視聴者も「考え続けたくなる」ドラマ

よるドラ『ここは今から倫理です。』

西森路代(ライター)

さまざまなレビュアーが多様な視点から番組を評する「きのう何みてた?」。第2弾は、ライターの西森路代さんが、異色の学園コミックを実写ドラマ化した『ここは今から倫理です。』について書きました。

『ここは今から倫理です。』は、雨瀬シオリによる漫画原作を元に、高校の倫理の教師・高柳(山田裕貴)が生徒たちのさまざまな出来事に向き合う姿を描いている。

その出来事は、毎回センセーショナルだ。第一話は女子生徒の逢沢いち子(茅島みずき)が男子生徒と教室で性行為をしているところから始まる。だが高柳はいち子を一方的に断じるのではなく、「合意ですか?」と尋ね「真剣なおつきあいならけっこう。ただ時間と場所が悪い」と告げる。

いち子は男子生徒たちと関係を断ち切ろうとするが、そのことで無理やり暴行されそうになったのだ。いち子がそれまで関係を受け入れてきたのは幼いときから暴力にさらされており、男性は性行為をするときだけは暴力をふるわず笑顔であるという理由があった。いち子が「嫌」とようやく声をあげたとき、高柳は再び現れ「合意ですか」と聞き、違うと言う声を聞いて「お願いです。暴力はやめてください」と止めに入る。

そのことをきっかけに、いち子は高柳に好意を感じ、彼の受け持つ倫理の教科だけでなくほかの勉強にも興味を持ち始める。やがて、文化祭の季節を迎え、クラスメイトたちはグループチャットで連絡をとりあうようになるが、いち子には個人主義なところがあり、グループチャットを退会したため、今度はいじめの標的になってしまう。

また、高崎由梨(吉柳咲良)は、自分の腕や脇腹などをカッターで傷つける自傷行為にふけっていた。だが、それは学校の誰にも気づかれていなかった。やがて由梨はリストカットを教室で試みようとしてしまう……。

高柳はこうした生徒たちの問題に直面するたびに、ただ怒るのではなく、何が起こっているのか本人と対話するのだった。

テレビにとって「刺激」とは

一話ごとに起こる刺激の強いエピソードは、ドラマを作るにあたって良い面もあるが、じつは危険性もはらんでいる。もちろんそれは、単に「テレビで刺激的なものを見せてはいけない」という意味ではない。

テレビにとって刺激は人を引き付ける要素になる。だからもしも、これを単にセンセーショナルで「おいしい」要素だと思う制作者がいれば、それだけで視聴率に結びつくと考え、原作にある高柳の葛藤をないがしろにして描いてしまう可能性だってある。

もしもそんなふうに「おいしい」と安直に考えていなくても、そのおいしさに負けることなく、何を伝えるべきかを優先するというコンセンサスが制作現場でとられていなければ、高柳の葛藤をうまく描き切れないことだってありうる。うまく描き切れないと、高柳が生徒たちの問題を毎回解決させて、視聴者をスッキリさせるものになっていたかもしれない。「スッキリする」ということは、善悪がどちらかにはっきりしたわかりやすいものになっているということだ。しかしそれでは、この物語の良さは消えてしまう。

本作では単に刺激的なエピソードを描くのではなく、高柳の葛藤をきっちりと映像にしていた。彼は、何かが起こると、真剣に考え抜く。それは彼の目の前で起こることが簡単に解決できないということで、これまでの学園ドラマのように、生徒たちに体のいい言葉でいいくるめることを良しとしていないからだ。その姿勢は、確実に生徒に届いているように思える。高柳と向き合った生徒たちは、自分で考えることを知り、倫理の授業でも意見を交換するようになる。

「考える」ことに終わりはない

テレビは長年、わかりやすくスッキリさせるほうが視聴者に届きやすかったし、正解とされてきた。ただ、わかりやすくスッキリさせて、多くの人に関心を持たせればいいのだろうかというと、どこか違和感があった。私自身もテレビがわかりやすさに向かいすぎることを危惧していたし、制作者からそうした危惧を聞くことも多かったが、いまひとつ、その明確な理由はわからなかった。しかし、『ここは今から倫理です。』を見ていると、スッキリするということは、どちらかが正しいという答えが出てしまうということで、それ以上を考えるところまで、ドラマを見た者がたどりつけないことに気づく。

いまの時代は、「考える」ことが「感じる」ことよりないがしろにされている。ふだんの生活でも、いろいろ頭を巡らせると「考えすぎじゃないか?」と言われて思考の停止を求められてしまうことだってある。そうなると、白黒つけられず「考え続ける」ことが悪いことのようにも感じてしまう。

本作では劇中、生徒たちも、もちろん高柳も考えまくる。そんな様子を見ていると、「考える」ことを無理にやめる必要はないし、「考える」ことに終わりはなくてよいと思えるのだ。

★著者プロフィール

西森路代(にしもり・みちよ)
1972年、愛媛県生まれ。大学卒業後は地元テレビ局に勤め、30歳で上京。東京では派遣社員や編集プロダクション勤務、ラジオディレクターなどを経てフリーランスに。香港、台湾、韓国、日本の映画やドラマなどのエンターテインメントについてコラムや批評を執筆したり、俳優や脚本家、監督のインタビューを行ったりしている。また、お笑いについての執筆も多数。著書に『K-POPがアジアを制覇する』(原書房)、共著に『女子会2.0』(NHK出版)、『韓国映画・ドラマ――わたしたちのおしゃべりの記録2014~2020』など。

★ライター・西森路代さんの「最近、何みてた?」

『その女、ジルバ』(東海テレビ・フジテレビ)

『俺の家の話』(TBSテレビ)

『あちこちオードリー~春日の店あいてますよ?~』(テレビ東京)

『爆笑問題&霜降り明星のシンパイ賞!!』(テレビ朝日)

★レビュー番組

よるドラ「ここは今から倫理です。」

【放送】毎週土曜[総合]後11:30 <全8回>

(最終回 第8話)3⽉13日(土)[総合]後11:30

20代を中心に異例の人気を誇る雨瀬シオリの異色の学園コミック『ここは今から倫理です。』を実写ドラマ化。日々価値観が揺さぶられ続けるこの世界で、新時代のあるべき「倫理」を問う。誰も見たことの無い本気の学園ドラマ。山田裕貴演じるミステリアスでクールな倫理教師が悩める高校生の問題に立ち向かう。「この『倫理』は人生の必修科目です!」

【原作】雨瀬シオリ

【出演】山田裕貴、茅島みずき、池田優斗、渡邉 蒼、池田朱那、川野快晴、浦上晟周、吉柳咲良、板垣李光人、犬飼直紀、杉田雷麟、中田青渚、田村健太郎、梅舟惟永、異儀田夏葉、藤松祥子、川島潤哉、三上市朗

【脚本】高羽 彩

【音楽】梅林太郎

【制作統括】尾崎裕和

【演出】渡辺哲也

▶︎ 番組ホームページ

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