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【シケセン⑪】主権者教育 最前線

シケセン
シケセン

2017年03月23日

【シケセン⑪】
主権者教育 最前線

投票合計

12

シケセン【シケセン】とは・・・

「試験に出る(?)選挙」の略称。このコーナーでは、学校のテストや入試で役に立つような知識を紹介します。解説は、NHKの選挙プロジェクト、通称「選挙プロ」の記者が担当します。

ブーム到来?「主権者教育」

主権者教育」は、「主権者として必要な知識や、自ら判断する力、行動する力などを身につけるための教育」のこと。代表的なものとしては、選挙の歴史や制度の仕組みを学ぶ「選挙講座」や、実際にあった選挙や地域の課題を題材にして投票を体験する「模擬投票」などがある。

女子高生

うちの学校でも、選挙講座があったよ。

18歳選挙権の導入を受けて、主権者教育は一種のブームになった。
2015年度は、約1,650の高校で実施され、2013年度の約50倍となる45万人あまりの高校生が受講したんだ。

女子高生

すごい数だけど、効果はあったのかな?

2016年の参院選の投票率を見ると、20代が30%台だったのに対し、18歳は51%あまり。

大分県では、県内の高校3年生の投票率が70%を超えたとみられるという調査結果が出ているんだ。

女子高生

70%ってすごいね。主権者教育の効果のあらわれじゃない?まずは「投票に行く」って、大切だし、最初が肝心だしね。

そして今、主権者教育は、学校だけでなく様々な場所で行われているんだ。
実際に、こうした取り組みの現場を取材してきた。

女子高生

お、なんか記者っぽい…って記者だけどさ(笑)

【現場①】青森県「高校生模擬議会」

シケセン⑪

2017年2月、青森県で、選挙管理委員会などが主催する「高校生模擬議会」が開催された。

県内5つの高校の生徒が参加し、県の活性化策について、現職の県議会議員と意見を交換したんだ。この日のために、生徒たちは、2016年の秋から学校ごとにグループワークを重ねてきた。教員のサポートを受けながら、青森県が直面している課題を見つめ、効果的な政策などを検討して、模擬議会に臨んだんだ。

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議員の前での発表

県議会の議場を模した会場で、議員と向かい合う形で席に着いた生徒たち。多くの聴衆に囲まれ、緊張感が漂う中、模擬議会はスタートした。

トップバッターとして登場した高校が提案したのが、県の主要産業である農林水産業と観光業の連携だった。中でも、観光の集客力が低下する「秋」「冬」向けの企画として、りんご農家の収穫作業や、冬の雪かきボランティアなど、青森ならではの体験ができるツアーを提案したんだ。

さらに、新規就農者や外国人観光客を取り込むために、交流窓口などの受け皿作りが必要だと訴えると、大きくうなずいたり拍手したりする議員もいた。

女子高生

確かに良いアイディアだね。りんごの収穫体験、私もやってみたい。

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ほかの高校からも、人口流出を防ぐために、高校生向けのポイントカードを活用して地元に愛着を持ってもらう試みや、県内の大学に魅力的な学部を設置して欲しいという要望など、若者らしい発想から生まれた提案が披露されていた。

こうした高校生の提案に対し、議員からは様々な質問や感想が飛び出し、生徒たちとのやりとりも盛り上がった。中には「次の議会で具体的な政策として取り上げたい」と意欲的に話す議員もいた。生徒だけでなく、議員にとっても、新しい発見を得られた有意義な場となったようだ。

高校生からは「地域を詳しく知ることで、政治や選挙が身近なことだと感じた」、「将来について真剣に考えることで、青森の未来が不安になったが、好きにもなった」、「議員さんたちがどういうことを考えているのか少しわかったので、自分なりにしっかり考えて1票を投じたい」といった感想や決意の声が聞かれたよ。

女子高生

生徒にも議員にもウィン・ウィンの関係。これはいいな。自分の意見をしっかりと聞いてもらえるなら、私だって真剣に考えちゃうよ。

【現場②】富山県「市長候補者体験セミナー」

シケセン⑪

2017年3月。富山県では「市長候補者体験セミナー」が開催された。

これは、架空の市長選の候補者として、政策の議論や演説、投票などを体験してもらおうというイベントだ。この日は、高校生や専門学校生、社会人など、10~30代の若者が約40人集まった。グループに分かれて、市の特徴や課題がまとめられた資料を参考にしながら、「地域産業」や「子育て・教育」などの5つの分野から政策テーマを選び、問題点や解決策を出し合っていた。

はじめは、ぎこちない雰囲気のメンバーも多かったけれど、「他人の意見を否定しない」「雑談もOK」といったルールのおかげで、どんどん議論が深まっているようだった。短い時間の中でもアイデアをぶつけ合いながら、市長として訴えたい政策を練り上げていったんだ。

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続いて、グループの代表者による「市長候補者としての演説」。
少子高齢化や地域産業の衰退といった市の課題に対して、「共働き家庭の子育て支援」や「公共交通機関の充実」、「駅周辺のにぎわい創出」などの政策を提案し、市を盛り上げていきたいと訴えていた。

