カナダの森で感じ、スカイツリーで決意した環境の話

「この森は2050年にはなくなってしまうかもしれない」

2005年、カナダの広大な森の展望台で、ガイドさんがそう言いました。当時、中学生だった私は、とても驚いたことを今でも強烈に覚えています。

カナダの森は日本の森とは違っていて、あまりにも広大で、見渡すかぎりが緑でした。木々はとても太くて、大きくて、うんと背が高くて、ずっとずっと昔からそこに息づく命を感じました。

それでも2050年にはこの長い歴史を育んできた命が失われてしまうかもしれないというのです。一体どうして?

その時私はとても不安になり、地球の終わりのように感じました。

調べてみると「地球の温暖化」、つまりは温度上昇と環境破壊の連鎖が深刻な事態を引き起こしていることがわかりました。このままいけば、本当に2050年にはあの森がなくなってしまうのではないか。

このままじゃだめだ。

大学では省エネルギー設備について学ぼうと決めていました。
大学卒業後はNHKに就職して、放送を守るということを仕事にしています。
しかし、地球環境への貢献を忘れたわけではありませんでした。

私がこれまで取り組んできたこと、これからチャレンジしていくことをみなさんに少しだけ知っていただけたら幸いです。
(技術局送受信技術センター送信部テレビグループ 玉田旭)

職場は地上634メートル

オフィスのある隣のビルとスカイツリーを行き来しています

私の職場は東京・渋谷のNHKではなく、墨田区の東京スカイツリーです。

なぜ? と思われるかもしれませんが、みなさんのご家庭のテレビの映像は、元をたどれば電波に乗って届けられています。スカイツリーは、電波塔としての役割も担っているのです。

さまざまな人たちの手によって作り上げられた番組を送り出す、まさに最後の場所です。

私は、この場所で設備の保守や点検を担当しています。

眺めのよさは、この職場の特権かもしれませんが、ひとたび、ここでトラブルが起きれば放送が届けられない。日々、緊張と責任感を持って、仕事に臨んでいます。

放送も環境も守りたい!

今は放送を守る仕事をしていますが、大学時代は環境を守るために太陽光発電や燃料電池といった省エネルギー設備の研究をしていました。

ただ、その目標を形にすることは想像以上に難しいことでした。

例えば19世紀初頭に原理が考案された燃料電池。今でこそ一般にも知られていますが、初めて実用化されたのは1965年、スペースシャトルに搭載された時です。

実に150年以上もの時間がかかりました。それからさらに時間が経った現在でも燃料電池自動車などが登場したとはいえ、まだ社会で広く普及するまでには至っていません。

このように研究の成果が形になり、技術が生活に浸透していくには大抵、長い時間とコストがかかります。その道のりの長さを私は少しも分かっていなかったのです。

そんな厳しい現実を理解し始めていたころ、大学でたまたま開かれていたNHKの就職説明会に参加しました。自分の知らない世界だなぁーと思いながら話を聞いていくなかで、NHKが持つ「伝える力」に魅力を感じました。

地球環境が厳しい現実に直面していたとしても、それを知らない人にとっては、考えることもない世界です。

伝えることは、知ってもらい、考えることにつながる。

研究のように一つのことを突き詰めて、実現させることは難しいとしても、NHKでなら番組を通じて、あるいは番組を送り届ける放送設備の管理などを通じて、環境をはじめいろいろな問題を伝えることができるのではないか。

そう思いながら、就職後も自分の経験やスキルを活かせる機会を待っていました。

チャンスは突然に

そんな私に去年(2021年)、チャンスが訪れました。

社内イントラを眺めていたときに目に入った「環境経営タスクフォース」の文字。
NHKで環境に配慮した施策の実践に取り組む職員を募集しているという知らせでした。それを見た瞬間に迷わず応募を決めました。

組織の現状もわかっていませんでしたが、自分が目指すものはハッキリしていました。

『地球への貢献』です。それはNHKという組織にとってもプラスになるはず。

それができるなら、ぜひやりたいと選考を受け、何とか機会を得ることができました。
ここからが私の挑戦の日々でした。

24時間放送のテレビ局 対策へのカギはCO2

タスクフォースのメンバーによる勉強会の様子

環境経営タスクフォースには、東京だけでなく、北海道から沖縄まで各地の放送局に勤務する職員17人が集まりました。業種もアナウンサーに記者やディレクター、私のように技術まで、幅広い職員がそれぞれの知見なども生かして取り組むことになりました。

そこで、まず私が取りかかったのは自分たちの現状を知ることです。
NHKで使用される電気やガスといったエネルギーの量とその内訳を調べることにしました。

NHKは24時間放送を出しているため、放送時間帯は常にエネルギーを使用していることになります。なかでも電力は膨大で、NHK全体のCO2排出量の90%以上は電力によるものでした。

