NHKアナウンス室

アナウンサー仕事の流儀

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インタビュー 大橋 拓

デジタル時代に、どう挑むか。
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テレビの良さも、インターネットの魅力も。
  • 担当している『ニュース シブ5時』はどういう番組ですか?

    その日に起きた出来事を深掘りしてしっかりお伝えするというニュース番組としての顔と、今のトレンドをバラエティー豊かにお届けするという情報番組としての側面もあります。そのほかにも、著名人のインタビューなど、個性的なコーナーもたくさんあるので、多くの方に楽しんでもらえる番組だと思っています。

  • リポーターとして心がけていることは?

    ディレクターと相談しながら、みなさんに役立ちそうなもの、今ぜひ伝えたいことなどを取材してプレゼンテーションしています。
    この番組は、夕方に放送されているので、見てくださるのは60代や70代の方が多いと思います。今の現役世代のことや、もっと若い人たちがどんなことに頑張っているのかを取材し紹介することも多いので、番組を通して世代をつなぐことができればいいなと思っています。

  • そのほかの仕事について教えてください。

    今は、週に4日は『ニュース シブ5時』の仕事をし、週に1日はデジタルセンターというところで、パソコンやスマホで番組を楽しめる『NHKプラス』というサービスにかかわる仕事をしています。

  • 具体的にはどのようなことを?

    番組をテーマごとにまとめた「プレイリスト」の編集をしています。例えば、「#アナが見た!」というプレイリストがあるのですが、そこでは、いろいろなアナウンサーが見た番組をその人の感想とともにまとめて紹介しています。「あのアナウンサーは、こういうことに興味があって、この番組のここがおもしろいと言っているのか・・・じゃあ試しに見てみようかな」と視聴のきっかけになってくれればいいなと思っています。

  • インターネットの良さとは?

    たとえば、取材したことを「シブ5時」で伝えても、番組のことを知らなかったり、見ていなかったりしたら、その情報を必要としている人に届かないですよね。
    でもデジタルだと、検索やアーカイブ機能があるから、自分に必要な情報をピンポイントで探しやすい。『NHKプラス』であれば、放送後7日間なら、自分の好きなタイミングで見ることができますし、企画の内容がウェブ記事やSNS向けのコンテンツとして配信されることもあります。番組はいつもと変わらない視聴率だったのに、ネットではすごく再生回数が伸びたということもよくあります。

  • テレビとインターネット、それぞれの役割があるということですね。

    テレビやラジオというマスメディアで伝えることと、デジタルを通して届けること、その両方を意識していかなければいけないと思っています。

8/10
この仕事に出会えて、本当に幸せです。
  • 学生時代に夢中になっていたことは?

    大学では、英語劇のサークルに入っていました。それと並行して、自分でダンスチームを作って学園祭などで踊っていました(笑)。

  • それは、どのようなダンスですか?

    “腰のキレ”を重視した我流のダンスです(笑)。ダンスを習ったことはないので、ミュージックビデオなどを見ながら研究しました。
    当時はダンスの公演を見に来る人って、ダンスが本当に好きな人やダンス経験のある人がほとんどでした。そこで、振り付けをコミカルにしたり、昔の歌謡曲で踊ったりと、世代を問わず「おもしろい」と思ってもらえるダンスをやってみたいと思い、はじめました。
    自分でメンバーを集めて、選曲して、振り付けを考えて・・・。
    PR用の動画を撮って編集し、当時黎明期の動画共有サイトに投稿もしました。ちょっと変わったダンスでしたが、それでも学園祭では200〜300人のお客さんが集まってくれました。一からすべてをやったという充実感もあったし、本当に楽しかったですね。

  • そのころには、アナウンサーになりたいと思っていたのですか?

    じつは、小学生のころから弁護士になりたいと思っていました。ですから、大学でも法律を勉強していました。でも、大学の3年生になったときに、「自分が本当に情熱を注げる仕事は一体、何だろうか?」と考えるようになりました。
    きっと、ダンス公演のように企画から最後のアウトプットまで自分で関われるものが好きなんじゃないかと・・・。でも、それがどんな仕事なのかわからなくてすごく悩みました。

  • 悩んだ末に、たどり着いたのがアナウンサーだった?

    これは奇跡のような偶然なのですが、たまたま就活サイトからメールが来て、そこにあったNHKの採用サイトを何気なしに見たんです。するとそこには、NHKのアナウンサーは自分で企画、取材、編集までやって、最後は自分の声で伝えることができるみたいなこと書いてあって「これだ!これしかない!」と。それが、エントリーシートの締め切り2日前。本当にギリギリでした。
    ずっと悩んでいたからこそ、「やりたい」と思える仕事を見つけることができて良かったです。

8/16
好きだったけど、苦手だった中継
  • 新人時代の悩みは?

    放送したい情報や話題を探したり、企画を考えたりするのは好きでした。もちろん難しさもあるけど、それ以上に楽しかったし、やりがいを感じていました。ただ、なかなか提案が通らなかった。

  • その原因は何だったのでしょうか?

