密着したディレクターが語る、航海の裏側

日本人はどこから来たのか?3万年前の航海 全記録

11月4日(月・振休)[BS1]後10:00

日本列島に最初に到達したホモ・サピエンスはどこから、どうやって来たのか?

実際に古代の技術や道具で制作した舟で、台湾から沖縄・与那国島へ渡海する実験が行われていたのをご存知ですか?人類学者や考古学者たちを中心に行われたこの実験は、苦節6年、今年初めて200kmの航海に成功しました。
11月4日放送の「日本人はどこから来たのか?3万年前の航海 全記録」では、これまでの挑戦を振り返り、当事者たちのインタビューを通して大海原で繰り広げられた苦闘の航海の裏側に迫る、前代未聞の大冒険をお届けします!

実際に航海に密着した、今氏源太ディレクターに話を聞きました。

 3万年前と同様、時計もコンパスもなしの航海

──いつごろから取材を始めたのですか。

プロジェクト自体は6年前に立ちあがっていました。最初が草の舟、次に竹の舟でのテスト航海を経て、最後が「丸木舟」(木から削り出した船)での本番航海です。
僕自身はこの丸木舟のトライから密着取材に入りました。本番の航海中は伴走船に乗せていただき、丸木舟の様子を追っています。また、プロジェクトリーダーの人類学者・海部陽介先生をはじめ、ぎ手やスタッフのみなさんへのインタビューを通して、実験を振り返りました。

──丸木舟は一体どうやって作ったのでしょうか?

刃部磨製石斧じんぶませいせきふ”という3万年前の石の斧を使って杉の木を削り、作り上げています。これがものすごく手間がかかるんですよね。チェーンソーを使えばほんの数十分で切り倒せるところを、3万年前の人々と同じように石斧で少しずつ削っていったんです。作業は6日間、約36000打もかかりました。でも、「私たちがチェーンソーを知っているから大変だと感じてしまうだけで、当時の人々にとっては必要な手間と時間がかかっただけ。つらいとは思わなかったのかもしれない」という言葉を聞き、確かに!と納得しましたね。

──丸木舟のぎ手を務められたのは?

男性5名、女性2名です(本番は5名で航海)。みなさんバラバラの生活をしていて、このプロジェクトのために集まりました。普段からシーカヤックの乗り手であるなど、手漕ぎの舟に親しんでいらっしゃいます。台湾から与那国島へは、3万年前の人々と同様、時計やコンパス、地図、GPSなどは何も持っていません。昼間は太陽の高さを指で測って時刻を把握し、夜は星座の位置で方角を確認しながらの航海となりました。

──本番前の準備はどんなことをしたのですか?

6月末から7月上旬に予定された航海のひと月前に事前合宿を行っています。実際に台湾で舟を漕ぎ、船体を数ミリだけ削って安定性を高めたり。さらに長時間海で漕ぐ練習をしたりしました。なんといっても24時間以上、舟の上で過ごさなければなりませんから体を慣らすことが大切です。順番で15分ずつ、舟で寝る訓練もしていましたね。舟が細長いので基本的には座ったまま、舟の縁に手をかけたり、後ろの方だともたれたりする感じで眠っていました。

──事前合宿中、一番力を入れたのは?

「黒潮」の影響を確認することです。台湾―与那国島間は最短距離だとおよそ100キロぐらいなのですが、その間に世界でも最大級の海流と言われる黒潮が流れています。黒潮に入ると北へ激しく流されることが予測されるため、あえて南方から出て黒潮に流されつつ北東を目指すという、200キロ程度かかるルートをとりました。そのため、海の流れを体で会得するというか、実際に黒潮が丸木舟の海路にどれぐらい影響を及ぼすのか、GPSを使って自分たちが流されている状況をチェックしたりしましたね。

──今氏ディレクターは丸木舟に乗りましたか?

一度だけ、本番前に乗せてもらいました。湾内でうねりのない場所だったのですが、それでもすごく揺れて、めちゃくちゃ怖かったです。ですが、漕ぎ手は舟がすでに体の一部、舟と一体化している感覚になっていてまったく恐怖を感じないと言っていました。自分が丸木舟を体験した分、余計に漕ぎ手のすごさがわかりましたね。映像では「ただ漕いでいる」ふうに見えるけれど、ものすごく技術がいる舟です。

 海上で声が聞こえる!?

──本番は順調に迎えられたのでしょうか?

この実験は出発のタイミングが非常に重要なのですが、海が荒れていて風も強く、順延が続いてしまいました。プロジェクトとして定められた期限が迫り、苦渋の決断で7月7日に出航したんです。海はすごく荒れていたんですが、不思議なことに夜が明けるころには波が穏やかになりました。その後は安定していて、選んだ日付は間違っていなかった。天気が味方してくれた感じでしたね。45時間、2日弱で与那国島に無事到着することができました。

──伴走船は現在地が把握できるんですよね?

はい、わかります。ですが、伴走船はあくまで丸木舟の伴走。丸木舟の様子を見ながら内心ドキドキでした。というのも、海上ってまわりに何もないじゃないですか。特に海が穏やかで風もないときは、本当に静かなんです。ですので出航前にプロジェクトリーダーの海部さんから言われたのは「たとえ数十メートル離れていたとしても、僕らの話している内容や表情などの様子が丸木舟に伝わってしまう」ということ。何でもいいから手がかりのほしい漕ぎ手は無意識に伴走船の様子からヒントを探ろうとしてしまうんです。だから進路の話をするときは彼らの視界に入らないところで、なおかつみんな表情には出さないという点を共通認識として持っていました。本番中はポーカーフェイスを装っていましたね。

 感じること、考えさせられることが詰まった実験

──このプロジェクトに密着するなか、一番心に響いた言葉は?

漕ぎ手のキャプテンである原康司さんが、実験を終えて「今の人間は技術や文明を使って自然に逆らったり抑え込んだりしようとしている。でも3万年前の人々は自然の持つ力を工夫して借りるということをやっていたのではないか。僕らもそういう風に共存する生き方をするべきなのかもしれない、それを3万年前の人々から教えてもらった」と語っていて、とても印象に残りました。

当時の方々がどうやって台湾から与那国島へ渡ったかなんて、雑な言い方をすると現在の僕らの暮らしには関係ないじゃないですか。でも、この実験はいまの時代だからこそ感じること、考えさせられることが詰まっていたんじゃないかなと改めて思いました。

──最後に視聴者へメッセージをお願いします!

海上で何が起きていたのか、あますことなく番組にしたつもりです。かつ、この航海から人間ってどういうものなのかということも見えてくると思います。ぜひご覧いただけたらうれしいです。

大冒険の全貌を、どうぞお楽しみに!

BS1スペシャル「日本人はどこから来たのか?3万年前の航海 全記録」

【放送予定】11月4日(月・振休)[BS1]後10:00

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