NHKアナウンス室

アナウンサー仕事の流儀

バックナンバー↓

インタビュー 眞下 貴

ラジオの将来は明るい。
7/5
ラジオで、井戸端会議を。
  • 現在、担当している『Nらじ』について教えてください。

    毎日のニュースや話題をわかりやすくお伝えするのはもちろんですが、ニュースはあくまでも材料です。それらについてリスナーのみなさんと、ある種、井戸端会議のようにしゃべり合いたいと思っています。
    番組コンセプトは、『ニュースのしゃべり場』です。僕は6時台を担当していますが、「今日もニュースを語り合いましょう」と言ってスタートしています。

  • ラジオで「語り合う」とはどういうことですか?

    リスナーの方にツイッターやメールでそのときに取り上げているニュースについて、みなさんが感じたことや思っていることを送ってもらいます。
    僕の前にはパソコンがあって、その画面にはリスナーからのメッセージがリアルタイムで表示されるようになっています。気になるコメントがあれば、ニュースの合間、合間にそれを紹介するようにしています。
    つまり、ニュースを僕たちがリスナーのみなさんに一方的に届けるのでなく、それを聞いたみなさんの反応も合わせて紹介しています。井戸端会議のような双方向のやりとりを目指しているんです。

  • どのコメントは採用するかは誰が決めるのですか?

    どのコメントを拾って、どう広げていくかは基本、僕に任されています。それによって、台本から逸脱することも多々あるので、副調整室にいるディレクターはピリピリした顔をしていると思いますよ(笑)。

  • いろいろなことを気にかけなくてはいけないので、大変そうです。

    番組ではニュースだけでなく、リモートでゲストの方に登場していただいて、さまざまなテーマで話を聞くコーナーもあります。
    ふつうなら原稿を読むことや、ゲストの方の話を聞くことに集中しますが、『Nらじ』ではリスナーから次々に届くコメントにも注意を払い、「今だ!」というタイミングで紹介しているので、いろいろなことに集中しなければいけないという難しさはあります。
    でも、リスナーのみなさんとある意味、会話に近いことをやりながら番組を進めていくのが、今は楽しくてしかたないんです。

  • 今の時代、ラジオとはどういうメディアですか?

    ラジオは個に対するメディアだと思います。ツイッターも、個人としてつぶやいて、それを読んだ人が個人として反応する。そういう個人と個人のやり取りみたいなものがラジオでも成立するのではないかと思っています。
    そういう意味では、ラジオは今の時代に合ったメディアではないでしょうか。リスナーのみなさんとのやり取りを通して、ラジオの楽しさや可能性を広げていけたらいいなと考えています。これは、僕にとってはワクワクするような挑戦です。

7/12
ディレクターになりたかった!
  • アナウンサーになろうと思ったきっかけを教えてください。

    じつはアナウンサーになりたいと思ったことはなく、ずっとディレクター志望でした。NHKに入って、ドキュメンタリー番組を制作したかったんです。
    採用面接でも、今の社会に問題提起するような番組を作りたいとアピールしました。

  • それが、どうしてアナウンサーに?

    最終面接のときに、面接官の方から「眞下さんは制作希望ですが、こちらはアナウンサーで考えていますが、それでいいですか?」と聞かれました。「えっ!」と思って一瞬パニックになりましたが、ここで首を横に振ると、NHKに入ることさえもできないと思い「あーーー、はい」と(笑)。

  • アナウンサー採用になった理由は聞きましたか?

    それは、今も謎です(笑)。ただ、当時はディレクター志望でもアナウンサー適正検査というのがあって、スタジオに入って2分間しゃべりました。僕はアナウンサー志望ではなかったので、地元の関西弁で緊張することもなくしゃべりました。
    今、考えるとそのときに「こいつはディレクターよりアナウンサーのほうが合っている」と判断されたのかもしれません。

  • アナウンサーでの採用が決まったときの気持ちは?

    ドキュメンタリー番組を作ることができない、というショックはありました。
    あと、母親に「アナウンサーとしてNHKに採用された」と報告したら、「あなたがアナウンサー!NHKは何を考えているの」と大笑いされました。僕がアナウンサーに向いているとは、母親も思っていなかったのでしょうね。

  • 新人のころは、どんなことで苦労しましたか?

    すべてですね。基本的な業界用語もわからないし、子どものころから学生時代まで神戸で育ったので、関西のイントネーションがなかなか抜けなかったので、いつも先輩から怒られていました。
    中継で、覚えていたはずのコメントが一切出て来ず「えー、あー、うーん、えー」と言って終わったこともありました。

  • 「ディレクターになりたい」という夢はあきらめたのですか?

    ディレクターでなくてもアナウンサーとして様々な番組を制作してきました。だから「番組を作る」という夢は叶いました。
    それでも若い頃はずっと「いつかはディレクターになってやろう!」と思っていました。ただ、アナウンサーの仕事から逃げ出して希望を出すのは嫌だった。なんだか負けたような気がして・・・。
    アナウンサーとして自分が納得できるような仕事ができるようになってから、みんなに惜しまれながらディレクターになろう!と。そう思ってやっていたら今の歳になりました(笑)。
    これだけできたらアナウンサーとして十分だ、というのはないのかもしれません。次から次に、自分の課題が出てくるんです。

7/19
「この状況を、はやく伝えてくれ!」
  • 新人のころで印象に残っていることは?

