誘拐されたのは運転手の子ども!身代金を支払う…?

天国と地獄【坂本朋彦のシネフィル・コラム】

8月19日(月)[BSプレミアム]後9:00

製靴会社の重役・権藤のもとに、息子を誘拐したと脅迫電話が。ところが、誘拐されたのは自分の息子ではなく、一緒に遊んでいた運転手の子どもでした。しかし、犯人は権藤に身代金を支払うよう脅迫、権藤は苦悩します。一方、警察の必死の捜査によって、犯人は次第に追い詰められていきますが…。
今回ご紹介するのは、黒澤明監督・三船敏郎主演の傑作サスペンスです。

2時間半が、あっという間の疾走感と緊迫感

原作はアメリカの作家エド・マクベインの小説「キングの身代金」。マクベインの代表作は、刑事キャレラを中心に警察官たちが活躍する“87分署シリーズ”とよばれる、半世紀近くにわたって書き続けられた連作小説ですが、第10作にあたるのが、この小説です。日本でもこのシリーズの人気は高く、映像化もさかんで、市川崑監督が水谷豊主演で作りあげた「幸福」(1981)も、同じシリーズの「クレアが死んでいる」が原作です。ちなみに、マクベインはエバン・ハンターの名前で、アルフレッド・ヒッチコック監督の黙示録的ホラー「鳥」(1963)の脚本や小説「暴力教室」を執筆するなど、多彩な作家として活躍しました。

「用心棒」(1961)ではダシール・ハメットの傑作ハードボイルド「血の収穫」を参考にし、メグレ警部で知られるジョルジュ・シムノンの小説を愛読するなど、ミステリー好きだった黒澤監督は、マクベインの小説のプロットを生かしながらも、深く愛するロシア文学、ドストエフスキーの「罪と罰」をモチーフに、物語を大胆にアレンジしています。独善的で頑固者でありながら、たたき上げの苦労人で、仕事を心から愛する権藤は、三船さんにピッタリ。今回はすご腕の殺陣たてはありませんが、全力で走る姿は印象的です。

そして共演者、黒澤作品常連の仲代達矢さんや志村喬さんの存在感はもちろんですが、これが初の黒澤作品となった山﨑努さんは、高度経済成長のなかで取り残されてしまった若者の怒りや虚無感を見事に表現しています。

前半、高台の権藤の屋敷での犯人との対話の閉塞へいそく感、中盤、実際に特急列車を走らせて撮影された、身代金受け渡しの場面の疾走感、犯人を追い詰めていくクライマックスの緊迫感、黒澤監督のダイナミックな演出は、この作品でもさえわたり、2時間半が、あっという間です。

スティーブン・スピルバーグ、マーティン・スコセッシ、ジョン・ウー…、世界の映画作家たちが、最高の犯罪映画だと称賛する、何度見ても感服の傑作サスペンス、改めてお楽しみください。

【放送日時】
プレミアムシネマ「天国と地獄」
8月19日(月)[BSプレミアム]後9:00〜11:25

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坂本朋彦

【コラム執筆者】坂本朋彦(さかもと・ともひこ)

1990年アナウンサーとしてNHK入局。キャスターやニュースなどさまざまな番組を担当。2014年6月からプレミアムシネマの担当プロデューサーに。

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