが、すごくありがたい。この番組は、国際情勢に詳しくない方にも、酒井さんのように若い人たちにも見ていただきたいので、彼女の「わかりません」は番組作りにとても貴重なのです。

07/23
放送の可能性を広げていきたい。
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