進化し続ける女王、石川佳純 1000日の記録

プロフェッショナル 仕事の流儀

8月10日(月・祝)[総合]後7:30

全日本選手権3連覇、ロンドンオリンピック団体銀メダル、リオデジャネイロオリンピック団体銅メダル。卓球日本女子のエースとして長年君臨してきた女王、石川佳純。だが、東京オリンピック出場を懸けたサバイバルレースでは、崖っぷちまで追い込まれることとなった。伊藤美誠・平野美宇といった新世代の後塵を拝し、「何かに追いかけられている夢を見る」と弱音を吐露。土壇場でオリンピック出場の切符を勝ち取った背景には、常に逆境を乗り越え、進化し続けてきた彼女ならではの覚悟があった。しかし東京オリンピックは延期。いま、彼女はどんな心境でこれからの時間を過ごそうとしているのか。誰も知らない、崖っぷちの女王、1000日の記録。

2017年から石川さんに密着してきた奥 翔太郎ディレクターに、取材エピソードを聞きました。

カメラの前で見せる表情が、変わった

3年前の2017年、初めて取材させていただいた時に比べると、去年(2019年)の夏は石川さんの表情が柔らかくなっている印象を受けました。リラックスしているのかなと思いましたが、近況を聞くと「悪夢をみます」と返ってきました。見た目には表れてなかったのですが、代表選考の重圧にかなり追い詰められていることを知りました。
石川さんがいちばんのどん底を味わったのは去年の秋。負けてはいけない相手に敗れ、悲しみの中ホテルへの帰路につきます。ふだん、試合後には声をかけるのですが、このときばかりは迷いました。思いきって話しかけると、石川さんは声を震わせながらも心境を吐露してくれました。一朝一夕のつながりでは撮らせてもらえない表情だったと思います。
ドキュメンタリーの取材は本当に難しく、本心に迫ることが怖かったり、自分の不甲斐ふがいなさに嫌気がさしたりして仕事をやめたくなることもありますが、この10年間、やめずに続けてよかったなとつくづく思っています。

不本意な結果に終わったゲームのあと、「勝負弱くなってしまった」と漏らした

気遣いにあふれ、バランス感覚にたけた“石川一座の座長”

取材を始めたときから一貫して感じている石川さんの素顔は、全方位にものすごく気を遣われる方で、人格的にもすばらしい人だなという印象です。たとえば海外遠征先で、家族やコーチ、練習パートナーといっしょに食事をするときは、“石川一座の座長”という感じなんです。自分より先にみんなに「どんどん食べて食べてー」って振る舞って。流ちょうな中国語でオーダーを通して、ぼくらスタッフにも取り分けてくれて、食事会をたのしく仕切る。そういう気遣いができるバランス感覚もすばらしいと思います。
3年前に初めて練習の様子を取材したとき、こちらがお願いしたわけじゃないのに僕らが撮影しやすいポジションにさりげなく移動してくれたことなど、今、思い出します。

卓球台を離れると、すこし天然っぽい一面をのぞかせることも

研究されても勝てるのは彼女が“変化”している証拠

足掛け3年、石川選手を取材していて普遍的に感じたのが「変わる」という言葉でした。今回も「変わらなきゃ」と何度も言っていて、それは石川さんたちの卓球の世界だけでなく、どんな世界で生きる人にも共通することなんじゃないかと思います。僭越せんえつですけど僕自身は、自分たちテレビディレクターの置かれている状況に重ねてシンパシーを感じていました。インターネットを中心に、動画制作の新しい手法がどんどん生まれて、どんどんライバルが増えてくる。今まで通用していたものでは勝負できない。でもこれまでの成功体験で得た自負や感覚は捨てられないジレンマもある。
それを自らの変化で適応させているのが石川さんだと思います。後輩の平野美宇選手は「ハリケーン平野」と中国選手も恐れるほどの新しい卓球を作ったし、伊藤美誠選手の「みまパンチ」も強烈。これって、石川さんが20年間やってきた卓球とは論理が違います。普通なら入らないはずのボールが、いとも簡単に卓球台を捕らえ、得点される恐ろしさ。昔の試合映像を見てもはっきりとわかるのですが、卓球はここ数年で、全然ちがうスポーツになったと感じます。

オリンピック代表の切符をかけた若手との戦いは、し烈を極めた

何度も日本一になり、世界の強豪にも勝ち、圧倒的な地位を築いた石川さん。普通だったら、これでいい、もうこれでいこうと現状維持をしてしまいそうなものですが、「変えなきゃ」とタフにアップデートしていく。
じつは、まったく無名の新人選手でも、ちょっと変わった球種だったら勝てちゃうことは珍しくないんです。でも勝ち続けるのは難しい。変わった球が打てたとしても、すぐに研究されて対策されてしまう厳しい世界です。事実、石川さんのようなキャリアの長い選手は、世界中のライバルたちに研究され尽くしています。でも、研究されても勝ち続けられるのは、石川さんが現状に甘んじることなく常に変化しているからです。
卓球に限らず、あらゆる分野でイノベーションが起こっている今、僕も「自分流スタイル」にとらわれず、ビルド&スクラップしなくちゃ、というのは石川さんの姿から学びました。

勇気を出して、自分の腕で証明するしかない

もうひとつのキーワードは「勇気を出す」。オリンピックの代表決定がかかる大詰めの局面で、この「勇気」が大事なカギを握ります。石川さんは「卓球も人生も選択の連続なんだ」と話していました。自分で勇気を持って選んでいかないといけない。それは毎回の試合でもそうだし、生きていくうえでも。
石川さんが「自分の腕で証明するしかない」と言って勇気を出した姿を見ていたので、じつは今回、僕も勇気を振り絞って「プロフェッショナル」の通常回(45分)ではなく、73分のスペシャル版にしたいとプロデューサーに勝負を挑みました。こっそり夜な夜な、VTRを長く編集し、プロデューサーに初めて見せる日に「見ておもしろかったら、スペシャル版の放送枠を取ってください」と、“賭け”に出ました。その結果「石川佳純スペシャル」になったので、本当に勇気を出してよかったなと思っています。ぜひ多くの方々にご覧いただきたいです。

ディレクター・奥 翔太郎
2010年にNHK入局、福岡局に配属。東京本部に異動後、2017年からプロフェッショナル班へ。「生花店主・東信」「歌舞伎俳優・市川海老蔵」「納棺師・木村光希」などを手がける。先輩後輩から日々いじられる“愛され”キャラ。取材相手の懐深くに入り込み、誰も想像しえないシーンを撮ってくる。彼の笑顔は、要注意。卓球・石川佳純さんは2017年に密着して以来、継続取材中。(荒川Pによる本人評)

崖っぷちに立たされ、もがきながらも東京オリンピックの切符をつかみ取った石川佳純さん。変化を続けながら挑んだ勝負の軌跡をどうぞお楽しみに!

プロフェッショナル 仕事の流儀「石川佳純スペシャル」

【放送予定】8月10日(月・祝)[総合]後7:30

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