自殺について知ろう

自殺問題と向き合う現場より

誰もが安心して悩める地域づくり……
秋田モデルの誕生

自殺率ワースト1の秋田県は、全国に先駆けて、2000年から自殺予防対策を行ってきました。
その中心的な役割を担ったのが、秋田大学の本橋豊さん。
「地域づくりとしての自殺予防」をお聞きします。
(2008年度掲載)

本橋豊(もとはし・ゆたか)さん
秋田大学医学部長。専門は公衆衛生学、地域における自殺予防。
1954年生まれ。1996年より秋田大学医学部教授を経て現職。秋田大学自殺予防研究プロジェクトの中心となり、秋田県の自殺予防対策に関わる。著書に『自殺が減ったまち──秋田県の挑戦』(岩波書店、2006)、『自殺対策ハンドブックQ&A』(編著、ぎょうせい、2007)など。

関わる人が手探りではじめた
秋田県の自殺予防対策

秋田県はもともと自殺率の高い地域です。厚労省が発表した人口動態統計によれば、12年連続ワースト1なのです。こうした危機感が、秋田県の自殺予防対策を推し進めてきました。
県全体できちんと自殺問題に関わろうとしたのは2000年のこと。もちろん自殺対策基本法も自殺総合対策大綱もありませんでしたから、本当に手探りの状態でした。中心となったのは県の健康福祉部という部署で、当時は「心の健康」という観点から、医者、学者、市町村の方、NPO関係者などさまざまな立場の人が集まり、まずは協議することからはじめました。こうした舵取りの組織を作ることはやはりとても大切です。「この対策をみんなでやっていくんだ」というコンセンサスと「顔の見える連携」が、自殺対策を進めていく上での最初のポイントになると思います。
私の専門である公衆衛生学という学問は、医学の中ではやや異質で、「病気の原因となる要因を特定できなくても予防はできる」という考え方をします。もちろん原因を追及することは大事ですが、緊急の危機があるときには、まずは手探りでもいいから最善の方法を考え出して実行するというわけです。これは自殺予防を考える上でも有効です。自殺とひとくちに言っても、そこには複雑に絡み合った原因があります。一つの原因を明らかにしただけではとても足りないのです。そこで、私たちは、自殺やうつ病に対する社会の理解を深め、自殺問題に対するタブーをなくすことで、自殺予防につなげていこうと考えたのです。

自殺は個人の問題ではないからこそ
地域づくりとして自殺予防

「秋田でやっている自殺予防は結局のところ何なのですか?」そう質問されることがあります。そのとき、私は「地域づくりとしての自殺予防」と答えるようにしています。つまり、人と人とのつながりを広げていくことで、悩みが相談窓口につながっていくような地域作りをしていくということです。心に悩みを抱えた人を突き放すのではなく、やさしく受け入れるような社会を作っていこうと、啓発活動を行ったり、相談体制の充実をはかっています。さらに、うつ病対策として悩みを抱えた人がうつ状態になるということに対して的確に対処しています。この地域モデルとうつ病対策モデルの両方を秋田では行っているのです。
これまで多くの対策が行われてきました。2001年には「健康秋田21」において「2010年までに約3割の自殺者減少を目指す」という具体的な目標を立て、自殺予防モデル事業〈注1〉に取り組んだり、2003年には自殺予防リーフレットの全戸配布を行ったり、2005年には新聞に自殺予防の意見広告を出したり……と、その試みはさまざまでとても全部は紹介しきれません。
最近の動きとしては、2007年7月に市町村トップセミナーを行いました。これは県内の市町村長、市町村議会議長を一同に集め、事例報告や講演を通して、市町村の自殺対策における役割を考えてもらおうとするものです。市町村のトップの方々が、自殺予防に対して理解を示し、真剣に取り組んでくれることが、県全体の意識を変えることになります。これはとても大きな試みでした。国の対策とは違い、県はより現場に近いところにいるので、具体的で実効性の高い取り組みを、隅々にまで広げていくことがとても大事なことなのだと再確認しました。
また、社会経済問題に対して、これまで行政レベルでは組織的に取り組まれていませんでしたが、県内のNPO法人「蜘蛛の糸」〈注2〉の中小企業経営者や多重債務者を救う取り組みをいろいろな方が支援するようになり、2007年からはこうした民間のネットワークを作ろうという動きがはじまっています。民間団体の取り組みが行政の足りない部分を補うようにして、草の根レベルで活動が広がっていっているのです。
2008年1月、秋田県警は、2007年の自殺者数は前年に比べ15.4%減の417人で、過去10年間でもっとも少なかったと発表しました。しかし、自殺予防は努力に依存している部分が少なからずあり、何も対策を講じないとまた増える可能性があります。自殺者数に一喜一憂せずに、地道に活動を継続していくことが大事だと思っています。

〈注1〉自殺予防モデル事業
2001~2006年にかけて、秋田県内の6つの町で行われたモデル事業。心の健康に関する基本調査、うつ病や自殺に関する正しい情報の提供と啓発活動、地域で気軽に相談ができる「ふれあい相談員」というボランティア育成などを住民と連携して行った。『自殺が減ったまち──秋田県の挑戦』に詳しい経緯が描かれている。

〈注2〉NPO法人蜘蛛の糸
秋田県内で、中小企業経営者や多重債務者の相談を無料で受けているNPO団体。自身も自殺の危機を経験したことがある代表の佐藤久男さんは、秋田県の自殺対策を主導してきた一人。

『自殺が減ったまち──秋田県の挑戦』
本橋豊著・岩波書店刊

秋田県で行われた実践例を、取り組みの中心人物である本橋豊さんがまとめたもの。特に自殺予防モデル事業を行った6つの町でどのようなことが行われたか、詳しく書かれている。


『自殺対策ハンドブックQ&A』
本橋豊編著・ぎょうせい刊

2006年の自殺対策基本法施行を受けて、国の取り組み、地方自治体の取り組み、海外での取り組みなどを紹介。また、さまざまな側面からの自殺対策をQ&A方式でわかりやすく解説している。

 
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