NHKアナウンス室

アナウンサー仕事の流儀

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インタビュー 森田洋平

「伝えたい」より「聞きたい」。
09/03
「話を聞ける」アナウンサーになりたい。
  • 学生時代にはどんな思い出がありますか?

    大学で演劇サークルに入りました。勧誘してくださった先輩たちがとてもユニークだったということもありましたが、小学校の学芸会の体験が大きかったように思います。みんなでひとつの舞台をつくり上げる感覚がとても楽しくて、それを大学生になってもう一度体験したかったのかもしれません。
    当時は、シュールな笑いが小劇場界でブームだったので、サークルでもちょっとシニカルなミニコントや即興劇みたいなものを演っていました。稽古では、順番に何かおもしろいことをやらなければなりませんでした。恥も外聞もなく何かを発しなくてはいけない。できるまで何度も順番が回ってくる。そんな稽古をやっているうちに、自分の中のまだ開かれていなかった引き出しがいくつか開いたような感覚がありました。

  • アナウンサーになりたいと思うようになったきっかけは?

    自分が何をやりたいか?将来の展望が描けずモヤモヤした学生生活を送っていました。就職活動をはじめたころも、ずっとそのモヤモヤを抱えていました。
    ただ、演劇サークルの先輩の中にテレビ局に就職した方が多くいて、話を聞いてみるととても楽しそうだったし、クリエイティブな仕事のように思えたのでテレビ関係には興味がありました。そんなとき、僕がテレビ局に興味があることを知っていた友人に「今度、アナウンサー志望の人に向けたセミナーがあるから行ってみたら?」と言われました。それがきっかけですね。
    セミナーでは、アナウンサーという仕事についていろいろ教えてもらいました。そこで思ったのが、アナウンサーとして自分は何かを「伝えたい」というよりも、いろいろなことを「聞いてみたい」ということでした。僕は特別な才能を持っているわけでもなく、ごくごく普通の環境で育ってきた人間です。だけど、誰かの話を聞いて、その言葉やメッセージを通して、ほかの誰かに何かを感じたり考えたりしてもらうきっかけづくりはできるかもしれない。そしてそれは、とてもやりがいのある仕事になるかもしれない、と考えるようになりました。

  • アナウンサーの採用試験にはどのように臨みましたか?

    NHKのエントリーシートを書きながら、どうして自分はアナウンサーになりたいのか?アナウンサーになったらどんなことをしたいのか?自問自答したことを覚えています。エントリーシートの前で、自分自身と向き合っていたんだと思います。
    たとえば、アトランタオリンピック(1996年)の女子マラソンで銅メダルを獲得した有森裕子さんが、ゴール後のインタビューで「はじめて自分で自分をほめたいと思います」とおっしゃったのを当時生放送で見ていました。
    自分の力を出し切った有森さんの言葉や涙にとても胸を打たれました。と同時に、その言葉を引き出したNHKのアナウンサーのインタビューの印象がずっと残っていて、あれこれ考えを巡らせました。「あのアナウンサーはきっとアトランタオリンピック以前からずっと有森さんを取材していて、彼女がどんな困難を乗り越え、どれだけ苦しい練習を積んできたかを知っていたのではないか。そして、それだけ見続けていたからこそ、有森さんからもあの言葉が出てきたのではないか。」
    そんなことを考えながらエントリーシートを書いているうちに、アナウンサーになりたいという思いが自分の中でどんどん高まっていったのを覚えています。

09/10
マイクを向ける覚悟。
  • 長崎放送局ではどんな新人時代を送りましたか?

    15分のテレビニュースで、長崎では誰もが知っている地名やモノの名前を立て続けに読み違えてしまうことがありました。本番中にイヤホンから「違うぞ!」とスタッフの声が聞こえてきて、その都度訂正したのですが、放送はもうボロボロです。

  • すごく落ち込んだし、自分が情けなかった。そして、放心状態でスタジオを出てきたときに、1人のスタッフに呼び止められました。「視聴者からお電話があって伝言を預かっています」。お叱りの言葉が届いて当然です。長崎の方なら誰でも知っている地名を読み違えてしまったのですから・・・。
    でもその伝言はお叱りではありませんでした。「森田さん、これにめげずに頑張ってください」。そのとき、周りに誰もいなかったら泣いていたと思います。僕はその方の言葉に救われたし、勇気づけられました。その方の気持ちに報いるためにも二度とそんな間違えはしないと誓いましたし、長崎の方々に、自分が成長した姿を見ていただきたいと強く思いました。

  • 特に思い出に残っている番組は何ですか?

    被爆者の方々を取材したラジオのドキュメンタリー番組です。悲惨な体験をした自分たちの声を全国に届けてほしいと快く取材に応じてくださる方がいた一方で、「これは、傷口に塩を塗るようなものなんだぞ」という方もいました。
    マイクを向けることが、その方を傷つける行為になることもあるのだとそのときに知らされました。誰にだって、答えたくないこと、思い出したくないこと、触れられたくないことはある。だからこそ、人にマイクを向けるときには慎重にならなくてはいけないし、こちらも覚悟を決めなければいけない。放送人として基礎になる部分をその取材で教えていただきました。

  • 取材を通してほかにどんなことを学んできましたか?

