僕の課題は「芸術の魅力をいかに言葉にすればいいのか」

日曜美術館

毎週日曜[Eテレ]前9:00〜10:00
再放送 毎週日曜 後8:00〜9:00

毎回多彩なゲストを迎え、国内外の美術作品を独特の切り口で紹介する「日曜美術館」。 放送開始から43年目を迎えた今年4月。新キャスターに芥川賞作家で立教大学教授でもある小野正嗣さんを迎えました。

西洋絵画や写真が好きで、伝統的な日本の織物などの工芸にも興味があるという小野さん。芸術に対する思いや、番組の魅力などについてお聞きしました!

小野正嗣さんと、高橋美鈴アナウンサーがキャスターを務めます。

フランス留学時の芸術との触れ合い

──まず、オファーを受けたときのご感想からお聞かせください。

「日曜美術館」には、2015年放送のゴーギャンの回のときにゲスト出演させていただいたんですよ。あのときはロケでブルターニュにも行かせてもらいましたし、「なんて楽しい番組なんだ」と思ったんです。ただ同時に、「司会の方は大変だろうなあ」とも思いました(笑)。ゲストの僕は頭に浮かぶことを自由にしゃべっているだけですから、まとめるのはきっと大変だろうなあと。

しかも僕は、文学の仕事をやっていて美術畑の人間ではありませんからね。お話をいただいたときは、正直驚きました。ですがこの番組は、専門家に向けた番組ではなく、美術に興味を持っている方たちが対象。司会の僕は、毎回テーマに合わせて知識を詰め込む必要はなく、取り上げる対象にまっすぐ向き合って感じたことを話せばよいのだと助言をいただきました。

自分の好奇心を深めるためには、絶好の機会です。こんな貴重な体験はなかなかできないと考え、お受けすることにしたんです。

スタジオを飛び出し、美術館などを訪れることも。

──小野さんご自身と芸術作品との接点は?

僕は大分県の漁師町の出身です。幼いころは絵画などに触れる機会もなく、それこそ美術の教科書を見るくらいでした。ところが、東京の大学へ入学すると、徐々に周囲から知識を得るようになって。中でも一番大きかったのは、8年ほどフランスに留学したときの経験ですね。大学の教授であり詩人であり批評家でもある方の家に5年近くも居候させてもらったのですが、その方が美術や音楽にも造詣の深い人で、その影響で日々芸術に触れる機会を得ることができたんです。

家の中には美術品がたくさん飾られていて、中には、ジャン・コクトーから贈られた作品もありましたね。作家や学者だけでなく、画家や音楽家の友人もいて、その方々がいらしては、あるいは彼らのお宅へ連れていってもらっては、文学や音楽や美術についてみんなで話すのは、とても刺激的な体験でした。といっても、ほとんどの場合、無知な僕は耳を傾けているだけなんですけどね。

ただ、そのおかげで、「文学も美術も音楽も、芸術としてつながっている」と肌で感じられましたし、小説を書く身として美術や音楽にも興味の扉を常に開いておく必要があるとも思いました。あのときに得た文化的な経験は、小説家としての僕にとって、とても重要なものです。

作品を語ることの難しさ

──芸術の、どんな部分にひかれますか?

「好きな画家は?」と聞かれると、「いまはシャルダンやフラゴナールがすごく気になる」などと答えられるのですが、「なぜひかれるのか?」と問われると……厳密には分からない。「芸術の魅力をいかに言葉にすればいいのか」は、いまだに僕の課題なんです。

画家たちは、絵という手段でしか表現できないものを創造しているわけですよね。そう考えると、言葉で形作られていない作品を言葉で語ろうとすることには、ある種矛盾というか無理があるというか……。絵画や音楽が表現する“本質”に、どんなに頑張っても、言葉ではある程度のところまでしか近付くことができないという気がします。この番組でも痛感していますが、「作品について語る」ことは非常に難しいことなんだと思うんです。

──小野さんが、文学者として芸術作品から影響を受けたことは?

数々の芸術家たちが、他人からどう評価されようとも、自分の作りたいものを作り続けてきました。この番組を通じて、芸術家たちの作品に向かうひたむきな姿勢に触れることで、僕は“励まし”を得ていると思うんです。

崇高な美とは、我々の言語を超えているというか、合理的な思考を超えたものです。朗らかで明るく、心を和ませてくれるものもあれば、“激しさ”を備え、見るものに沈黙を強いるような“強さ”を持つものもあります。その意味で、美とは“恐ろしい”ものだとも言えます。ですが、我々が想像し得ないものが、作品として現に目の前に存在しているということ、しかもそれを作ったのは我々と同じ人間だということは、我々を激励するものにもなると思います。僕が感じているこの励ましが、番組を見ている人にも伝わるといいなと思います。

──7月1日(日)の放送では、アンリ・ルソーにスポットを当てますね。

アンリ・ルソー「夢」

女優の鶴田真由さん、ミュージシャンのグローバーさん、世田谷美術館の遠藤望さんがゲストとして出演されます。ルソー作品を愛するお三方が、想像力を自在に羽ばたかせてお話をされて、実にさまざまな意見が飛び交いましたよ。ときには、それがやや極端に走ることもあるかもあるかもしれませんが、作品と作者への深い愛情と敬意があったうえでの自由な解釈ですので、僕は横でうかがっていて非常に楽しかったです。

ルソーは、そもそも謎多き画家です。専門家ならば学説に基づく解釈ができると思いますが、そうじゃない解釈をも許してくれる奥行きというか不思議さがルソーの作品にはあると思うんです。そもそも作品はもはや作り手のものですらなく、見る人のもの。ゲストの方々のお話を聞いていると、番組をご覧になった方が、ご自身の感性や経験をもとに、あんな風に友達と「ああだ、こうだ」と語らうきっかけになるといいなあと思いました。ぜひご覧いただきたいですね。

女優の鶴田真由さん、ミュージシャンのグローバーさん、世田谷美術館の遠藤望さんが、ルソー談義に花を咲かせます!

──最後に、視聴者へメッセージをお願いします。

番組をご覧になって、何らかの発見を得られればいいなと思いますね。あるいは、取り上げる美術作品や芸術家について、なんとなく感じたり考えたりしていたことがより明確になるきっかけになればとも。そしてそのうえで、「実際に美術作品を見に行ってみよう」とか、「もっとこの画家について調べてみよう」という風に、美術と出会い、美術について思考を巡らすきっかけになればとてもうれしいですね。

7/1(日)放送の「日曜美術館」では、アンリ・ルソーを愛するゲストたちが、ルソーの多面的な魅力や謎について談義します!

取り上げた番組はこちらです!

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