    アナウンサーでも、NHKはいろいろな番組を作ることができます。実際、たくさんの番組を作らせてもらいました。
    実は、アナウンサーとして番組に出演するときなどには、ディレクター志望だったこともあり、自分の頭の中にディレクターとしての自分が出てきて、アナウンサーの僕にダメ出しをするんです。

  • それは、具体的にどういうことですか?

    たとえば、自分が作った番組にナレーションを自分で入れると、もう1人のディレクターの僕が「そんな表現じゃないだろう!違うだろう!」と、叱りつける。ですから、アナウンサーとしての僕はいつも落ち込んでいました。

  • 反省、反省の毎日ですね。

    アナウンサーになって2年目、朝の中継が終わったときのことです。みんなで後片付けをしているとき、僕だけ泣きそうな顔をしていました。その日もディレクターの僕が「あの中継は何だ!」とずっと怒っていたからです。
    すると、機材やスタッフを運んでくれるドライバーさんが、僕を車の後ろに呼んで「さっきの中継、眞下くんは納得いかなかったかもしれないけど、ほかのみんなは上手くいったと言っている。反省するのはいいけど、それはみんなの前ではなく家に帰ってからにしてくれるかな」と。
    ドライバーさんの言葉は、ディレクターの僕に突き刺さりました。仕事はチームワークが何より大切。なのに僕は自分のことだけ考えていたのかもしれません。アナウンサーの僕もそれからは、むやみに反省するのは止めました。

  • 今も忘れられない出来事は?

    神戸放送局の3年目の終わりに起きた阪神・淡路大震災は、その後の自分にも大きな影響を与えることになりました。報道の仕事に携わっていきたいと思うようになったのも、このときからです。

  • 具体的に教えてください。

    地震が起こったのは早朝だったのでまだ自宅にいました。急いで局に向かおうとするのですが、電車は動いてないし、タクシーも止まってはくれない。でも、幸いにも1台のタクシーが止まってくれました。そして、目を覆いたくなるような街並みを見ながら、波打っている道を走って局へ。
    到着して、運賃を払おうとすると運転手さんは「いいよ、いいから」と。でも、そういうわけにはいかないので払おうとしたとき、パッと振り返って「そんなのいいから、NHKの人間ならこの状況をはやく伝えてくれ!」。

  • それから局で震災報道に携わるわけですね。

    報道している間ずっとその運転手さんの「この状況を、はやく伝えてくれ!」という怒りや悲しみが入り混じったような叫び声が頭の中を駆け巡っていました。
    何かを伝えることは、誰かの役に立ったり、何かにつながるかもしれない。いや、つなげなくちゃいけない!
    多くの人と出会い、たくさんの勇気づけられる言葉をもらいましたが、やはり僕の原点となっているのは、あの運転手さんの言葉なんです。

7/26
音声メディアの可能性を追求したい。
  • この先、やってみたい仕事はありますか?

    2021年の4月から『Nらじ』を担当するようになって、今はとにかくこの番組を単なるラジオ番組にしたくない、ラジオという枠をどんどん超えていきたいと思っています。

  • 枠を越えるというのは?

    今は、スマートフォンでラジオを聴いている人がどんどん増えています。ということは、ラジオはもうインターネット上の音声メディアだと言ってもいいのではないでしょうか。
    インターネットは、さまざまな人をつなぐことができるので、ラジオという既存のメディアに何かをプラスしたり、ミックスさせることで、新しいことができるのではないか?と考えています。

  • テレビではできなくてラジオならできることもありますか?

    むしろ映像がないことを強みにできることもたくさんあると思っています。たとえばインタビューにしても、顔を出したくない人もたくさんいます。テレビだとぼかしをかけたりして対応しますが、音声メディアだったならその心配はないし、インタビューでも本音が出やすいのかなと。

  • アナウンサーを目指している人にアドバイスを。

    いろいろなものを見て、いろいろなことを体験してほしい。見たもの、聞いたこと、経験したことは、どんなことも否定しないで、自分の中に貯めておいてください。
    アナウンサーという仕事は、身を削ってやる仕事だと思っています。それまで自分が、どれだけ見聞を広めてきたか、経験を積んできたかが全部出てしまいます。

  • 見聞や経験が大切なのですね。

    あとは、理解度も。ニュースや出来事について、自分がどれだけ理解しているかもすべて出てしまいます。これは、アナウンサーではなくてもそうですが、表層的なことだけでしゃべっているか、深く理解してしゃべっているかはすぐに伝わります。
    人は、自分の理解の度合いの中でしかしゃべることはできないのです。

  • アナウンサーの将来像については?

    今後は、AIや合成音声の技術がどんどん進んできます。ただ、文字を音声化するだけなら、人間はAIには勝てなくなるでしょう。時間もずれないし、何より僕のように噛まない(笑)。
    だから僕たちは、テレビを見ている人やラジオを聴いている人とどうつながれるか、共感し合えるかが大切になってくる。そのためには、自分の経験をストックした引き出しがどれだけあるかがとても大切になってくると思います。

  • ありがとうございました。

ページトップへ↑