宇宙人が作った「並列放置問題提起」番組が登場!

宇宙の人気番組「いとしの地球アワー」

藤谷 治(小説家)

環境問題は地球人類だけでなく、全宇宙的問題になりつつある!? フードロスからサバンナシマウマの危機まで、「宇宙人的視点」によるワイドショーを小説家・藤谷 治さんが全人類を代表してレビューしました。

ついに宇宙人の作ったテレビ番組がNHKにあらわれた。これはもう人類史上の一大事であろう。

「宇宙の人気番組 いとしの地球アワー」は、どうやら全宇宙で放送されている番組らしい。宇宙では地球人の生態が謎なんだそうで、この番組ではそのケッタイなる姿を「ウォッチング」して楽しんでいるようなのだ。こういう番組が当の地球で放送されるのは、まこと慶賀にえない。われわれ地球人にとっても、地球人の生態は実にしばしば謎めいていて、ケッタイに映るのだから、どこがどうヘンテコリンかを宇宙人に教わるのは、後学のためになるだろう。

ところがこの番組、一見すると地球の日本のテレビ局が作っている番組と、非常に似通っている。オープニングで番組説明があり、スタジオにMCとゲストがいて、VTRを見ながらおしゃべりをしている。MCは「ヤスダ」と「ダンミツ」なる宇宙人らしき二人だが、ゲストはそれぞれ「洋服を着ている姿を人に見せてお金を取って生活をしている」女性と「地球人を笑わせることで金をとる」男性の日本人(そう紹介されるんだよ)である。

宇宙人が作っているだけあって、たとえばゲストの名前なども「カワきタ」「ゴとウ」と、表記やフォントには若干の誤解というかミスがあったりする。そういう、地球製のテレビ番組を見慣れている目には違和感のある細部がないわけじゃないけれど、慣れれば平気になるしすぐに慣れる。やがて見ているうちに、ある疑念が生じる。「あれ? もしかしてこの番組、フツーにNHKが作ってんじゃないの?」という疑念が。

宇宙人的視点からオオグイを見る

だがその疑念は、番組が進むにつれて払拭ふっしょくされるどころか、ますます混濁していくのである。今回のテーマは「オオグイ」だという。ふだん民放で大食い番組を見ている我々は、それが現代日本特有の、俗っぽい流行のように思ってしまいがちだけれど、この番組ではそれが世界的な広がりを持った人気のイベントであるだけでなく、江戸時代にも似たり寄ったりの催しがあったと紹介される。局部的でなく、地球を一個の文明としてとらえているのは、宇宙人的である。

さらに大食いの頂点に位置する人間として「フードファイター」が紹介される。サンプルとしてMAX鈴木氏の食いっぷりが取材される。検証したわけじゃないが、NHKにMAX鈴木氏が登場するのはこれが初めてではないだろうか。というか、これがNHKの番組なら、MAX鈴木氏の活躍にここまで密着するだろうか。この点ひとつ取っても、宇宙人制作番組説を打ち捨てることはできないのである。

しかし宇宙人の番組かもしれないという不審は、そんなところにだけあるのではない。番組全体の構成が、どこか地球人離れしているのである。

大食いから始まった話は、やがて「オオグイは特別ではなかった!」と進んで、肥満の問題に移っていく。人類の三割が肥満だという。僕も腹がだいぶ出てきたから他人事ひとごとではなく、考えちゃうなあと思っていると、話は「フードロス」から「雑草を食べる人」とか「小さな料理を作る人」などの紹介になり、「地球人は2030年までにフードロスを半減させる目標を掲げている」と締めくくられる。

なるほどネエー、と、自分の食生活を反省する。番組がそういうメッセージを訴えているように見えるからだ。けれどもよく考えてみると、本当にそんなメッセージがあったのかどうか、はっきりしないのである。

宇宙人たちは、地球のフードロスの原因が大食いにあるとは言っていないし、肥満がいけないとも言っていない。雑草を食用にすればフードロスがなくなると訴えているわけでもない。フードロスの原因として地球人なら誰でも思いつく、賞味期限とか消費期限といった言葉は、番組の中にはあらわれない。おまけに地球のフードロスは問題だと言っているMCの衣装には、びっしりと乾燥マカロニ(少なくとも人類にはそう見えるもの)が、飾りとしてつけられているのである。