NHK環境報告書2021より

ただ、NHKの番組は数が多いうえ、ジャンルも非常に多岐にわたっていて、どの番組でどれくらい電気を使用しているかの細かいデータがありませんでした。
これでは対策の立てようがありません。

そこで、データ取得のためにNHKの代表的な番組の1つ、「大河ドラマ」を対象に使用電力の測定を提案し、実際に取りかかることになりました。

想像以上の困難 電力測定に悪戦苦闘

測定器

とはいえ、いきなりすべてを調べることは難しく、今回は大河の制作過程のうち、放送センター内で使用される電力の一部を測定することに。

しかし、この測定、想像以上に骨が折れるものでした。

まずはスタジオや編集室など制作過程で使用している場所を調査、そして、その場所のどの電源を使用しているかを特定、さらに電源部分に肝心の電力測定器が取り付けられるかどうかを確認。

これだけでも調べ上げるのに2か月ほどを要してしまいました。

そこから測定器の取り付けを専門の業者に依頼し、実際に測定が開始できたのは提案から半年後でした。

いざ結果が上がってきても、そのデータ量が膨大で、データの処理にさらに1か月以上の時間がかかりました。何事も簡単ではありません。

ただ、このデータを基に、制作過程のどの部分でどれくらいの電力を使用しているのかをある程度“可視化”することができてきました。

一方で、予想以上に電力使用が多い部分もあり、データだけではその原因が分からないところもありました。

そのため、より詳細にデータを分析して、電力量を減らすための省エネ機器の導入などを検討することになりました。

まだ始まったばかり

環境経営タスクフォースとしての活動はことし6月、1年の活動を経ていったんその役目を終えました。

ですが、環境経営の取り組みは始まったばかり、本番はここからです。

環境経営タスクフォースでは活動期間のなかで、再生可能エネルギーの導入や、業務用車両の電動車化促進、プラスチックごみ削減に向けた取り組みなど、さまざまな施策を実践してきました。

放送センター内に設置した展示

私自身はNHKの現状を知ることに主眼をおき、取り組みを進めましたが、時間の問題もあり、その詳細をとらえきるには至りませんでした。
今後、継続した調査・分析が必要なことは言うまでもありません。

加えて、今年の夏は特に暑く、電力のひっ迫が非常に大きな問題になりました。
そうしたなか、各家庭での努力もさることながら、多くの企業や組織でも、「使用電力量の削減」が可能なかぎり求められました。環境問題を報じている私たちNHKには、特にその責任があるとも感じています。

みなさんが暮らしの中で感じている“便利”は、電気やガスといったエネルギーによってもたらされているものが多くあります。

ただ、お使いのパソコンや冷蔵庫などは、触ると熱くなってはいませんか?
それはエネルギーのロスが発生していることを意味しています。ほとんどすべての機器はこのエネルギーのロスが常に発生しているのです。

使う量とエネルギーロスを減らすこと。この2つをどれだけ実践できるかが、今後の地球環境の行方を大きく左右すると思います。

今回私が取り組んだことは、そのための最初のステップであり、これからさらに活動を広げていかなければなりません。

個人としても組織としても頑張りたい

私は、地球の未来を守るということが人類の最優先課題だと常々思ってきました。

地球の海水温度はこの100年で0.5℃程度上昇しています。たかが、0.5℃と思うかもしれません。海水の量は約14億立方kmです。

ちょっと想像がつかないですよね。富士山の体積が約1400立方kmなので、地球上の海水は富士山の100万倍の量になります。

それが0.5℃上がったのです。物質の温度は熱を加えると上がります。逆を言えば熱を加えなければ上がりません。
この熱は、人間がエネルギーを使用することにより増加しています。

環境にやさしい社会の実現には、少しずつの努力と技術の進歩を融合させるほかありません。

家庭や個人ができることと、組織ができることは、それぞれ違っていて、それぞれが大切です。私はいくら欲張りだと言われても、そのどちらも頑張りたい。あきらめたくありません。

新しい技術を開発するような天才にはなれなくても、自分ができるかもしれない可能性を探し、地道な努力を重ねて地球に貢献する。これが私の望む未来への第一歩です。

今後も同じ意思を持つ方々をはじめ、まだ環境には関心がないという人たちも巻き込んで、取り組みを加速させたい。自分が思い描く未来のために、これからも努力を続けたいと思います。

技術局送受信技術センター送信部テレビグループ 玉田旭

2016年入局。2021年6月まで札幌・釧路局に勤務。2021年7月からスカイツリーにてTV/FM放送設備の保守管理、環境経営タスクフォース(~2022年6月)を兼務。
好きな番組は「おやすみ日本 眠いいね!」「おげんさんといっしょ」「世界ふれあい街歩き」

▼玉田のお気に入り番組はこちら▼

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