イエス・キリストを主人公とし、その生涯を描いた映画は、例えば、スペクタクル史劇を得意としたセシル・B・デミル監督の「キング・オブ・キングス」(1927)、ニコラス・レイが監督した同じ題名の超大作、スウェーデンの名優 マックス・フォン・シドーが主演したジョージ・スティーブンス監督の「偉大な生涯の物語」(1965)、マーティン・スコセッシ監督の「最後の誘惑」(1988)、メル・ギブソン監督の「パッション」(2004)など、映画創生期から数多くの作品が製作されてきました。

今回ご紹介する「奇跡の丘」(1964)は、キリストの生涯を描いた映画のなかでも、最高の一つとされる傑作です。「マタイによる福音書」を題材にしたこの作品、キリストがマリアから産まれ、洗礼を受け、悪魔の誘惑をしりぞけ、弟子たちと旅をつづけ、十字架にかけられ、復活するまでを描きます。

監督・脚本は、ピエル・パオロ・パゾリーニ。1922年、イタリア・ボローニャに生まれたパゾリーニは、詩人、小説家、映画脚本家として活動し、監督として、「アポロンの地獄」(1967)、「テオレマ」(1968)など、性と暴力、社会の矛盾や偽善を描き、世界中でセンセーションを巻き起こす数々の作品を発表しました。1975年、何者かによって殺害され、53歳で亡くなりましたが、その衝撃的な生涯と作品は、今なお、さまざまな論議を呼んでいます。

鬼才・パゾリーニ監督が作り出す独特のリアリズム

ロケ撮影でドキュメンタリーのように映画を製作する、ネオ・レアレスモの手法で作られたこの作品、世界遺産に登録されている、イタリア南部マテーラの洞窟住居をはじめ、イタリアやモロッコで撮影された映像は、まるでキリストの時代にタイム・トラベルしたかのような独特のリアリティーで見るものに迫ります。

また、出演者の多くは、演技経験のない一般の人たちで、キリストを演じたエンリケ・イラソキは、イタリアに留学中だった当時19歳のスペインの学生だったということですが、その表情、眼力めぢからは、強烈です。また、年老いた母・マリアをパゾリーニ監督の母・スザンナが演じています。

バッハやモーツァルト、そして、アメリカのブルース、オデッタやブラインド・ウィリー・ジョンソンの音楽も忘れられません。パゾリーニ監督は無神論者だったともいわれますが、この作品は、ベネチア映画祭で審査員特別賞を受賞し、カトリック教会からも高く評価されました。

鬼才・パゾリーニ監督ならではの清廉で崇高な物語。
じっくりご覧いただきたいと思います。

【放送日時】
プレミアムシネマ「奇跡の丘」
9月16日(土)[BSプレミアム]前0:15〜2:33

そのほかの映画情報はこちら