自殺について知ろう

自殺問題と向き合う現場より

多重債務問題の根本的な解決に向けて

「借金苦による自殺は決して個人的な問題ではありません」と語るのは、30年にわたって多重債務問題に関わってきた木村達也弁護士。2007年4月に決定された「多重債務問題改善プログラム」を 解説していただきました。
(2008年度掲載)

木村達也(きむら・たつや)さん
弁護士。全国クレジット・サラ金問題対策協議会〈注1〉代表幹事。
1944年生まれ。日本弁護士連合会消費者問題対策委員会委員(元委員長)、日栄・商工ファンド被害対策全国弁護団団長、欠陥住宅関西ネット代表幹事をつとめる。共著に『個人債務者再生手続実務解説Q&A(増補版)』(青林書院、2001)など。

問題の根本原因を解決しなければ
悲劇はなくならないだろう。

消費者金融の利用者数は1400万人と言われています。そのうち、3カ月以上支払いが遅れ、返済できない状態になっている人は267万人。そして、経済的な理由による自殺者は、年間3万人の自殺者のうち、その4分の1にあたる8000人を占めています。
どうして、多重債務が自殺の原因になるのか、ピンと来ないかもしれませんね。それは、私たちが「サラ金三悪」と呼んでいる問題にあります。まずは「高金利」であること。多重債務とは、複数の金融機関に多重に債務を抱えている状態のことを言いますが、非常に高金利なんですね。2006年末に貸金業法が改正され貸付上限金利は年15~20%に引き下げられる予定ですが、今は年29.2%です。そうした高金利のお金を、本人の返済能力以上に貸し付けます(過剰与信)。「返せる範囲で貸す」と、借りた人はすぐに借金を返してしまうので利子がつかず、旨みがないから、とにかく返せないほど貸すわけです。そして、返せない人には違法な厳しい取り立てをする。高金利、過剰与信、取り立て……この三悪が多重債務者を追い込んでいくのです。
1カ月でも支払いが遅れると、取り立てがはじまります。「すぐ払え」「明日払え」と追い立てられても、サラリーマンは1カ月に一度しか収入がないから払えない。そこで、別の会社でお金を借りて返済にあてる。こうなると、複数の会社からお金を借り続けなければならなくなり、借金はどんどん増えていきます。誰だってパニックになってしまいますよね。周りの人に相談したりして、冷静に返済計画を立てることは不可能です。そして、最終的に死を選択してしまう……。
私たちは、「サラ金三悪を解決しないと、どうやったって悲劇はなくならない」という姿勢で活動してきました。でもこれまでは、政府も行政も、そして世間の人々も「サラ金で借金をするヤツは、どうせギャンブルとか、浪費に走っているんだから、自業自得だ」と放置し続けてきたのです。
私たちは弁護士として、司法の分野で、自己破産をする、特定調停を利用して債務整理をする、利息制限法を使って払いすぎた分を取り戻す……という救済にあたってきました。しかし、弁護士・司法書士がいくらがんばっても、267万人という人たちを救済するのは物理的に不可能です。ですから、行政がようやくこの問題に取り組みはじめたことに期待しています。

行政がようやく対策に乗り出した
多重債務問題改善プログラム。

政府が貸金業法を改正していく中で、行政・政治の責任として真剣に取り組んでいかなければならないという姿勢を明確にしたのが、2007年4月にできた多重債務問題改善プログラムです。
多重債務問題改善プログラムの「相談窓口の整備・強化」とは、相談窓口を作り、親身になって相談を聞いてあげるということです。現在、地方自治体や消費生活センターなど全国500カ所ほどの相談窓口があり、弁護士や司法書士へ誘導することもしています。私たちの目から見ればまだまだ十分とは言えませんが、実務的に救済できるようになったことは大きいと思います。
セーフティネットの貸し付け」は、公的・扶助的性格を持った、サラ金に代わる低利融資を行うということです。公的な融資制度が整備されていないから、人々は消費者金融に行ってしまうわけですから。ただ、もっともっと強化していただかないと、期待される役割が果たせないと思います。
金融経済教育の強化」は、学校で金融教育を行うということです。困ったときにはどうすればいいのか、相談窓口はどこにあるか、救済方法にはどんなものがあるかなどを学校で教えるということですね。
最後は、「ヤミ金の撲滅に向けた取り締まりの強化」です。消費者金融を法律で囲い込むと、経営が成り立たない金融業者は登録貸金業者をやめて、ヤミ金融になる。登録していないから法で定められた以上の高金利で貸す、悪質な取り立てをする。こうしたヤミ金に対して厳しく目を光らせるということです。
この4項目を徹底することによって、多重債務者をなくしていこうとしています。こうしたプログラムができたことは、私たちの運動の成果だと思っています。これによって、多重債務者が陥りがちな自殺、蒸発、一家心中などの悲劇が回避できれば……そう願っています。

改正貸金業法(2006年12月)

主な改正のポイント

  • 貸金業者の業務の適正化
    貸金業者になるためには純資産5000万円以上が必要になった
    広告の内容などについて厳しく規制する
    借り手の自殺を対象とした生命保険契約を禁止する
  • 借りすぎ・貸しすぎの防止
    総借入額が年収の3分1を超える借り入れは原則禁止
  • 上限金利の引き下げ
    年利29.2%→年利15~20%へ

多重債務問題改善プログラム(2007年4月)

  • 相談窓口の整備・強化
  • セーフティネット貸し付けの提供
  • 金融経済教育の強化
  • ヤミ金の撲滅に向けた取り締まりの強化

改正貸金業法や多重債務者対策について、詳しくは金融庁のホームページへ(別ウインドウ ※クリックするとNHKのサイトを離れます。)

〈注1〉全国クレジット・サラ金問題対策協議会
多重債務者を生まない社会を目指して、各自治体に対して多重債務対策を指導したり、さまざまな宣言や決議を行っています。ホームページには、全国各地の被害者の会、相談窓口の一覧が掲載されています。

 
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