価値ある挑戦から見えてくるテレビの未来とは

ダーウィンの海

12月7日(金)[BS1] 後9:00 ※再放送
初回放送:3月31日

皆さん、突然ですが“ダーウィンの海”という言葉をご存じですか? いくつもの製品が生まれる日進月歩の競争社会で、生き残ることの難しさを表したものです。製品が世に広まって成功するには、この海を乗り越えなくてはいけません。しかし、惜しくもその海に沈んだなかにも、斬新なアイデアと発明にあふれた数多くの名品があります。

「過去の“価値ある失敗”に目を向けるべきだ。そこに未来へのヒントが隠されているはず」。

今回番組では、表からも裏からも見える「両面テレビ」や、テレビとラジオとカセットテープを一台で再生できる「ラテカセ」など、ユニークな商品が続々開発されていたテレビ産業史に迫ります。どのようにこれらの製品は生まれ、そしてなぜ消えてしまったのか?

番組をナビゲートするのはメディアアーティストであり、筑波大学准教授の科学者・工学者である落合陽一さん。触れる絵を空中に描いたり、目の網膜に映像を直接投影するデバイスを発明したりと、映像に関するさまざまな研究を行っています。

落合陽一さん、テクノロジーへの愛が止まらない!

収録スタジオには、1926年に誕生した「元祖テレビ」と呼ばれる「高柳式テレビ」をはじめ、歴史的な製品がズラリ! 落合さんはそれらを見ながら「たまらない!」と大興奮。ひとつひとつ熱心に眺めながら「ここに端子がついているということは……」「これは欲しい! 自分なら買っていました」と、テクノロジーと製品への愛情があふれて止まりません。

さらに、腕時計とテレビを合体させた「テレビウォッチ」を開発した若井洋一さん、液晶テレビ開発に関わった船田文明さんをお呼びして、当時の時代背景や開発裏話を伺います。

収録後、興奮冷めやらぬ落合さんにお話を伺ってきました。

装置を裏から見ると、当時の開発者と同じ気持ちになれる

──番組からオファーがきたとき、どう思いましたか?

素直にうれしかったですね。企画の段階からいろいろと意見交換をさせていただきました。テレビは、内容をとにかくわかりやすく伝えようとしがちですが、僕は、わかりにくいニッチな方向にいってしまうんですよね。でも実は、そういうスタイルのほうが今の時代には合っていると思うんです。わからないことはインターネットですぐに調べられますので、最低限の「理解できる部分」と「さらに知りたいこと」をうまくつなげた番組があったらイノベーティブだなと思いました。

昔ながらの職人気質なエンジニアの方を呼んで話を聞いたり、デジタルネイティブが見たこともない「高柳式テレビ」を紹介したり……。さらにそれを最新デジタルの観点で語るという番組は、何者にもかえがたい価値があると思います。収録を終えましたが、情報量が多すぎて整理しきれていません(笑)。

こちらが高柳式テレビ

──もっともテンションが上がった瞬間はどこでしょうか?

「高柳式テレビ」と「テレビウォッチ」ですね。僕は工学者なので、ガジェットを見ると「どうやって動いているんだろう?」と仕組みが気になります。高柳式テレビの実物を見たのは初めてですが、横に立った瞬間「これはここに回転モーターが付いていて、ここで光を取って電子線がここを通って……」と、仕組みがわかって思わず「たまらん!」と唸ってしまいました。

もしこのガジェットが生まれた時代に生きていたら……といろいろと思考を巡らせていると、つくり手と同じ気持ちになれるんです。「頭がいいな」と感心したり、「自分ならもっとこうするのに」と考えたり。同じ気持ちになるには仕組みを知る必要がありますし、裏側を見ればつくった人の気持ちが見えるので、どの製品も熱心に眺めてしまいました。

テレビウォッチに興味津々の落合さん

テクノロジーへの感性を鍛える、最高の「料理番組」に!

──さまざまな製品をご覧になりましたが、テクノロジーの魅力はどこにあると思いますか?

これは「製品の魅力紹介」という番組ではなく、ひとつのカルチャーの発展史というか……その粋がつまった“茶室”なんです。

我々は100年以上前から、「眼球にPhoton(光子)を与える」ということを、絵を描いたり写真を撮ったりする段階から取り組んでいます。その最先端に僕が立っているんですよね。右往左往しながらもグッド・トライを積み重ね、「新しいものはなんだろう」と探し求めて時代を支えた人びとの系譜があって、いまがあります。そして僕が高柳式テレビに感動したように、その人たちは共通言語のもと理解し合えるんです。

このカルチャーは、博士号取得くらいまで到達しないと共感できないハードルの高さがあり、一方でものすごい熱量があります。たとえば、フィギュアスケートの羽生結弦選手が金メダルを取ったとき、スケートが滑れない人でも感動できますよね。ほかにもボルトが100メートルを走るとき、1秒縮めるためにどれだけの努力があったか……。過去にも大勢の選手がいて、人びとはずっとオリンピックを見てきたからこそ、そこに生まれた熱量に感動できる――これもひとつの文化でありカルチャーなんです。

同じように、テクノロジーが発展していくなかで“トリプルアクセル”を飛ぼうとして、失敗したプロダクトがどれだけあったのか。知らないと感動できません。そこで生まれた熱量をどうやって社会にフィードバックするか、これは非常に重要な課題なんです。テクノロジーカルチャーやメディアカルチャーについてもきちんと取り上げてひもといていかないと、20世紀の人びとはどんどんいなくなってしまいますし、今やるべきことだと思いますね。

「テレビウォッチ」を開発した若井洋一さん(中央)、液晶テレビ開発に関わった船田文明さん(右)

──番組の見どころは?

登場するハードウエアと、熱量ですね。「オモシロ発明がいっぱいあった」という話ではなく、必然的なグッド・トライはたくさんありました。しかし「ダーウィンの海」に沈んでしまった理由は、“ただコストがハマらなかっただけ”なんですよね。コストというのは、金銭的なものだけでなく空間や時間なども含めてです。ハマるかはやってみないと誰にもわかりません。結果を成功と失敗にわけるのではなく、その挑戦がカルチャーをつくったと認識することがいちばん早くテクノロジーと仲良くなるポイントでしょうね。そうしたポイントがたくさん詰まった番組になればと思います。

100メートルを10秒で走る選手には感動できるのに、テクノロジーに感動できない理由は、感受性を鍛えていないからです。100メートルは走ったことがあるから共感できるけど、テクノロジーについての感性を鍛えるには勉強をしないといけません。勉強すれば楽しくなりますが、テクノロジーは「楽しい」に至るまでが重厚なので、そう簡単には理解できないかもしれませんね。

どんなカルチャーでも、楽しむためには練習や訓練が必要です。フランス料理を「おいしい」と感じるには、その文化や料理法を練習しなくてはいけません。そういう意味でテクノロジーをとらえるならば、この番組は“最高の料理番組”でしょうね。

ほかにも、1982年にパソコンとテレビを合体させた「パソコンテレビ」など、時代を先取りしすぎた製品が登場。そして街頭テレビから現在のパブリックビューイングへと続くテレビ視聴の文化にも迫ります。レトロな外見でありながら、最先端の研究をする落合さんも引き込まれてしまう魅力をもつ製品の数々を、どうぞお楽しみに♪

「ダーウィンの海」

【再放送予定】12月7日(金)[BS1] 後9:00

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