舞台は80年代アメリカの“国境”
不法侵入者たちと警備隊員のヒューマンドラマ

ボーダー【坂本朋彦のシネフィル・コラム】

10月30日(水)[BSプレミアム]後1:00

メキシコとの国境の町、テキサス州エルパソ。国境警備隊員となったチャーリーは、不法入国者の検挙に追われ、メキシコ人たちの貧困と悲惨な境遇に衝撃を受けます。やがてチャーリーは、隊員たちの間で不正が行われていることを知ってしまいます…。
今回ご紹介するのは、アメリカで今も社会問題となっている“国境”をテーマにした作品です。

単純な善悪の構図ではない、奥深い人間ドラマ

チャーリーを演じるのはジャック・ニコルソン。半世紀前、アメリカ映画に新風を吹き込んだカウンター・カルチャーの名作「イージー・ライダー」(1969)で一躍注目され、強烈な個性と名演技で3度のアカデミー賞を受賞した名優です。

正義感はあるものの、ささやかで平穏な暮らしをしたいと思っているチャーリー。髪も薄くなり、少しお腹もでてきています。当時40代半ばだったニコルソンは、「シャイニング」(1980)での亡霊に誘われ狂気となっていく男、「バットマン」(1989)での異形の悪役・ジョーカー、「ディパーテッド」(2006)での、下品で冷酷、しかし教養あるギャングのボスと、エキセントリックなキャラクターが印象的ですが、こうした、ごく普通の男を演じても抜群なのがすごいところです。決してヒーローではないけれど、自らの誇りをかけ正義を貫こうとするチャーリーに胸が熱くなります。

共演は「レザボア・ドッグス」(1991)のハーベイ・カイテル、サム・ペキンパー作品の常連・ウォーレン・オーツといった個性派の名優、そして、夫との関係を修復したいと思いながらも、チャーリーと気持ちがすれ違ってしまう妻を演じるバレリー・ペリンが絶品です。ヒロインのマリアを演じたメキシコ出身のエルピディア・カリッロは、この作品で注目され、「プレデター」(1987)などにも出演しています。

監督はイギリスのトニー・リチャードソン。1950年代、イギリス映画の新しい潮流“フリー・シネマ”の一翼を担い、「長距離ランナーの孤独」(1962)「マドモアゼル」(1966)などで知られる名監督です。この作品でも、登場人物の性格を掘り下げ、単純な善悪の構図ではない、見ごたえあるドラマに仕上げています。印象的な音楽はライ・クーダー。ボトルネック、スライドギターの名手であり、ルーツミュージックを探求した深い味わいの傑作アルバムを発表、「パリ、テキサス」(1984)はじめ、数々の名作の映画音楽をてがけ、この作品でも、“アクロス・ザ・ボーダーライン”など、情感あふれる音楽を作りだしています。ヒューマンドラマの秀作、じっくりお楽しみください。

【放送日時】
プレミアムシネマ「ボーダー」
10月30日(水)[BSプレミアム]後1:00〜2:50

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坂本朋彦

【コラム執筆者】坂本朋彦(さかもと・ともひこ)

1990年アナウンサーとしてNHK入局。キャスターやニュースなどさまざまな番組を担当。2014年6月からプレミアムシネマの担当プロデューサーに。

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