おなじ高さで寄り添いあい、同じ方向を見る

新・ざわざわ森のがんこちゃん「がんこちゃんと失われたふるさと」

犬山紙子(エッセイスト)

「きのう何みてた?」は、さまざまな書き手が多様な視点から番組をレビューするコーナーです。エッセイストの犬山紙子さんが選んだのは、『新・ざわざわ森のがんこちゃん』のこの回でした。

「子どもに東日本大震災のことをどう伝えていけば良いんだろう。娘はまだ4歳で、当時のことはもちろん知らないし、どう伝えていいか難しいな」。まだまだ新米ママの私は頭をひねらせていた。私は東北の番組「サタデーウォッチン!」でコメンテーターをさせてもらっていて、いつも「次の世代に伝えることが大切だと感じる」と話しているし、心からそう思っている。でも、実際4歳の娘にどう伝えたらいいんだろう?

そんなとき、がんこちゃんが午後6時過ぎに震災をテーマに放送することを知り「これだ!」となった。慣れ親しんでいるがんこちゃんだから自然に見せられるし、園から子ども達が帰ってきているであろう時間帯に放送される配慮が親心にしみる。

2021年、3月11日。「あら、こんな時間にがんこちゃんやってるねえ」と子どもを誘うとすぐに私の膝の上に来た。被災したトゲトゲドリのソラくんたちと、彼らを受け入れたざわざわ森のがんこちゃんたちとの友情が描かれている。見ている間はお互い無言で、最後「トゲトゲドリさん、お空自分で飛べるようになってよかったね」と私に話してくれた。

恐怖を植え付けるのでなく、被災した人とどう寄り添いあって生きていこうか、というテーマであったことに私は安堵あんどした。小さな心が震災を学ぶとき、激しい恐怖を先に感じてしまうと、この先「怖いから見たくない」と思うかもしれないし傷つくかもしれない。作り手の、小さな心をいたわる気持ちが伝わってくる。

みんなどこかでつながっている

大人の心に響くところもたくさんあった。昔、がんこちゃんの森も災害にあい、その時トゲトゲドリさんたちが助けてくれていたという過去。それは「阪神淡路大震災のときに助けてもらったから」と東北にボランティアに来る関西の人々を彷彿ほうふつとさせる。みんな、お互いさまなのだ。どこかでつながって、どこかでお互いさまなんだ。

がんこちゃんたちが最初ソラくんと衝突するのもリアルだった。事情を知らない、無知だからひどい言葉を投げかけてしまう。その後、事情を知って謝る。これは大人の世界でもずっと繰り返されていることで、差別の構造はいつだって無知から生まれる。

最後「私とソラ君おんなじだね!」とがんこちゃんが叫ぶ。そう、助けてあげる側が上の立場で、助けてもらう側が下の立場なんかじゃない。おなじ高さで寄り添いあって、おなじ方向を見ている。

録画したのでもう一度娘と見た。こんどは「もしお友達がソラくんみたいに困ってたらどうする?」と踏み込んだ質問をしてみた。が、「ソラくんお空飛べてよかったね」とまた1回目と同じ答えが帰って来た。私はどこか「助けてあげる!」って答えてくれるのかなと期待してしまっていたけど、4歳の心が「お空飛べてよかったね」と喜んでいることがすべてなんじゃないかと反省した。この喜びがあって、その先、もうちょっと大きくなった時に「じゃあ友達として寄り添おう」という答えが出てくるのかもしれない。子どもの気持ちを大人が勝手に結論づけようとしてはダメなのだ。

自分ではない、他者が喜んでいる姿を見て、一緒にうれしいって思えた娘を私はぎゅっと抱きしめた。

★著者プロフィール

犬山紙子(いぬやま・かみこ)
エッセイスト。仙台のファッションカルチャー誌の編集者を経て、家庭の事情で退職し上京。東京で6年間のニート生活を送ることに。そこで飲み歩くうちに出会った女友達の恋愛模様をイラストとエッセイで書き始めたところネット上で話題になり、マガジンハウスからブログ本を出版しデビュー。現在はTV、ラジオ、雑誌、Webなどで粛々と活動中。2014年に結婚、2017年に第一子となる長女を出産してから、児童虐待問題に声を上げるタレントチーム「こどものいのちはこどものもの」の立ち上げ、社会的養護を必要とするこどもたちにクラウドファンディングで支援を届けるプログラム「こどもギフト」メンバーとしても活動中。その反面、ゲーム・ボードゲーム・漫画など、2次元コンテンツ好きとしても広く認知されている。

★エッセイスト・犬山紙子さんの「最近、何みてた?」

「10年話せなかったこと」(Eテレ)
震災当時まだ子どもだった若者たちが震災から10年経って今やっと話せること、当時の気持ちを話していた。大人の声に比べ届きにくかった子どもたちの声。こうやって誰かに話すこと自体が一つ癒やしになるんだろうなと思いながら見た。

「サタデーウォッチン!」(東北放送)
見た、というより出演したけれど、この番組ではずっと復興を追いかけてきた。そんな当事者たちが作る番組からは「節目」というよりも「復興への通過点」であり、「人と人の愛が復興を支える」ときれい事でなく伝わってきた。

「PUIPUIモルカー」(テレビ東京)
モルカーは2021年の癒やしなのでリアタイ視聴できなくても公式YouTubeで見ています。がんこちゃんといい、コロナで疲れた心にパペットアニメがみます。テーマも良かったです。

★レビュー番組

「がんこちゃんと失われたふるさと」

【放送】3月11日(木)[Eテレ]後6:20~6:40

人形劇でおなじみの「ざわざわ森のがんこちゃん」が、3.11を知らない子どもたちとその家族に向けて放送するスペシャル番組。恐竜の女の子・がんこちゃんが、大きな災害にあい避難してきた鳥の子ども「ソラ」と出会い、さまざまな困難がありながらも心を通わせる姿を通して、「被災とはなにか」を伝えるとともに、「自分の身になって被災者を思いやる心」の大切さを描く。放送後は「NHK for School」でも公開。

▶︎ NHK for School

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