鬼才・塚本晋也監督のこん身の一作

野火【坂本朋彦のシネフィル・コラム】

8月6日(火)[BSプレミアム]後1:00

太平洋戦争末期のフィリピン。食料も弾薬も不足し、病気がまん延する戦場で兵士たちが次々倒れていくなか、結核を患った田村一等兵は、野戦病院からも部隊からも見捨てられ、行き場を失います。原野をさまよい、空腹と孤独の極限状態で、田村が見たものは…。
今回ご紹介するのは、鬼才・塚本晋也監督の戦争映画です。

塚本晋也が描く“狂気” “暴力”…人間たち

1960年生まれの塚本晋也監督は、学生時代から数々の8ミリ映画を自主製作し、SF映画「鉄男」(1989)が初の劇場公開作品となります。鉄に肉体を侵食され、融合してしまった男の闘いを、強烈なモノクロ映像と音響で描いたこの映画は、当時SF界で世界的な潮流となっていた、機械と人間との関係の再構築をテーマとするサイバーパンクの作品として話題となり、ローマ国際ファンタスティック映画祭でグランプリを受賞するなど、海外でも高く評価され、熱狂的なファンを生みだしました。

塚本監督は、その後も多くの作品で、製作・脚本・撮影・編集・出演をつとめ、自身の製作会社でインディペンデント作品として製作し、官能的なバイオレンス・スリラー「六月の蛇」(2002)がベネチア映画祭コントロコレンテ部門で審査員特別大賞を受賞するなど、日本を代表する映画作家として、その動向が世界的に注目されています。また、連続テレビ小説「半分、青い。」やマーティン・スコセッシ監督の「沈黙-サイレンス-」(2016)など、俳優としても幅広く活躍しています。

原作は、戦後の日本文学の巨匠・大岡昇平の代表作。1959年には市川 崑監督が船越英二主演で映画化しています。塚本監督は、高校時代に小説を読み、映画化を構想してきたということですが、そのスケールや衝撃的な物語から、実現が難航、多くのボランティアの協力を得て、およそ1年をかけて完成させたということです。
共演は個性派俳優として活躍するリリー・フランキーさん。足を負傷し、若い兵士に面倒をみてもらいながらも、本心のみえない兵士・安田を存在感たっぷりに演じています。

熱気と湿気に包まれ、うっそうとしたジャングルの閉塞へいそく感、まるで亡霊のようにさまよう兵士たち、亡骸なきがら、青空と緑の原野の煙、塚本監督演じる田村の視点から苛烈な戦場が描かれます。そして、塚本監督の作品に通底する、狂気や暴力によって肉体も精神も変貌していく人間たち…、この作品はこれまでの集大成のようにも感じられます。

塚本監督、こん身の一作をじっくりご覧ください。

【放送日時】
プレミアムシネマ「野火」
8月6日(火)[BSプレミアム]後1:00〜2:28

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坂本朋彦

【コラム執筆者】坂本朋彦(さかもと・ともひこ)

1990年アナウンサーとしてNHK入局。キャスターやニュースなどさまざまな番組を担当。2014年6月からプレミアムシネマの担当プロデューサーに。

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