プロフェッショナル制作裏話 
第4回「田中みな実」

プロフェッショナル仕事の流儀

【放送予定】10月27日(火)[総合]後10:30
(再放送:11月3日 ※月曜深夜

10月27日(火)のプロフェッショナルには、田中みな実さんが登場。

取材カメラに記録されたのは、華やかな芸能界できらびやかに活躍する田中さんの姿ではなく、局アナからフリーに転身した後も迷い、もがき、深い悩みを抱える「正直」な女性の姿でした。

そんな田中みな実さんを取材したのは、同じくフリーランスで働く平山ディレクター。取材を受けた田中みな実さんと、取材者となった平山Dの2人が深い沼にはまっていったという今回のプロフェッショナルのみどころを、同僚の奥ディレクターがご紹介します。

この編集、ストイックすぎないか?

プロフェッショナルで、田中みな実さんを密着することが決まった。
あの、田中みな実さんだ。おそらく、完璧に計算されている「イメージ」があり、高いバリアが張り巡らされているにちがいない…。

そんな田中さんを追ったプロフェッショナル、5回目の試写に招かれた。試写は、編集途中のVTRを複数人で見る工程だ。放送前の番組が見られるのはうれしいが、もちろん意見を求められるので、正直いってプレッシャーでもある。緊張感漂う中、始まった試写。

すごかった。どあたまから、見たことのない映像が流れる。終始描かれていたのは、田中みな実さんの「揺れ」だった。

求められることと、やりたいこととのギャップ。
明日には忘れられているかもしれない「芸能界」という世界。

決して人ごとではない。結果が出せないとき、アウトプットできないときに感じる「求められていない」というむなしさは、痛いほど共感する。

でも会社員であれば、たとえ求められない時がきても、何者かでいられる。だけど、個人の名前で生きるというのは、ゼロを意味する。会社員をやめて飛び込んだからこそわかる厳しい世界で、田中みな実さんは、もがく。そんな中、担当の平山Dが、揺れる田中みな実さんに追い打ちをかける質問をぶつける。

「田中さんは、テレビに出てる田中みな実の事を、好きですか?」 ▶

グサ。

グサグサ。

グサグサグサ。

ありですか、こんな質問? 僕はできません…。

いやいや、人一倍気をつかい、人一倍繊細な平山Dだ。きっと、苦しんで苦しんで聞いたのだろう。

田中みな実さんを取材したのは、フリーディレクターとして働く平山菜々子D。
ここで、当番組のプロデューサーによる平山Dのプロフィールをご紹介しよう。

平山菜々子ディレクター(荒川Pによる平山D紹介)

天才的な腕を持ちながら組織に属さず、番組を渡り歩くさすらいのフリーディレクター。群れを嫌い、権威を嫌い、束縛を嫌い、取材相手との真っ向勝負のみを求める。「ウイルス学者・高田礼人」「女性誌編集長・今尾朝子」「パン職人・竹内久典」「経営者・松本 晃」「クラブ経営者・白坂亜紀」「経営者・小巻亜矢」「美容家・神崎 恵」などこれまでに作ってきた番組が示すように彼女の前ではプロフェッショナルたちが裸の心を見せる。なお、彼女のデビュー作が情熱大陸「新垣結衣」であることを知る人は少ない。口癖は「私、失敗しないので」(のはず)。

「おしゃれ番長」の異名を持つ平山Dは、いつもびっくりするくらいヴィヴィッドな服装でNHKを訪れる。どこでこんな服が買えるんだという古着を着こなし、スンッとデスクに向かっている。そのオーラが原因だろう、誰も話しかけない。

だが、勇気を出して話しかけると、関西弁を交えた軽快なトークがさく裂する。話題の幅は、映画から美術、文学、哲学、バチェロレッテまでとにかく幅広い。

その知識と教養を生かし、あらゆるプロフェッショナルを取材してきた。医師、料理人、大企業の経営者まで何でもありだ。普通なら取材NGな現場も、必ず突破する。そして不思議なことに、平山Dが話すと、超一流の猛者達がほろりと本音を漏らす。

編集中の平山菜々子ディレクター

そんな平山Dが田中みな実さんに投げた質問、「田中さんは、テレビに出てる田中みな実の事を、好きですか?」

このインタビューの数日前、平山Dは、田中さんに初めて手紙を書いたという。それは、田中みな実さんへの熱い思いを伝えるものでも、番組作りへのほとばしる情熱を伝えるものでもなかった。

「世に出ている自分の姿を、どう見ているのか、知りたい。」

直球をぶつけた。最初から、なれ合いを避けたかったという平山D。取材は、常に一定の距離感を保つことを意識していた。同様に、田中みな実さんからも、常に自分は監視されていると感じていた。まるで、剣士と剣士が、対じしたまま一歩も動かない、決闘の場面だ。
手紙を出した3日後、田中みな実さんから返事が返ってきた。