    「これは、おもしろい!」と思って、いろいろ提案するのですが、そのほとんどが却下なんです。今考えると、自分が好きだとか、興味のあることばかりに意識がいって、それが今の社会にとってどういう意味があるのか?という視点が抜け落ちていたのだと思います。

  • そのほかに苦労したことは?

    初任地の福井では、夕方の県内向けニュース番組で、5分ほどの中継リポートを担当することが多かったのですが、僕は中継の仕事が好きだったのに苦手でした。

  • 好きなのに、苦手?

    企画を考え、取材して、構成を書くのは好きだったし、苦ではなかったのですが、いざ本番になると、その中継で最も伝えたいことがなぜかうまく伝えられない。
    新人時代は、好きなはずの中継がうまくできないということで、本当に苦しみました。中継から帰ってきて、夜中に先輩に電話して相談したこともありましたね。

  • それはどのように克服しましたか?

    当時の上司から、実際に放送したものを自分で字起こしして、事前に準備した構成と比べてごらん、と言われ、何度かやってみました。すると、事前に書いたコメントと言い回しが変わったり、映像が自分の想定と違ったりしていると気づいたのです。それによって、大事な部分の印象が変わってしまっていることもありました。もちろん生中継なので、臨機応変に伝えることはあります。でも、準備のときにもっと想像力を働かせて、どんな映像でどんなことを言うか、もっと綿密に構成を練ることができるのでは、と感じました。そうした準備に時間をかけるようになり、4年目に入って、とある中継のコメントを事前に書いていたときに、急に映像が頭の中に浮かぶようになったんです。今でも明確にそのときのことを覚えていますが、この瞬間カメラはきっとこう動いているはずだから、コメントはこう言ったほうが伝わりやすいはずだとか、頭の中で映像がイメージできるようになったんです。

  • それによって大事なことが明確に伝わるようになった?

    そうです。中継の準備の仕方も変わったし、現場に行っても企画段階で考えていたことをしっかり伝えられるようになりました。
    その経験は、今のリポーターという仕事にもつながっていると思います。

8/23
デジタル時代に、アナウンサーとして何ができるか?
  • 最近、何か大きな影響を受けたことはありましたか?

    2020年の年明けに、アメリカのスタンフォード大学に客員研究員という立場で2ヶ月間滞在しました。そのときに感じたことや経験が、今の自分に大きな影響を与えています。

  • そこでは、どのようなことを研究したのですか?

    テーマは、「公共メディア時代のアナウンサー像」でした。テレビだけでなく、インターネットも含めた「公共メディア」の一員として、アナウンサーはこれからどうしていけばいいのか?そのヒントを得るために、ソーシャルメディア時代に直面するアメリカの状況をリサーチし、また現地のメディアで働くジャーナリストがどのように発信しているかを取材しました。

  • そうした研究を通じて感じたことはどんなことでしたか?

    アメリカでは、メディアの分断や信頼の低下が、深刻な課題として指摘されていました。その一方で、私が訪ねたジャーナリストは、1人ひとりが、人種やジェンダーなどの社会課題を継続的に取材し、発信することで、信頼を得ていました。
    だからこそ、アナウンサーも1人ひとりのバックグラウンドや専門性というものがもっと見えたほうがいいのかなと感じています。そうしたものが、視聴者やユーザーからの信頼につながり、ひいてはNHK全体の信頼につながると考えるからです。
    例えば、それぞれのアナウンサーがこれまで取材してきたことをアーカイブに残せば、その人の専門分野や得意分野もわかるので、そうしたデジタル発信や仕組み作りもやっていきたいと思っています。

  • 今後やってみたい仕事や取り組みはありますか?

    今、広報局とアナウンス室などが一緒になって、オンラインで小学生たちにメディア・リテラシーについて教えるという取り組みがあり、これは僕の中で大事な仕事のひとつになっています。
    「メディアは送り手の意図があるもの。受け手はそうしたことを意識することが大事だし、送り手も誤解を生まないようにしなければならない」ということをロールプレイング形式で学んでいくのがこの教室の柱です。様々なメディアとの接触が増える中で、子どものころからメディアとはどういうものかを知ることは、とても大事なことだと思いますし、私たち伝え手も常に自覚する必要があると感じています。公共メディアとしてこの活動はもっと広げていきたいと考えています。

  • 最後に、アナウンサーを目指している人にアドバイスを。

    自分の好きなこと、大切にしていることを突き詰めていってほしい。それが、その人の専門性にもなるし、個性にもなると思うので。これからは、アナウンサーの専門性や個性がより大事になると思います。
    ちなみに、私は中学生のときに自分でホームページを作っていて、大学時代には動画サイトに投稿していました。そこでネットの可能性に触れた経験が、今の仕事につながっているところもあります。
    ですから、何かを深く探求するということを大事にしてください。それが仕事に役立つときがきっと来ます。

  • ありがとうございました。

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