プロフェッショナル制作裏話 
第3回「路線バス運転手 ・大森 透」

プロフェッショナル仕事の流儀

【再放送】10月20日(火)[総合]前0:15 ※月曜深夜
(初回放送:10月13日)

13人のディレクターが切磋琢磨せっさたくましながら作っている「プロフェッショナル」。
担当者本人の番組紹介は数あれど、このシリーズは「他のディレクターから見た制作裏話」。今年10 月に放送した「路線バス運転手・大森 透」について、制作した奥井ディレクターの人物評含めて、後輩の伊藤ディレクターが執筆します。

「路線バス運転手・大森 透」担当 
奥井 岳ディレクター(番組Pによる他己紹介)

2014年入局。和歌山局で「ブラタモリ」や「サイエンスZERO」などを制作したあと、プロフェッショナル班へ。特に希望してはいなかったらしく、いきなり「『72時間』の提案出したいんですけど…」と口にしてプロデューサーを驚かせた逸話を持つ(本人は否定)。既存の枠にとらわれない姿勢と独特のセンスで、「くまモン」「カリスマメイド」「編集者」など、常に人とは違う切り口の番組を生み出す。英語ペラペラの国際人でもある。勤務整理や経理処理なども丁寧で申し分ない。

執筆者 
伊藤麻衣ディレクター

2018年入局。プロフェッショナル班には通常、地方局で4~5年経験を積んだディレクターが「新人」として加入するが、彼女は新人研修後に直通でプロフェ班に加入。班史上初のスタイルでの「新人」となった。持ち前の明るさで先輩から貪欲に吸収し、1年目の終わりから1年半で「電器店主」「数学教師」「餅ばあちゃん」「魚仲買人」の4本を制作。特に「餅ばあちゃん」は文化庁芸術祭に出品されるほどの傑作となった。愛称、タマちゃん。プロフェッショナル班でこれほど可愛がられたディレクターはいない。

セオリー違いなんですが…

とある大先輩にこう言われたことがある。「テレビとは、ふだん見られないものを見せるものである」。それがテレビのセオリーであるならば、この番組はそれを見事にぶち壊す。

「路線バスの運転手さん」、それはあまりにも身近すぎる存在だ。その仕事は、車体の整備をして、バスを運転して、お客さんを送り届ける…通勤通学で毎日バスを利用する人も多いのではないだろうか。この番組はそんな誰もが当たり前に知っている日常を映し出している。意外なことも驚くことも何も起こらない。むしろ、起こってはいけない。だけど、それが愛おしく思えるのはこんなご時世だからだろうか。私自身、学生時代に毎日片道30分の坂道をバスに揺られ、「時間通りに来ない」「雨の日は混んでる」などぶつぶつ文句を言っていた記憶があるが、この番組を見て過去の自分にゲンコツしてやりたくなった。

テレビを作る立場の人間として、どうしても何かが起こってほしいと思うし、きっと視聴者もドラマチックなことを期待しているだろうし(最近はそうでもないのかな…)、起こらないと番組にならないような気になってしまう。が、最初に言っておく。 この番組は何も起こりません。

路線バスの名物ドライバーに密着

番組史上初? “平凡”を愛するプロフェッショナル

今回の主人公・大森 透さん。番組開始3分半、その笑顔に私のハートはずきゅん! と撃ち抜かれた。「私でいいのでしょうか…」そう言う大森さんの言葉や行動の端々はしばしから謙虚なお人柄がにじみ出る。優しい語り口。あーこの人の運転するバスに乗ったら、1日気分よく過ごせそう。そう感じさせる雰囲気だ。 そんな大森さんが大事にすること、それは「平凡」。「特別」な人に密着するこの番組において、「平凡が好き」と口にした人は番組史上初なのではないだろうか。担当ディレクターいわく、大森さんはオファーを受けたとき「何かの冗談かと思った」という。番組出演はまさに、平凡を愛する人に訪れた“非”平凡。だけど、映っているのはやっぱり平凡な日常と淡々と仕事をする大森さんの姿だった。