人類代表が被告となる「地球大法廷」

地球人ならこんな番組の作り方はしないのではないか。もっと筋道の通った、主張の明らかな番組になるのではないか。そう思っていると、番組は目を疑う展開を見せる。それが後半の「地球大法廷」だ。

これは地球の海底にある法廷で、人類の所業がミジンコ裁判長に裁かれる。人類代表は近藤春菜氏で、彼女が被告席に立たされる。一方の原告はというと、アフリカに住むサバンナシマウマである。人間である原告代理人によって語られるシマウマの窮状は、僕にはまったく知らないことだったので、興味深く、気の毒だった。しかしこのシマウマの話は、大食いともフードロスとも、何の関係もなく出てくるのである。

確かに考えさせられるけれど、全部バラバラじゃん!と僕は思い、しかし、それから考え直した。もしかしたらこれが、宇宙人のテレビ番組の作り方なのかもしれない。

大食いが人類の特異な営為であるのは事実だろう。フードロスが問題なのも事実だ。雑草を食べる人から学べることもあるし、サバンナシマウマに迫っている危機も無視するわけにはいかない。宇宙人はそれらを意味ありげにまとめる必要を感じないのだろう。彼らはただそれらの問題を並列的に見せていき、放置する。ここに並列された事柄のうち何を受け止め、何を考えるかは、視聴者の一人一人にゆだねられている。全宇宙はこれを見て面白がっているだけかもしれないが、当事者である我々地球人にそうはいかない。ボケっとしていると我々は、ミジンコに滅ぼされかねないのだから。

★著者プロフィール

藤谷 治(ふじたに・おさむ)
1963年東京生まれ。小説家。2003年『アンダンテ・モッツァレラ・チーズ』でデビュー。2014年『世界でいちばん美しい』で第31回織田作之助賞受賞。ほかに『船に乗れ!』三部作、『燃えよ、あんず』、『睦家四姉妹図』など著書多数。

★藤谷 治さんの「最近、何みてた?」

・ETV特集「激変する西之島〜太古の地球に出会う旅〜」(NHK Eテレ)
火山の大噴火による地面の創生という地球史レヴェルの大事件を目の当たりにするというのは、求めても得られるものじゃない。テレビよ、ありがとう!と素直に思えた番組。

・ストーリーズ「羽生善治〜天才棋士50歳の苦闘」(NHK)
鬼気迫る七冠の時代を過ぎ、無冠となった史上最高の棋士の今を追う。あと一歩でタイトルに手の届かない羽生の、新時代の将棋を学び続ける美しさ。できるならこのように老いたい。

・「殴り愛、炎」(テレビ朝日)
ドロドロの嫉妬劇を、これ以上ないほどデフォルメした意図的ムチャクチャドラマ。荒唐無稽な筋立てに悪ノリと言っても過言ではない演技、こんなのよく実現したなあ!と感動。

★レビュー番組

宇宙の人気番組「いとしの地球アワー」

【再放送予定】
5月23日(日)[総合]前1:25~2:05 
※22日(土)深夜
(初回放送:5月5日(水・祝)[総合]後8:15)

宇宙のある星で放送されている「地球」情報番組という設定で送る、SDGsをテーマにしたエンターテインメント。今回のテーマは「オオグイ」。宇宙人から見ると、地球人は飽食の一方でダイエットに励み、惑星全体でフードロスに悩む奇妙な生き物だった!? 番組後半は、地球に暮らす動物たちが、勝手し放題の人類を訴える法廷ドラマ。サバンナシマウマから届いた訴状とは? そしてミジンコ裁判長(声・薬師丸ひろ子)が下す判決は?

【出演】薬師丸ひろ子、朝倉あき、近藤春菜(ハリセンボン)、河北麻友子、後藤拓実(四千頭身)、MAX鈴木

【司会】安田 顕、壇蜜

【アナウンサー】森 花子

【語り】橋本さとし

▶︎ 関連ページ

関連記事

その他の注目記事