中でも、注目を集めたのが、「学校企業連携制度」を提案した候補者だった。
大学や専門学校と、企業が連携して、内部就職制度を導入するというアイデアで、いわゆる推薦入学や内部進学のようなシステムを、就職にも積極的に取り入れようと訴えたものだった。

就職・採用活動の負担軽減につながるだけでなく、入社前から研修などに参加することで、学生は入社後の不安が和らぎ、企業は人材育成に時間をかけられると主張。市にとっても、若者の人口流出に歯止めをかけるメリットがあると説明すると、会場から大きな拍手がわいていた。

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最後は、いよいよ投票だ。本物の選挙さながらに、投票箱や投票用紙が用意され、参加者たちは緊張した面持ちで、それぞれの思いを託した1票を投じた。

すべての投票が終わると、その場で、すぐに開票が行われた。「学校企業連携制度」を提案した候補者が、ほぼ半数の票を集めて、新市長に選ばれる結果となった。

参加した高校生や専門学校生は「政策を考えて人に伝えるという、候補者としての難しさを体験することができてよかった」、「これまで政治に関心は無かったが、人と議論することで考えが深まることがわかり興味がわいた」、「投票する際はしっかりと話を聞いて、自分が良いと思う人を選びたい」などと感想を話していた。

女子高生

グループワークやプレゼン、ディベートだと、議論を深めていけるし、ちゃんと理解できそうだね。

【現場の声】課題と展望

ここからは、主権者教育の今後の展望や、どういった課題があるか現場の声を聞いてみよう。

大畑方人さん大畑方人さん

東京都立高島高校の公民科教諭。

選挙プロ

大畑さんは、10年以上前から高校生を対象とした主権者教育に取り組んできたんだ。

女子高生

10年も前から?!流行の最先端!

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選挙プロ

これまでの手応えはどうですか?

実際に高校生を見ていると、主権者教育の効果は大きいと感じますね。

2016年の参院選では、各校の授業で扱われるようになり、テレビなどのメディアに取り上げられることも多くなりました。その結果、当時、僕の授業をとっていた生徒のうち、18歳になっていた子が32人いたんですが、30人が投票に行ったと答えました。

生徒たちにとっては投票することが自然なことだと思えるぐらい、大きなブームになってたんでしょう。

女子高生

おお。メディアの効果も!じゃあ、逆に課題と感じていることって?

教員の立場で考えると、まず「準備が大変」ということが挙げられますね。

主権者教育では、その時々で話題になっている政治的なテーマを扱うことが多いから、過去に作った教材などの使い回しはちょっと難しいんです。ただでさえ、学校の先生が多忙になっていると言われている状況の中で、教員の間からも「授業の準備をする負担が大きい」という声があがっています。

それと、「政治的中立性」も課題のひとつですね。
政治的な題材を授業で扱うため、意見が分かれるテーマについて、どのように中立性を担保しながら教えていくか。この点の難しさが、結果的に教員の萎縮を招き、主権者教育をやりにくくさせているという指摘もあります。

女子高生

私、先生の意見だったら、すぐ信じちゃうかも。影響って、あるもんね。

選挙プロ

授業の負担や、政治的中立性について、教育委員会や選挙管理委員会がマニュアルなどを作ってサポートしたり、考え方を示したりしているところもありますね。

僕の場合、政治的な対立があるようなテーマを扱うときは、必ず複数の意見を示すようにしています。

例えば、事前に様々な資料を用意することで、生徒たちが、対立点やその理由などを調べ、発表したり意見を交わしたりできるようにする。つまり、教員の立場としては、生徒自身に自ら考えさせるきっかけを作るんです。

女子高生

ディベートとかプレゼンとかって、やっぱり重要だよね。

選挙プロ

今後はどういうことが大切になってきますか?

主権者教育の題材は、公民だけでなく、実はどの教科にもあると思うんです。国語では新聞の社説の読み比べ、数学では投票率や支持率の統計分析、英語ではトランプ大統領のツイッターを読む、とかね。

これからは、公民だけでなく、ほかの教科の教員1人1人が、主権者教育に意識をどう向けていくかも大切になってくるのではないでしょうか。

女子高生

確かに。先生がみんな大変になるけど、逆に1人1人の負担が減っていくことにもなるのかな。

そもそも、日本の社会全体に目を向けると、政治的な話題はどうしても避けられがちですよね。なんとなく、はばかられる文化とも言えるような。そうした中で、主権者教育を進めていくことは、そんなに簡単なことではないと思うんです。

それでも主権者教育を発展、浸透させていくためには、18歳選挙権が始まった2016年を大きなきっかけにしていかなければいけない。まさに、今後の数年間が大きなチャンスなんです。

そのためには、学校教育だけで完結させることは難しいので、地域や家庭、それに、政治家やメディアなどと連携して、社会全体で取り組んでいく必要があると思っています。

女子高生

先生、アツい!主権者教育って聞くと、ちょっと身構えちゃうところもあったけど、地域の課題とか、身近なテーマについて、友達や家族と話し合うことから始めてみようかな。

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「シケセン」シリーズ完結

試験に出る(?)ことはないかもしれないけれど、「世界選挙紀行」や他のシリーズも是非読んでみてね。

「シケセン」は…

  • 勉強になった。

    8

  • 難しすぎた。

    2

  • 試験に出なさそう。

    2

みんなの声を聞かせて!