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老人漂流社会 親子共倒れを防げ

総合 2015年8月30日(日)午後9時00分~9時49分

いま地方都市では、年金で暮らす高齢者の親が中高年世代の子どもを養うケースが増えています。同居する親子が経済的に追い込まれ、やがて共倒れの危機に直面する実態を取材。超高齢社会がもたらす厳しい現実、さまざまな課題にどう向き合えばよいのかを考えていきます。

チーフ・プロデューサー 板垣淑子

「死にたい」という言葉から

昨年、生活保護水準以下で生活するひとり暮らしの高齢者が“老後破産”に陥るケースが急増している実態を放送した際、その暮らしぶりに密着ロケした中でのインタビューでほぼすべての方が口にする言葉がありました。それが「死にたい」という言葉だったのです。なぜ、そこまで高齢者の方たちが追い詰められてしまうのか。それが「老人漂流社会」の続編を作るにあたっての取材の出発点となりました。

当初は、「死にたい」という言葉の背後に何があるのか、探るための取材を進めました。そこで、地方都市で増加している“高齢者の自殺”を取材することにしました。しかし、実際に取材する中で各自治体の担当者から聞いたのは、高齢者が子どもと同居していても、「生きていくのは大変だ」という相談が目立って増えているということでした。

進学や就職等で都市部に出た子どもの多くは、働き口が少ない故郷には戻らず、都市で仕事をしてきました。しかし景気が低迷し、雇用情勢が厳しい状況が続いていたため、非正規雇用の仕事しか見つからない人も少なくなく、40代、50代を迎えると肉体的にきついこともあり、リストラされたり、収入が不安定化。同じころ、親に介護が必要になったりすることもあって、親元に戻ってしまうケースが増加しているのです。

もともと年金だけで生活を維持することが厳しいひとり暮らしの高齢者にとって、医療や介護といった財政的な負担が重くのしかかってくるのが70代後半。その時期に親に頼らないと自立できない中高年が増えてきたのです。親子ともに元気なうちは、それでも寄り添ってギリギリの暮らしをしていても、病気など日常的に当たり前に起きる出来事から、破産状態に追いつめられてしまうのです。

  • 老人漂流社会 親子共倒れを防げ 01
  • 老人漂流社会 親子共倒れを防げ 02
  • 老人漂流社会 親子共倒れを防げ 03

家族を支える収入は親の年金だけ

「親子共倒れを防げ」の舞台、札幌市。札幌市の場合、市内に働き口がないわけではないのですが、やはり決定的に不足しているため、東京や名古屋などの大都市圏に若者を送り出してきました。そうした若者が、今、中高年になり出戻ってきていることがわかりました。番組では大規模アンケートを実施し、そのなかでNHKの取材にご協力いただける方は連絡先を付記していただくようお願いしました。すると非常に多くの方が、苦しい現状を訴えたい、親子で暮らしていても辛いということを広く社会に伝えたいという思いで取材に応じてくださいました。

今回、放送にも登場していただいたご家族の場合、正規雇用で働いていた息子が親の介護のために実家近くに戻ることになり、非正規の仕事に転職。やがて親の認知症が進み、24時間目が離せない状態になり離職せざるを得なくなってしまいました。気づいたら収入は親の年金のみ。介護費用も工面できないという苦境に立たされています。

番組では紹介しきれませんでしたが、アンケートからは 60代後半を迎えた“団塊世代”の苦悩も浮かび上がってきました。一方では、両親(あるいはパートナーの親)を介護しなければらなないという負担を背負いながら、もう一方で、いわゆる“団塊ジュニア”世代の自立できない子どもたちを養っていかなくてはならない、という “二重苦”の立場に立たされている方が相当いらっしゃったのです。そうした中には、65歳を越えて高齢者となりながら、90歳の親を介護し、自立してくれない40代の子どもを抱え、シルバーハローワークで職を探し、その収入で三世代の生活を支えているという団塊世代の方がいました。アンケートで「生きていくだけでやっと」と訴えた声は忘れられません。

  • 老人漂流社会 親子共倒れを防げ 04
  • 老人漂流社会 親子共倒れを防げ 05
  • 老人漂流社会 親子共倒れを防げ 06

超高齢社会、孤独死も倍増!

シリーズ老人漂流社会で、「終(つい)の住処(すみか)はどこに」(2013年放送)、「認知症800万人時代」(2014年放送)、「老後破産」(2015年放送)、「親子共倒れを防げ」と、超高齢社会の取材現場を歩いて切実に感じるのは、このまま進めば私たちが高齢者になるころには想定を越える深刻な事態を招いてしまうのではないかということです。

たとえば「孤独死」の問題があります。東京23区の統計では年間の孤独死がここ10年足らずで倍増。65歳以上の高齢者の孤独死の件数は、平成12年に1,281人だった数が、平成17年には3,535人(監察医務院調べ)と3千人を超え、さらに増え続けています。私たちのすぐ近くで毎日のように孤独死が起きているかもしれないというくらいの頻度で、都市部の高齢者の孤立や格差の問題が深刻化していることがわかります。

孤独死というのは家族と同居していれば大丈夫だということではありません。私たちが取材したなかには高齢者同士が一緒に暮らしているケースが多く見られました。どちらか一方に介護が必要になったり、あるいはお互いが認知症になって相手を把握出来なくなる。そんな認知症同士の夫婦はいうまでもなく、認知症同士の姉妹や兄弟、親子の例も取材しました。その人たちを手厚く見守るには世帯数があまりに多く、公的な手段だけで見守ることはますます難しくなっています。

  • 老人漂流社会 親子共倒れを防げ ポスター

現実を直視、自身の老後を考える

日本の超高齢社会は欧米に類のないスピードで進んでいます。前例がないだけに解決策を示すモデルもなく課題は山積しています。ベースには年金を家計の柱として暮らしていけないという経済的な状況がありますが、それらすべてを税金だけで解決しようとしても難しい。もちろん社会制度を抜本的に見直す必要はありますが、それも含めていま日本が試されている非常に難しい課題です。

これからさらに高齢者は増えていきます。独居高齢者や高齢者だけで暮らす世帯も増え続けていきます。事態が深刻化しつつある中で、簡単に解決策を提示することはできないのですが、いま日本で起きている「現実」を伝えることの大切さを実感しています。

現実を知ることで、ひとりひとりの方が自身や家族の老後を直視し、自分たちで何か備えることができるかも知れない。一足飛びに対策がとれるような社会になることは難しくても、よりよい方向に向かってくれることを願えばこそ、伝えることが必要だと思っています。地域の単位、あるいはもっと小さな隣近所の単位でも、こうした事態に対して何かできることはないのか、支え合うために何ができるのか。この番組をきっかけに、そうしたことを考える出発点にしていただければと思っています。

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