川栄李奈「広島で感じた思いを大切に、演じました」

NHK広島放送局開局90年ドラマ「夕凪の街 桜の国2018」

8月6日(月)[総合]後7:30~8:43

『この世界の片隅に』などで知られる漫画家・こうの史代の『夕凪の街 桜の国』。NHK広島放送局は開局90年の節目に、原作の設定を現代へと置き換え、ドラマ化しました。

主人公・石川七波(常盤貴子)は、勤務する東京の出版社でリストラの危機に。しかも、恋人との結婚にも踏み切れない。そんなある日、認知症の疑いのある父・旭(橋爪 功)が家を出て、放浪をはじめてしまう。めいの風子(平 祐奈)と尾行すると広島へとたどり着き、原爆に翻弄ほんろうされた女性、平野皆実(川栄李奈)の足跡を訪ねていることに気づく。

不思議な旅の中で、これまで明かされていなかった家族のルーツが徐々に明らかに……。

このドラマは、平成の“今”から、“昭和30年”の広島へとつながる家族の愛に満ちた物語です。その昭和編ともいえるストーリーのなかで、原爆後遺症に苦しみながらも、懸命に前を向いて生きる平野皆実を渾身こんしんの力で演じた川栄李奈さんに、ドラマの見どころなどを伺いました!

運命を感じた広島の女性の役

──ドラマのオファーを受けたときの感想は?

お話があったのは去年の秋ごろだったと思います。ちょうど私が広島で、ある映画の撮影をしていたときでした。実は私にとって広島は、“戦争”や“原爆”を考えるときに常に頭から消えない、いつか訪れたい場所だったんです。

映画のロケがお休みの日には原爆ドームや原爆資料館を訪れ、“昭和20年8月6日”という日に具体的に何が起きたのかを、深く知ることができました。

あくまで偶然ですが、そうしたタイミングに平野皆実 役をいただいたので運命的なご縁を感じたんです。森下 直さんの脚本はもちろんですが、こうの史代さんの原作漫画は事実を丹念に紡いだお話だと伺っていましたので、その思いや世界観を大切に演じられるようにしたいと思いました。

原爆投下から10年。皆実(川栄李奈)は貧しくとも前向きに日々を過ごしていた。

──皆実を演じるうえでの苦労はありましたか?

20代の私にとって、戦争の話は教科書やニュースの世界のものでした。だからこそ、戦後の広島を生きたリアルな若い女性たちの気持ちってどうだったんだろう、という疑問は残っていたんです。

でも撮影前にスタッフの方が、当時小学生ぐらいで被爆されたという女性のお話を聞く場を設けてくださって。原爆が落とされた日は何が起きたのかもわからずみんながパニックになり、爆風で飛び散ったガラスの破片が足や体に刺さりながらも必死で逃げたと教えてくださったんです。そのときに受けた心の傷と、後遺症の不安に悩まされながらも懸命に生きてきたことなど、さまざまなお話を伺うことができました。胸に迫るお話の数々は、今回の役を演じるうえでとても大事なものになりました。

戦後を生きた人々のぬくもり、強さを感じて

──撮影現場で印象的なできごとなどはありましたか?

ビルが立ち並ぶ今の広島の風景からは想像もできませんが、終戦後10年近くたってもバラックと呼ばれる貧しく簡素なトタン屋根の家が、広島中心部の河川敷には広がっていたそうです。

皆実も母のフジミ(キムラ緑子)もそこの住人なのですが、その風景をオープンセットで滋賀県愛知川の河原に作っていただいて。そこに立つだけでタイムスリップしたかのような、歩いている人たちも街並みも「きっとこの時代ってこうだったんだろうな」と思えるほどリアルなものでした。

そういう貧しさの中でもお裁縫や、家事を工夫しながら丁寧に暮らしている皆実たちの日常はいとおしいし、強くてたくましいなぁと感じました。終戦直後は、携帯電話はもちろんテレビもありません。だからこそ、現代と違い人と人とが向き合う時間がたくさんあって、そういう人のつながりのあたたかさを感じる場面も多かったです。

──皆実には小さな恋も訪れるとか?

そうなんです! 工藤阿須加さん演じる打越さんという、皆実と同じ職場のすてきな男性です。ふだんはとても明るくて前向きな皆実ですが、恋する気持ちを感じても、やはり被爆者であることが彼女を苦しめてしまう。

皆実は23歳で、私と同じ年なんです。彼女はなんて大きな苦悩を抱えて毎日を歩んでいたんだろうって思いました。平成に生きていられることの幸せを感じながら、「だめじゃん! 私たちの悩みなんて皆実たちから見たら甘い甘い!」って、思ったりもしました。

皆実が勤める建設会社の同僚、打越アキラ(工藤阿須加)と距離が縮まっていくが……。

──母親・フジミ役のキムラ緑子さんとのシーンはいかがでしたか?

キムラさん演じる母・フジミは多くは語らないのに、すごくよく皆実を見ているんです。その深い愛情と、皆実の健康を心配するような、不安さがないまぜになったような独特の目が忘れられません。

また、「やっぱり私たちには、彼女たちの本当のつらさはわからないのかもしれないね」ということをキムラさんがたびたび現場で話していらして。私も、共感しました。
皆実は銭湯へと、母のフジミと出掛ける場面があるのですが、そこでは私もキムラさんもエキストラの方たちも、原爆のやけど痕であるケロイド状の特殊メイクをしているんです。そんな傷跡を持った人たちがたくさんいるのに、原爆について次第に語らなくなり、悲しみも打ち明けることができなくなっていったんだなぁというのが、とても不思議でした。

そういう意味で、私たちはそのつらい気持ちを本当に理解することなんてできないかもしれないけれど、だからこそドラマを見る人に少しでも多くのことを伝えられたらな、と思いました。

母・フジミ(キムラ緑子)と皆実は2人暮らし。皆実のたった一人の弟は養子に出ていた。

皆実を通して見えた戦争と原爆への疑問

──印象に残る場面などはありましたか?

皆実が土手でひとり雨に打たれるシーンがあって。体はずぶぬれだし、すごく寒くてつらくて。でも、こんなところでへこたれていては、やっぱり自分は甘やかされた時代に生きているんだなと思ったんです。皆実のことを思って、必死で頑張りました。

その撮影をしていたときに、後ろを振り返ったらきれいな大きな虹が出ていたんです。皆実に背中を押されているような気持ちになって、とても忘れられないシーンになりました。

──最後にメッセージをお願いします!

皆実は残念ながら、大切な人たちに見守られながら短い命を終えます。大好きな打越さんも駆けつけてくれるのに、原爆後遺症に苦しみながら、ひとりでこの世から去らなくてはいけない。その場面を演じていたとき、改めて戦争と原爆への疑問がわいてきました。

戦後から73年、平成の今は携帯電話やスマートフォンを開けば文字情報や動画で何でも調べられる時代です。きっと戦争のことも、原爆のことも。でも、そこに書いてあることだけでなく、名もなき、たくさんの人々の生きる希望や夢が犠牲になったことを知ってほしい。
まずはフラットな気持ちでドラマを見ていただいて、作品から感じた戦争の悲劇、原爆の悲劇を忘れないでほしいのです。

NHK広島放送局開局90年ドラマ
「夕凪の街 桜の国2018」

【放送予定】8月6日(月)[総合]後7:30〜8:43

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