「ちゃんとしたものを提供できなくて不甲斐ふがい ない。撮りたいものを撮りに来て欲しい。」

そして夜中24時、田中みな実さんの自宅でインタビューが始まった。
もうそこは、巌流島がんりゅうじまだった。

試写で見る前は、もうちょっと柔らかいというか、ポップというか、そんな番組のイメージだった。田中みな実さんの最新エクササイズや美容テクニックが紹介されると思っていた。

だが結果的には、甘えやゆとりは一切ない、ストイックな45分間だった。闘いの螺旋らせんの中に身を置く、一人の女性の姿が描かれていた。

バチバチの剣士同士のやりとりがそうさせたのか、いったい何が編集をここまでストイックにさせていたのかわからないが、試写のあと平山Dには、こそっと自分の思いを伝えたので、放送では少し甘めな要素も入っていることを願う。

あざとい? あざとくない?

この試写のあと、まるで剣士のような田中みな実さんの姿が、まざまざと記憶からよみがえってきた。

それは、今年4月に放送された、田中みな実さんが、山里亮太さん、弘中綾香アナウンサーとともに、あざとい男女について語るトーク番組、「あざとくて何が悪いの?」(テレビ朝日系)での一幕。番組開始から30分が過ぎた頃のスタジオでおきた。

田中さんが食事会中のあざとい女性を演じる。山里さんもこれに合わせ、男性役を演じる。二人はソファーから立ち上がり、向かい合ったまま掛け合いが始まった。ここで不幸なことに、山里さんの立ち位置が、カメラに背を向けた形になってしまった。

出演者がカメラに背を向けてしまう状況はよくない。この悪い状況をどうするのか。僕は、固唾を飲んで見ていた。

その瞬間だった。

半歩前へ、田中さんが動く。

そして、山里さんの右手をとり、体を回転させる方向に手を引く。さらにその右手を自分の頬に持って行き、当てる。カメラに背を向けた状態から田中さんに手を引かれ、山里さんは、流れるようにくるり180度回転。カメラ正面を向いた。そして最後は、山里さんのアップ。「収録を止めて下さい!理性が保てんのですわ!」の一発。

爆笑、おこる。

震えた。

最悪の状況から一転、最高の状態へ。その間、わずか6秒。
山里さんと田中みな実さん、スタジオの二人の心の声が聞こえた。(気がする)

田中さん「大丈夫、山里さん、なんとかします。」

山里さん「ごめん、きっかけください。」

田中さん「これでどうかな?」

山里さん「ありがとう、みな実さん、決めてきます!」

(※テレビ朝日さん、出演者の皆さん、本当にまったくの妄想です。許して下さい!)

テクニックがすごいということだけではない、自分が目立とうということでもない。もしかしたら、周りを生かすことに生きがいを感じる人なのではないかと思った瞬間だった。

沼にハマってさあ大変

田中みな実さんと平山Dが、プロフェッショナルの取材で向き合った数か月間。最後に見えてきたのは、とにかく「正直」な田中みな実さんの姿だった。正直さに妥協がなかった。何が正しくて何が間違いかわからないほど情報があふれる時代だからこそ、正直であることは貴重で、だからこそ支持を集めるのだろう。

そういえば年始に田中さんがやっていた前澤友作さんへのインタビューも、とにかく正直だった。ビッグネームにひるむことのない姿は、インタビュアーとして、敬意を抱いた。

でも、正直に生きることは大変だ。求められる役割もあるし、演じなきゃいけないこともある。正直は人を傷つけるし、人にも嫌われる。

取材中、田中みな実さんは突然、「4日連続くらいでおうちに帰って泣いてるの、私」と言い出す。

やはり、正直は甘くない。

平山Dも同じく、正直で自分を曲げられない人だ。そんな自分を客観的に見ては、自己嫌悪に陥ってしまう。一緒に悩み、一緒に揺れた密着期間、平山Dは一人酒をあおりすぎて危ない状態だったらしい。沼な状態の女性に、沼なディレクターがくっつき、危険水域に達していた。
今回のプロフェッショナルは、田中みな実さんと平山Dの二人と一緒に、沼に降りていく45分間かもしれない。

でも、沼なんだけど、沈んで沈んで沈んで沈みきったら、驚くほど澄みきったグランブルーが見えてくる。そんな番組だ。

執筆者 
奥 翔太郎ディレクター(荒川Pによる奥D紹介)

2010年入局。初任地は福岡。東京に異動後、サキどり班を経て、プロフェッショナル班へ。
「生花店主・東信」「歌舞伎俳優・市川海老蔵」「納棺師・木村光希」などを制作。今年8月に放送した「石川佳純スペシャル」は、3年がかりで継続取材した成果のたまもの。


プロフェッショナル 仕事の流儀「田中みな実」

【再放送】10月27日(火)[総合]後10:30
(再放送:11月3日 ※月曜深夜

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