朝鮮・ベトナムでの激戦を生き抜いたハイウェイ軍曹が任されたのは、やる気のない若い兵士ばかりの小隊の教育係。ハイウェイは、問答無用の猛特訓で、兵士たちを鍛え、戦場で生き残ることをたたき込んでいきます…。今回ご紹介するのは、クリント・イーストウッド監督・主演、コメディータッチの痛快アクションです。
イーストウッドは、観客の心をつかむのが本当にうまい!
イーストウッドは当時50代半ば。顔のしわは目立つものの、背筋がピンとして、大柄な身長がより高く感じられ、とりわけ、悠然と歩く姿が何とも魅力的です。寡黙なイメージもありますが、この作品では憎まれ口に下ネタとじょう舌なキャラクターを演じています。イーストウッドは、地元であり、カリフォルニアの風光明美な町として知られるカーメルの市長を務めながら、この映画を製作したということですから、そのエネルギーに驚嘆させられます。
権力や権威が大嫌い、経験と勘、本音と友情を信じる頑固一徹の鬼軍曹・ハイウェイは、イーストウッドにしかできないと思えるほどピッタリです。下品で粗野なハイウェイですが、一方で、妻と別れてしまったことを深く後悔し、なんとか元に戻りたいと思っている純情な男でもあり、妻の心をつかもうと、まったく似合わない女性雑誌を真剣に読んで勉強する、厳しい訓練からは想像もつかない姿は、思わず笑ってしまいます。妻を演じるマーシャ・メイスンとのやりとりもユーモアたっぷりです。
落ちこぼれの兵士、軽口をたたき、ロックスターを夢見るスティッチを演じるのは、マリオ・ヴァン・ピーブルズ。軽薄な役柄とは違って、名門コロンビア大学で経済学を学び、この映画のためにギターを猛練習したという真面目なマリオは、ギャング映画「ニュー・ジャック・シティ」(1991)をはじめ、監督としても活躍しています。お父さんのメルヴィンも、俳優・音楽家・映画監督で、黒人俳優が主体となる、ブラックスプロイテーション映画の先駆者として知られています。エベレット・マッギル、モーゼス・ガンといった個性派が演じる敵役も存在感たっぷりです。
劇場公開された30年以上前、当時大学生だった私は、神奈川県の横須賀の映画館で、この映画を見ましたが、客席はアメリカ人が多く、爆笑の連続に拍手喝采、イーストウッドは、観客の心をつかむのが本当にうまいなあと感動したのをよく覚えています。
ジョン・フォード監督やハワード・ホークス監督を思わせる痛快アクションをお楽しみください。
【放送日時】
プレミアムシネマ「ハートブレイク・リッジ/勝利の戦場」
9月26日(木)[BSプレミアム]後1:00〜3:11
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【コラム執筆者】坂本朋彦(さかもと・ともひこ)
1990年アナウンサーとしてNHK入局。キャスターやニュースなどさまざまな番組を担当。2014年6月からプレミアムシネマの担当プロデューサーに。