自殺について語ろう

生きづらく、息苦しい社会を
変えることはできるはず。(前編)

2004年に設立された、自殺対策基本法の成立に大きな影響を与えたNPO法人ライフリンク。全都道府県でシンポジウムを行う「全国キャラバン」や自殺の実態解明をめざす「1000人調査」など活動を続けるライフリンクの代表・清水康之さんにお話をうかがいました。
(2008年度掲載)

清水康之さん(しみず・やすゆき)
1972年、東京生まれ。97~04年までNHKディレクター。番組制作の過程で自死遺児の人々と出会い、自殺対策の活動に取り組みはじめる。2004年、NHKを退職し、ライフリンクを設立。以来、代表をつとめている。

のべ1万2千人以上の来場者を集め
全都道府県で開催された「全国キャラバン」。

長崎会場。「全国キャラバン」への関心は高く、どの会場もたくさんの人々が集いました。日本全国で、のべ1万2千人の方々が詰めかけたといいます。
2007年7月からはじまった「自死遺族支援全国キャラバン(以下、全国キャラバン)〈注1〉」は、2008年3月の大阪開催で、全都道府県で開催したことになります。僕自身も30カ所の会場を回りました。
もともと「全国キャラバン」には、3つの目的がありました。
まずは、自殺総合対策の理念を地域に根付かせること。2006年に成立した「自殺対策基本法」〈注2〉のことすら知らない方がたくさんいます。「勝手に死んでいる人のために、わざわざ国をあげて対策するなんて」と思っている方はまだまだ多いのです。そうした方たちに対して、「実は、自殺は私たちの日常の延長線上にある問題ですよ」と呼びかけるための開催でもありました。

2つめの目的は、「自死遺族の集い」設立のきっかけを作るということ。自死遺族の方たちが、今まで誰にも話せなかったことを安心して打ち明けられる「自死遺族の集い」「分かち合いの会」を、せめて各都道府県に1つは作りたい。だからこそ、「全国キャラバン」はすべての都道府県を回る必要がありました。
さらに、自殺対策を行う関係者の連携基盤を作るという目的もありました。「全国キャラバン」はできるだけ都道府県の主催でやってもらい、準備会を通して、官民学が一体となって取り組むことができるようにしたのはそのためです。
「全国キャラバン」をやっていくにあたって、意識したことがあります。それは、自殺対策の現場で活動するできるだけ多くの方々に、自死遺族の「声」を直接聞いてもらうということです。「当事者の声」を対策の原点にすえることの大切さを、頭で理解するだけでなく心でも感じてもらいたい……そう思っていました。実際、半数以上の都道府県で「遺族の会」を立ち上げたり、相談窓口を作ったりと、具体的な進展が見られはじめています。

「もはや他人事じゃない」という感覚が
人々の中に生まれはじめている。

「全国キャラバン」には、遺族でもなく、自殺対策の関係者でもないという方々がたくさん足を運んでくださいました。年間3万人、1日に90人の人が自殺しているこの状況に、「もはや自殺問題はとうてい他人事じゃない」と感じはじめている人がこんなにたくさんいるんだと心強く思いましたね。

「全国キャラバン」をきっかけに、沖縄、島根、三重、東京多摩、そして長崎に、「遺族の集い」が発足しています。
遺族の方や自殺未遂者の方から話をうかがっていると、同じような立場の方が同じように追い込まれているのがよくわかります。つまり、「自殺」はたしかに個人的な生死の問題でもあるのですが、構造的な問題でもあるわけです。「ある年に急激に自殺者が増えて、以降は減少した」というのなら、大きな変化によってたまたま自殺者が多くなったと思うこともできます。しかし、毎年コンスタントに3万人もの方が亡くなっている。これはもう、つねに誰かが必ず追い込まれるようになっているとしか言いようがないんです。追い込まれやすいポジションに立ったとき、いくつかの条件が重なれば、誰もが自殺に追い込まれてしまう……そんな状況です。

「全国キャラバン」フィナーレは大阪会場。清水さんは、全都道府県で開催してきた成果を発表しました。
では、社会としてこの仕組みをどうするか。
ここを議論して、ちゃんと行動にもつなげていきたいですね。そうすることで、自殺の手前のどこかで「漠然とした生きづらさや息苦しさ」を感じている私たちの日常を、「生き心地のよい場所」に変えていくことができる。私はそう信じているのです。

〈注1〉「自死遺族全国キャラバン」
2007年7月から、全国47都道府県で開催されたシンポジウム。2008年3月に開催された大阪会場を持って、全都道府県での開催を達成した。のべ1万2千人以上の方が来場。のべ80人の自死遺族が登壇した。NPO法人ライフリンクはそのプロジェクトチームの事務局をつとめた。
詳しくは、「ライフリンク」のホームページ(別ウインドウ ※クリックするとNHKのサイトを離れます。)へ。

〈注2〉「自殺対策基本法」
「自殺は、個人的な問題としてのみとらえるべきものではなく、その背景に様々な社会的要因があることを踏まえ、総合的な対策を早急に確立すべき」との方針で、2006年に施行された法律。自殺の防止や自殺者の親族への支援など、「自殺対策の総合的な推進」を図るとしています。
「自殺対策基本法」全文は「自殺対策ホームページ(別ウインドウ ※クリックするとNHKのサイトを離れます。)」へ。

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