プロデューサーと専門家が語る「ウィズコロナ時代のエンターテインメント制作のあり方」

ドラマ&ドキュメント「不要不急の銀河」

7月23日(木・祝)[総合]後7:30~8:42

「俺たちの店は不要不急なのか?」スナック“銀河”を舞台に、自問自答する夫婦(リリー・フランキー/夏帆)と客などの人間模様を描く、又吉直樹さん書き下ろしによるドラマです。制作したのは「今この時期にドラマを作っていいのか? ドラマ制作も不要不急?」と自問自答したスタッフたち。感染リスクを避けながら行われた撮影の一部始終もドキュメンタリーとして紹介します。

ドキュメンタリー
コロナ感染のリスクを最低限に抑えつつ、多くの人々が関わる「ドラマ」を安全に撮る。このドラマがどのようにして作られていったか、その制作現場をドキュメントでお伝えします。

ドラマ
自粛の“延長”が叫ばれた5月上旬。スナック“銀河”を営む家族が岐路に立たされる。父と母はスナックを続けるかやめるかで揉め、高校生の息子は彼女と近づきたい思いにかられ…。

【出演】
リリー・フランキー、夏帆、小林勝也、鈴木 福、茅島みずき、りり花 / 安藤玉恵、梶原 善、でんでん、片桐はいり

【音楽】大友良英 【演出】井上 剛

不要不急での心の葛藤・撮影現場の葛藤

このドラマの企画が立ちあがったのは、緊急事態宣言が出た4月上旬。小学1年生の息子がいる家冨未央プロデューサーは、入学式が中止になり、学童保育にも通えなくなった息子の姿から、描きたいものが出てきたと言います。

家冨P

息子は7歳なので言葉では説明できないけれど、ごはんも食べられなくなるほどストレスを抱えてしまって。それで、声にできない人の目線で今の気持ちを描きたいと思ったんです。この閉ざされた家の中で人々はどんなことを考えてるのかな、と。

家冨Pと話す中で、別の角度から「ドラマを撮りたいと思った」と語るのは、これまで「いだてん」など数多くのドラマを手掛けてきた演出の井上 剛ディレクター。ドラマに限らず、映像産業は、持ち道具さん、メイクさん、衣装さんなど、フリーランスの方たちが7割以上といわれる世界。一緒にドラマを作ってきたスタッフたちの仕事がなくなってきたことを受け止め、彼らのためにもドラマを作ろうと考えたと言います。
脚本を依頼した又吉さんとも、「不要不急とはなんなのか」と議論を重ね、「スナック」が舞台に。

徹底換気・徹底消毒… 医師のもと、撮影のガイドラインを

しかし、ドラマの撮影といえば「密」の代表のような現場でした。
いったいどうすれば安全に撮影が行えるのか、悩んでいるスタッフに、医療取材に詳しい同僚が紹介してくれたのが、産業医科大学の森 晃爾こうじさんチーム。

教授の森 晃爾さん(写真左)は日本の産業保健界の第一人者で、福島の原発事故後の作業の安全指導もした方。プロの視点で撮影現場に立ち会い、安全管理のガイドライン作成にもご協力いただきました。

感染リスクを低減させるために講じた対策の一部

一方、森さんは、「ルールを決めるだけでなく、出演者やスタッフの負荷も考える必要がある」と言います。例えば、当初は収録の合間に「30分間の換気」を予定していましたが、実際に二酸化炭素の濃度を測定すると十分に換気がされていることが判明したため、換気の時間を短くしました。それを見直さずにいると、無駄に労働時間が長くなり、食事や睡眠時間の確保ができなくなることで体力も低下し、逆に感染リスクが増えると考えられるからです。

今回のドラマの安全衛生指導の相談があったとき、スタッフからは「ドラマ制作って不要不急ですよね。こんなときに撮っちゃいけないんですよね」と言われたという森さん。「私にとっては不要不急じゃないです」と答えたそうです。実は1週間に6~7本は見るという大のドラマ好き。オンからオフに切り替える大事なスイッチだそうです。

