“ブロードウェイの父”と呼ばれたG・M・コーハンの
華麗なる半生を描いたミュージカル

ヤンキー・ドゥードゥル・ダンディ【渡辺祥子のシネマ温故知新】

プレミアムシネマ5月の注目作品

今月は、日本では長らく劇場未公開のまま、ミュージカル・ファン待望の『ヤンキー・ドゥードゥル・ダンディ』(1942)の登場です。

これは、20世紀初頭から20年代まで大人気だったブロードウェイ・ミュージカル界の超大物、ジョージ・M・コーハンの伝記。彼は俳優で歌手、ダンサー、作詞・作曲、劇作、演出、製作者……、その総てで高い評価を得ていた人物。映画で彼の役を演じたジェームズ・キャグニーの自伝によれば、ジョージ・M・コーハン自身が「自分の伝記が映画化されたのを見たい」と望んだところから実現した。とは言え、自分で言い出したくせにコーハンは自分の経歴がそのまま映画になるのを嫌い、彼の作りだしたエンターテインメントを中心にストーリー化することを要求。熱心な愛国者だったこともあって第2次大戦下の製作であることを意識、国民の戦意高揚に役立つ映画になるように希望してこの映画は生まれた。

監督はキャグニーの代表作『汚れた顔の天使』(1938)を手掛けたマイケル・カーティス。もともとコーハン同様に自分が“歌って踊る役者”であると考えていたキャグニーは、ギャング俳優としての評価が定着してしまったことが気に入らず、この仕事に大乗り気でかつてコーハンの舞台に立ったことのあるダンサーを振付師として雇わせ、コーハン調のステップを身につけて踊った。

映画は老コーハンがフランクリン・D・ルーズベルト大統領の招きでホワイトハウスを訪れたところから回想形式で始まる。彼は1878年7月4日、アメリカ独立記念日の生まれだ。そこで初代大統領ジョージ・ワシントンにちなんでファースト・ネームはジョージ、まるでアメリカの申し子みたいな人だった。一家4人のヴォードヴィル・チーム“ザ・フォー・コーハンズ”の一員として育ち、人気者になって結婚、というあたりは映画と実話が違うようだが、キャグニーが演じ、歌い、踊る様子は『汚れた顔の天使』のイメージからは大きく離れ、素晴らしい“エンターテイナー”という印象。「ヤンキー・ドゥードゥル・ダンディ」「ギヴ・マイ・リガーズ・トゥ・ブロードウェイ」などの歌声は総てコーハン自身のものが使用されている。それに合わせてキャグニーが踏むタップには一種独特のパワーがあり、彼が私は“歌って踊る役者”と言うのが納得できる魅力がある。ミュージカル・ナンバーの中には、アメリカン・スピリット賛歌なども散りばめられていて、そのあたりは戦意高揚映画なのだが、第2次大戦下1942年の映画、ということを考えれば当然だろう。アカデミー賞では作品賞を含む8部門が候補になり、作品賞はこちらも戦時色たっぷりの『ミニヴァー夫人』(1942)が受賞。主演男優賞がジェームズ・キャグニー、他に録音賞、ミュージカル映画音楽賞を受賞した。

ニューヨークのブロードウェイ、7番街と47丁目が交差するダフィー・スクエアと呼ばれる小さな三角州にコーハンの像が第1次大戦の英雄ファーザー・フランシス・P・ダフィーの像と共に建っている。

【放送日時】
プレミアムシネマ「ヤンキー・ドゥードゥル・ダンディ」
5月31日(金)[BSプレミアム]後1:00~3:07


渡辺祥子

【コラム執筆者】渡辺祥子(わたなべ・さちこ)さん

共立女子大学文芸学部にて映画を中心とした芸術を専攻。卒業後は「映画ストーリー」編集部を経て、映画ライターに。現在フリーの映画評論家として、新聞、雑誌、テレビ、ラジオ等で活躍。映画関係者のインタビュー、取材なども多い。また映画にとどまらずブロードウェイの舞台やバレエなどにも造詣が深い。著書に「食欲的映画生活術」、「ハリウッド・スキャンダル」(共著)、「スクリーンの悪女」(監修)、「映画とたべもの」ほか。

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