月面探査レースから見えた30代エンジニアたちのロマン

月へ、夢を~月面探査レースに挑んだ若者たち~

5月3日(木・祝)[BS1]後9:00

今年3月、世界初の“月面無人探査レース”が終了しました。民間のチームが、自作のローバー(月面探査機)を自力で月面に送り込み、さらにそれを500メートル移動させ、高画質の映像などを地球に送信。そのミッションを誰よりも早く達成したチームが“優勝賞金20億円”を手にすることができるというものです。

10年に及んだこのレース、先に結果を言うと、優勝候補とも言われていた日本のチームをふくめ、全チームが月に到達できませんでした。

日本のチーム「HAKUTO」も、ばく大な資金調達や、探査機の耐久化や軽量化の開発など、さまざまな困難を乗り越えてきました。しかし、苦難の末に完成した探査機の打ち上げも間近に迫ったところで、あることが起こり、レース期間内の月への到達を断念せざるを得なくなったのです。

番組では、改めて浮き彫りになった、民間による宇宙開発の難しさ。それでもいつかは月面探査を実現させようと、夢を追い続けている若者たちの1200日間に密着。今回は、たった一人(!)で、チームHAKUTOを密着したという、佐藤創我ディレクターに、番組の見どころを聞きました。

キャラクターの濃いHAKUTOメンバー

── 一人で密着取材をしたというのは本当ですか?

はい、僕一人です(笑)。2014年の6月にHAKUTOの存在を知って、9月には密着を開始しました。主に彼らのオフィスに張り付いていたんですけど、宇宙空間に打ち上げるロケットの振動の試験や、JAXAでの月面環境試験にも同行させていただきました。

月面のような砂丘でローバーの試験中

そうやって3年半も密着していると仲良くなっていって、プロジェクトの一喜一憂をメンバーと一緒にしてしまったりして、そこは番組を作る上で客観的にならないと、と気を付けていました。

──メンバーにはどんな方がいるのですか?

代表の袴田武史さんは38歳、熱設計の田中利樹さんは32歳、モーターやカメラのソフト開発の宮本清菜さんは34歳、そしてローバーの構造担当の古友大輔さんは37歳と、僕も36歳で同世代ですけど社会に出てみればまだ若い彼らが、今世界を変えようとしています。本当にみんなキャラクターの濃い人ばかりで、田中さんは東京大学で小型衛星開発をしていたスーパーエリートですが、アニメやアイドルが好きという身近な一面もあるんです。大学生のころは、『風の谷のナウシカ』に出てくる小型の飛行機・メーヴェを題材に、飛行のプレゼンをしたんだそうです(笑)。

熱設計エンジニアの田中利樹さん

宮本さんは、ママさんエンジニアです。高度な技術を開発するエンジニアで、どうやって子育てと両立しているんだろうと思って、お家での様子にも密着させていただきました。旦那さんがものすごくすてきで、「このプロジェクトは妻の夢でもあるけど、僕の夢でもあるんです」って言うんですよ。この言葉には泣きそうになりました!

ママさんエンジニアの宮本清菜さん

そして、古友さんは、“元ヤンエンジニア”と呼ばれていて、僕がHAKUTOに密着してすぐ目についたのが古友さんでした(笑)。でも彼はただの元ヤンではなくて、高校を中退した理由も、バイクの爆音につながる流体力学のことを先生に聞いたら分からず、高校にいても意味がないなと思って辞めたんですって。なんかね、優秀なヤンキーなんですよ(笑)。でも、そういう彼らだからこそ、いろいろな発想で急に事情が変わっても転換してやってきたんだろうなと思います。

密着取材から見えてきたもの

──番組ではどんなことを描くのでしょうか?

まずは、HAKUTOの開発物語をちゃんと描こうと思っています。このチームが作っていたものは、月面を500メートル以上走行して高解像度のデータを地球に送信するローバーです。一見ただのラジコンのようですけど(笑)、打ち上げのときの重力や振動、130度以上の月面での温度差などに耐えられる高性能機器なんです。さらに、ロケットで打ち上げるために1キロ1億円ぐらいかかるそうなので、軽量化がまた大変で。

これが日本チームが開発したローバー

そもそも月にはどうやって行くのかというと、ローバーを月着陸船に乗せて、それをロケットで宇宙空間に運ぶんです。でもHAKUTOは、ローバーしか作っていなくて、インドチームが月着陸船も作っていたんですね。どうせ行くからとHAKUTOもそれに乗せてくれることになって、いざ月へ行こうとしましたが……、その続きは番組をご覧ください(笑)。

──密着中の思い出を聞かせてください。

当たり前ですけど専門用語がすごく多いんですね。みなさんものすごく賢いので、何を言っているのか訳がわからなくて。取材帰りに「自分は何なんだろうな」というところまで落ち込む日もありました(笑)。

それに、最初のころは番組化が決まっていなかったので、終わりが見えない不安もありました。番組化は無理かなと思っていたときに、プロデューサーが、「月に行けなくなったのもドキュメントなんだよ」と言ってくれました。

実は、いよいよ打ち上げだというとき、HAKUTOはローバーを改良しなければならなくなったんです。それでもやっぱり解決策を探すという強い姿勢には感動しました。実際に改良は成功して、開発チームの中でもクールな田中利樹さんが、そのときだけ珍しく笑顔を見せたんです。あれは忘れられないですね。

月面探査成功祈願にお参りしたときの写真

──最後に、どんな方々に見てほしいですか?

レースでは月面に到達できませんでしたが、それが結論ではないということです。レースを通してエンジニアや経営者たちの奮闘を描きつつ、実はそもそも彼らが狙っていた、“民間の宇宙開発ビジネス”の参入はどうだったのかというところと、次の彼らの夢ってなんなのかというところを描けたらいいなと思っています。

そして、夢に向かっている方たちのドキュメンタリーでもあるので、宇宙好きはもちろん、少年少女にも見てほしいなと思っています。世界を変えてやろうと奮闘している姿はかっこいいので、せひとも、ご家族でも一緒に見てほしいです。

【放送予定】
5月3日(木・祝)[BS1]後9:00

取り上げた番組はこちらです!

検索 NHKサイトでもっと探す

その他の注目記事