収録に立ち会う森 晃爾さん。衛生状況に合わせて適切な指導を

森さん

自分たちのやっている仕事に「価値がある」と絶対に思わないといけない。価値あることをやるためだからこそ充分に注意しましょう、と考えないと、対策もいい加減になります。価値のある仕事だと思ってプライドをもてば、プライベートの時間だからといってむやみに飲み歩くといった危険行動もやめられると思うんです。
もちろん今後、ワクチンができたり、集団免疫ができたりしたら、ガイドラインも見直す必要があると思うし、今後変化していくと思います。その都度、チームでディスカッションして最善の策をとることが大事だと思っています。

「チームが同じ目的を共有」するために、スタジオ入り口の寄せ書きも、森さんのアドバイスでした。

スタッフだけではなく、片桐はいりさんや鈴木福さんも固い決意を書いてくれました
収録には「衛生班」として専属スタッフが毎日3名立ち会い、消毒液の補充や換気操作などを担当

キャスト・インタビュー

「シーンによっては本番中もマスク着用」「ドラマ収録なのに扇風機が回りっぱなし」という未だかつて無いスタイルで収録に臨んだキャストのみなさんにも感想をお聞きしました。

でんでん(スナックの常連客・大森吾郎 役)

フェイスガードやマスクの着脱は面倒だけど、コロナ前よりも役者が芝居することに対して大きな情熱を感じていると思います。この現場では、役者みんな元気だもん。大変さよりも仕事ができる喜びのほうが大きい気がしています。3か月、充分に休養をとってるからエネルギーが余ってるし、芝居するうえでも得難い経験をこの2~3か月の間でいただいた気がします。
ぼくが演じる「70歳の酔っぱらいの常連客」という役は、目がとろんとしてるのがおもしろい。通常、芝居は「目ヂカラが大事」だけど、今回の役は「目に力を入れてちゃいけない」ってね。自粛期間中、ずっとオフで油断している感じ。そのハリのない感じが自然に出るといいな。
ドラマは「不要不急」がキーワードだけど、この台本を読んで「みんな思ってることは同じなんだな」って、すこしの安心感を覚えました。みんな一緒だよ、いっしょに頑張ろうよっていうことをゆるく伝えられるんじゃないかなと思います。

鈴木 福(スナック店主の長男・河原 慧 役)

コロナ対策をしながらドラマの撮影って、どうするんだろう、でもおもしろそうだなって思いました。今まで、マスクつけたまま演技したこともなかったですし、換気に気をつけて扉が空いたスタジオでの撮影というのもなかなかないですし。本番中もマスクをつけて、目と声だけで伝えなきゃいけないので難しいなと感じますけど、そこもリアルだと思います。
このドラマの舞台であるスナックなどの飲食店に限らず、どんな業種の方たちにも通じる部分のあるドラマになるんじゃないでしょうか。ドラマ作りも「不要不急」と言われておかしくないですけど、僕らにとっては大切だよって伝えたいです。自分たちの存在意義もこのドラマに詰まっていると思います。
僕の演じる慧は、コメディータッチでおかしな役なので、演じていて楽しいですね。青春真っただ中の高校生で、恋人役も初めてなので新鮮です。突き抜けちゃってるキャラクターだから気恥ずかしさはまったくないです(笑)。

茅島みずき(慧の高校の同級生・柚木夕香 役)

今までは、学校に行くことも外食も当たり前でしたが、自粛期間の2か月間は「当たり前って何だろう」と感じることも多くて、これまでのことや「当たり前」に感謝する日々でした。
台本を読みながら改めて「不要不急って何だろう」と考えて。人によって価値観がちがうと思うんですよね。このドラマの中でも、登場人物それぞれが考えていますが、現実の社会でも同じだと思います。外に食事をしに行くことが不要不急と考える人もいれば、そうじゃない人もいますし。
収録が始まってからは、マスクをつけたままのお芝居に気をつけています。相手役の声や表情を見て返すのがお芝居だと思っているので、顔の半分がマスクで隠れているためにそれができないのは大変ですが、でも実際の今の世の中もこういう状況なので、その感覚が反映できていいのかなと思いました。何を考えているのかわからないところもあるので、ちょっと困っちゃいますよね。目だけしか見えていなくても相手に伝わるように努めました。

ドラマ&ドキュメント「不要不急の銀河」

【放送予定】
7月23日(木・祝)[総合]後7:30~8:42

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※NHKサイトを離れます。

家冨Pの目線で、制作の舞台裏をつぶやいてます!

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