2016年9月20日(火) 初回放送
語り:田畑智子
撮影時期:2016年5月
ライン川をのぞむ「ミュンスター・ベルグ(ミュンスターの丘)」には、赤い砂岩で造られたバーゼル大聖堂がそびえています。その歴史は12世紀にさかのぼり、ロマネスク様式とゴシック様式が見事に調和する建造物は見ごたえ十分。これまで幾度となく修復が重ねられ、大切に守り続けられてきたバーゼルのシンボル的な存在です。
大聖堂ではいま、30年を超える修復作業が進行中。熟練の石工さんたちが、一つ一つ手作業で石を削り、古い彫刻の修復を行っています。200年前に作られた彫刻と格闘する男性が「昔の職人の技は感動の連続だ」とキラキラした笑顔を見せてくれます。
そんな職人さんたちが唯一ホッとできるのは休憩の時間。お邪魔してみると・・・大聖堂に大テラスがあるではありませんか! そこからはライン川を中心に広がるバーゼルの美しい街並みと、国境を接するドイツが一望できます。「大聖堂を建てるために南ドイツで採れた赤い砂岩が使われたのさ。このライン川で運ばれてきたんだよ」と職人さんが教えてくれました。
川の恵みが育んだ絶景は、今もバーゼルの人々の大切な宝物です。
ヨーロッパの中でもその保存状態の良さで知られるバーゼルの旧市街。さすが古いだけあって、車も通れないほどの細い路地が縦横無尽に伸びていてまるで迷路のよう。築700年を超す家が軒を連ね、間口の狭い家々が寄り添うように建ち並ぶ旧市街をぶらぶらと散策していると・・・緑あふれる素敵なお庭を発見。アジサイやイチジク、ブドウの木が生い茂っていて、気持ちが良さそうな空間ではありませんか。
そこで出会ったのはご近所さん同士だという2人の男性。庭仕事を終え、冷えたワインで一休みをしているんだとか。「この庭は4軒の家が共有する場所で、みんなの憩いの場なんだよ」と聞かせてくださいました。
ライン川の交易で商工業が花開いたバーゼルの中心部は急に人口が増えたんだとか。その結果、狭い土地に隙間なく家々が建てられることになったんだそう。そうしてできた街を今も変える事なく暮らしているおかげで、旧市街では今も昔ながらのご近所付き合いが盛んなのだと教えてくれました。
旧市街の外れ、聖アルバン地区にやってきました。緑に囲まれた石段を上っていくと突然現れたのは大きな塔。1400年に街を囲む要塞の一部として建てられ、かつては街の入口だったのだという「聖アルバン塔」です。すると、塔の中から軽快な音楽が流れてくるではありませんか。
中には伝統の祭りに毎年参加するという鼓笛隊のグループ「シュペッツィ」のメンバーが集まっていました。シュペッツィとは、バーゼルの方言で「仲の良い友達」という意味なんだそう。横笛を担当する小さな子どもたちから、太鼓担当の男性たちなど、70人ものメンバーが週に一度練習しているんだそうです。中には親子で参加している人、7歳から参加して今年で50年目という人も。練習の後は、週替わりの食事当番がみんなの夕食を用意するのが慣わしなんだとか。「僕たちは大家族。困っている事があれば助け合う本当のシュペッツィなんだ」と誇らしげに話してくれました。