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放送内容

経済

シリーズ "ジャパン ブランド"
第2回
"日本式"生活インフラを輸出せよ

初回放送

総合 2014年1月12日(日)
午後9時00分~9時58分 総合

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2020年には、270兆円もの巨大市場が生まれると予測される「環境産業」。そこに日本人が重視してきた「安全」「清潔」「快適」を実現するシステムを輸出しようという動きが加速している。タイでは、丸紅とJR東日本のグループが新都市鉄道システムのメンテナンス事業を受注し、ベトナムでは東京メトロが運行管理を請け負うなど、正確な運行を誇りながら「欧州規格」の壁を越えられなかった日本の鉄道システムが海外で真価を発揮し始めた。さらに、味の素はベトナムで「食育」の普及に乗り出し、北九州市という「公」が先頭に立って世界各地でゴミ処理・水道事業ノウハウを広めている。「技術への過信」「極度なリスク回避」「トップの決断の遅さ」といった課題を克服し、“ジャパン・ブランド”への信頼をビジネスにつなげ、新興国の発展に貢献しながら共に成長できるのか?「グリーン・ジャパン」の最前線を描く。

放送を終えて

「一緒にNスペを作りませんか」。大型企画開発センターのディレクターからの電話を受けたのは、去年10月下旬のことでした。Nスペの“ジャパン・ブランド”シリーズでインフラ輸出について特集する予定で、自治体の先進的な取り組みとして北九州市の事例を取り上げたい。ついては北九州局も参加できないか、という提案でした。これを契機に、北九州市が進めるインドネシアでの「生活インフラ輸出」と、ベトナムでの「海外水ビジネス」の2つのチームで、Nスペに向けた取材がスタートしました。
といっても、北九州市による環境事業のアジア展開については、北九州局としては3年前から継続的に取材していました。3年前というのは、北九州市が海外展開の拠点として「アジア低炭素化センター」を開設するとともに、官民連携で「北九州市海外水ビジネス推進協議会」を発足させた時期にあたります。北九州市がこれまでの「国際協力」から「国際ビジネス」へと転換した“元年”であり、私たちもニュース取材のテーマの柱の1つに据えていました。特に、北九州市と「環境姉妹都市」提携を結び、北九州市の仲介でゴミ処理や工業団地での省エネ調査、飲料水供給事業など市内企業が関わる5件のプロジェクトが展開されているインドネシア第2の都市・スラバヤについては、過去2回現地を取材。私自身も去年9月、アジア低炭素化センターの市職員と企業の担当者の現地入りに合わせて同行取材し、ニュース企画で放送したばかりでした。
今回のNスペの取材でもスラバヤを再度訪れましたが、2度のスラバヤ訪問で印象に残っていることが2点あります。1点は、スラバヤ市の職員や環境モデル地区の住民から度々発せられる「タカクラ」という言葉です。「タカクラ」というのは、北九州市内の企業の技術者、高倉弘二氏が開発した「高倉式コンポスト」と呼ばれる家庭の生ゴミを堆肥にする技術のことでした。高倉氏はスラバヤの家庭を一軒一軒訪ね歩き、時には住民と一緒に汗をかきながらコンポストの技術を助言して回ったということです。高倉氏の熱意は地元住民の絶大な信頼をつかみ、今では「高倉式」はスラバヤ市内の3万世帯に普及。その結果、スラバヤでは生ゴミの量が大幅に減るとともに、市民の環境意識も向上したと言われています。スラバヤ市の幹部も、「『タカクラ』の成功をきっかけに、ゴミ問題だけでなく水やエネルギーなど様々な分野で北九州との具体的なプロジェクトが始まった」と話していました。印象に残ったもう1点は、北九州市の職員がスラバヤを訪れると、彼らに会いにやって来るスラバヤ市の複数の職員の存在でした。なかには流暢な日本語で挨拶される方もいました。北九州市は13年前からスラバヤ市の職員を研修生として受け入れる人材交流を続けていて、彼らも元研修生でした。北九州市で研修を受けたスラバヤ市職員は21人にのぼり、このなかには、当時、美化局長だった現在のスラバヤ市長も含まれています。現在の北九州市とスラバヤ市の間の信頼関係の土台には、高倉氏のような地道な活動を続け、成功モデルを築いた技術者の存在や、両市の間の“顔の見える”交流の歴史があるのだということを改めて感じています。
番組の中でもご紹介しましたが、北九州市が市内企業などのアジア展開を支援したプロジェクトの数はアジア30の都市で54件にのぼります。なぜ北九州市にはこんなことが出来るのか。取材を通じてわかったのは、北九州市には2つの“強み”があるからこそ実現できたということです。1つは官民連携という強み。北九州市には、かつて深刻だった公害を官民一体で克服した経験があり、行政と企業との距離が非常に近い。連携を取りやすい土壌が備わっていることです。インドネシアを同行取材した際もよく耳にした言葉は「チーム北九州」。企業のアジア展開を官民一体で実現しようという絆の深さを感じました。もう1つの強みは、30年以上にわたって環境面での国際協力を続けてきた実績です。公害を克服する過程で、市内企業には様々な環境技術やノウハウが生まれました。こうした技術やノウハウを、これから同じような問題に直面することになる新興国や発展途上国に伝えようと、北九州市では30年以上前から企業が主体となって官民連携で海外から研修生を受け入れてきました。受け入れた研修生の数は、世界150カ国から7000人以上にのぼります。こうした長年にわたって構築してきた国際的なネットワークがあるからこそ、「国際協力」から「ビジネス」へと、スムーズに移行できるのではないかと思います。「北九州で出来るなら他の自治体でも出来るのではないか」という意見も聞かれますが、私はこうした2つの“強み”を持つ北九州市だからこそ可能なのだと感じています。
北九州市は今、スラバヤでゴミ処理だけでなく、省エネに水道事業、それに都市交通の4つの分野にわたる生活インフラの“パッケージ輸出”を進めようとしています。北九州市では当たり前の“日本式”の安全・安心で快適な生活インフラを、街ごと移転しようという壮大な試みです。パッケージにすることによってビジネスの裾野が広がり、多くの市内企業の参入を促すとともに、スラバヤ市の街の環境改善も目指す、まさにWin-Winの関係を目指しています。スラバヤで成功モデルが出来れば、同様の試みを他のアジアの都市にも“横展開”する計画です。さらに、ベトナム・ハイフォンに導入された北九州市が独自に開発した高度浄水処理装置は、ベトナム最大の都市、ホーチミンをはじめ8つの都市が導入に向けた検討を始めています。かつて経験した公害という逆境をチャンスに変え、環境技術を武器に日本式の生活インフラをアジアの新興国に導入しようと果敢に挑戦を続ける北九州市。その動向を今後も追い続けていきたいと思っています。


北九州局記者 来田あづさ

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