この道40年の大森さん。急カーブ、急坂も高い技術で運転する。

プロフェッショナル班に風穴を開ける「第7世代」のシャイボーイ

テレビ的な話になって恐縮だが、「何も起こらない仕事、何かが起こってはいけない仕事」=「テレビ向きではない仕事」ということになる。だから私みたいな新人はなかなか手を出しにくいのだが、プロデューサーも念願だったというこの難しい番組を手掛けたのは入局7年目の奥井 岳ディレクター。初任地を和歌山局で過ごし、2年前にプロフェッショナル班にやってきた。

そんな奥井先輩は、いわゆるシャイボーイ。廊下ですれ違っても下を向いて目も合わせてくれない…と思いきや、自席に戻ると「実は俺、昨日財布落としてさ…おはらい行ったほうがいいかな…」と超個人的な悲劇エピソードを暴露。「なんかいいことありますよ!」と励ます私。さっきは落ち込んでいたから下を向いていたに違いない…! と、完全に奥井先輩のペースにのまれる。

路線バス運転席から大森さんが見る景色に触れる奥井D ※運転はしていません

当班には通称「第7世代」と呼ばれ、班では若手とされる7年目のディレクターが4人在籍しているが、その中でも奥井先輩の視点にはキラリと光るセンスがある。たとえば「地方公務員・くまモン」(2019年1月14日放送)。くまモンって、いやいや熊だし、ゆるキャラだし…。だが、くまモンを地方公務員と見る視点、なにより番組史上初の「キャラクター」。その奇抜な切り口が評価され、月間ギャラクシー賞を受賞。記憶と記録に残る番組になった。お堅いNHK、長寿番組のプロフェッショナル…そんなことは関係ない。奥井先輩は、「今、みんなが見たいもの」をしっかり見せる姿勢を持っている。

シャイボーイ先輩が秘めた思い

そんな奥井先輩がバス運転手に注目したきっかけは、やはりコロナだった。多くの仕事が在宅勤務になる中、感染リスクを負いながら多くの人々の日常を支える仕事、いわゆる「エッセンシャルワーカー」と呼ばれる人たちがひそかに注目を浴びた。しかし、その姿がきちんと表に出ることは少なかった。奥井先輩自身バス通勤であるので、「ふだんお世話になっている人が何を思いながら仕事をしているのか知りたい、その姿をきちんと伝えたい」と思ったそう。当初はやっぱり何か起こるものと思ってロケをしていた奥井先輩。しかし、少しずつ気持ちに変化があったという。

それは…

ぽーん

何かコトが起こったときにどう対応するか、その姿を通してその人のプロフェッショナリズムを伝えてきた当番組。しかし、何も起こらなければ、それは伝わりにくい。しかし大森さんと1か月半を過ごす中で奥井先輩は思ったそう。本当に大切なものは、目には見えにくいものかもしれない。何かが起こる、と考えるのはやめ、ひたすら大森さんのあるがままの姿に焦点を当てたと奥井先輩は教えてくれた。

一日の仕事を終え、バスの窓を閉める大森さん

あなたもきっと「ありがとう」と言いたくなるはず

最後に、私の好きなシーンを紹介させてほしい ▶
猛暑の中、いつも通り大森さんは車体を丁寧に磨く。決して変わらない日常の風景だ。その後バスを走らせ、終点で3人の子どもとお母さんに出会う。大森さんは子どもたちとバスの前で写真を撮る。帰っていく家族を見送りながらそこで奥井先輩が大森さんにある声をかける。その答えと表情が、大森さんのプロフェッショナリズムをまさに表している。バスの運転手がバスを磨いている。何でもない光景に、奥井先輩たちロケクルーは言葉にできない気持ちになり、グッと泣きそうになったという。

最初にお断りしましたが、この番組は何も起こりません。だけど、少しだけ心が温かくなる、そんな番組です。


プロフェッショナル 仕事の流儀「路線バス運転手 ・大森 透」

【再放送】10月20日(火)[総合]前0:15 ※月曜深夜

(初回放送:10月13日)

取り上げた番組はこちらです!

関連記事

その他の注目記事