    2局目の長野放送局では夕方のニュース番組を担当しました。地域密着型の番組づくりを目指していて、ときどきスタジオから飛び出して、月曜から金曜まで、いろんな場所に特設スタジオを設けて放送していました。
    あるときディレクターが「森田くんは自転車が趣味なんだから、取材しながら自転車で移動してみれば?」と無謀な提案をしてきました(笑)。
    提案はすんなり通って、僕は月曜から金曜まで毎日、前日の放送場所から当日の放送場所まで自転車で移動することになりました。そして、その途中に行う取材の様子を夕方までに編集して放送に出しました。このときの経験はとても貴重なものになりました。

  • 自転車のスピードだからこそ見える風景があったし、車の移動では出会えない地元の方々ともふれあうことができました。自転車で走って、ふと出会った方に話を聞くという取材手法だと、人々のふだんの生活が見えてきます。そこには日常の生活の中だからこそ聞ける言葉があったし、イキイキとした表情に出会うこともできました。
    この経験を通して、何げない日常の中にある幸せの尊さや、人の数だけ幸せの尺度は違うんだということも感じられたし、僕自身の価値観も変わったような気がします。
    同時に、誰かの話を「聞く」ということのやりがいも感じられた取材でした。

09/17
視聴者の疑問を大切にする。
  • 4月から『あさイチ』 のリポーターを担当していますね。

    3月まではニュース番組を担当していましたが、『あさイチ』では、台本よりも、キャスターの博多華丸さんと大吉さん、そしてゲストのみなさんとの会話を大切にしながら進めていくというスタイルです。
    華丸さん、大吉さんはいつも真剣にリポーターのプレゼンを聞いてくださるし、ゲストの方も俳優、お笑い芸人、タレントという立場は一旦置いて、一視聴者として興味を示してくださいます。キャスターやゲストの方は、視聴者のみなさんに代わって、疑問に思ったことや関心事をその場で質問してくれるので、こちらもプレゼンをしながら「そうか、ここがわかりづらかったのか」と教えられるし、「だったらこういう説明ならどうだろう」とその場で臨機応変に考えて対応しなくてはいけません。それは、自分にとってこれまであまりなかったハードルですが、今ではそこにやりがいを感じています。
    最近ではこのような形式で話を進めていく番組も多くなりましたが、『あさイチ』はその先駆的な存在だと思います。
    そして、本当に「面白い、分かりやすい」ということに誠実な出演者やスタッフばかりなので、このチームの一員になれたことにとても感謝しています。

  • 番組で最も大切にしていることは何ですか?

    『あさイチ』という番組には、視聴者の方々が関心を寄せそうなことならどんな話題も取り上げるという懐の深さがあります。そのため、世の中の人々は、どんなことに興味を持っているのか?どんな情報を今必要としているか?ふだんの生活の中で見つける努力を、『あさイチ』のチーム全員がしていると思います。
    そして、実際に視聴者の方々が興味を持ってくれるかどうか毎回議論を重ねているし、より多くの人々の声や思いを聞くことにもとても貪欲です。番組づくりにおけるこのスタイルは『あさイチ』という番組がスタートした当初から変わらず貫かれているし、今後も変わることのない番組の背骨だと思います。

  • 『サイエンスZERO』では、どんなことを心がけていますか?

    取り上げている内容は最先端の科学や技術なので、結構難しいこともあるのですが、それをいかに分かりやすくするかにスタッフ一丸となって努力しています。正直、慣れないころには、内容を理解し、かみ砕こうとして知恵熱が出そうになったこともあります(笑)。

  • こう言うと難しそうな番組だと敬遠する方もいるかもしれませんが、そこは大丈夫です!なぜなら、この番組にはとても好奇心旺盛な小島瑠璃子さんがいるからです。
    スタジオには、毎回、日本で最先端の研究をしている科学者をお迎えてしているのですが、小島さんは素朴な疑問から本質的な鋭い質問まで、臆することなくどんどん聞いていきます。質問は事前に決められているものではなく、VTRを見たあとに、小島さんがそのとき感じたこと、分からなかったことです。すると、質問を受けて立つ科学者の方も、まるで優秀な学生に出会えたかのように、目を輝かせて説明してくださいます。小島さんに「そっか、そういうことか!」と言ってもらえるように、カメラが回っているのを忘れて、できる限りわかりやすく説明してくれるんです。

  • 『サイエンスZERO』は生放送ではありませんが、収録の場ではどんな話が飛び出すかわからず、とてもライブ感がありますし、僕もそれを大事に進行することを心がけています。スタッフもそんなライブ感を生かした番組作りをしているので、小島さんの疑問や感想を追っていくと、理解がより深まる内容になっているのではないかと思います。これまで難しそうな番組だなと思って敬遠していた方にも、ぜひ一度見ていただきたい。知恵熱を出すようなことは絶対にありませんから(笑)。

09/24
縁の下の力持ちになりたい。
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