巨匠ヒッチコックの最高作ともされる傑作中の傑作

めまい【坂本朋彦のシネフィル・コラム】

5月19日(水)[BSプレミアム]後1:00

映画史上もっとも偉大な監督の一人、サスペンスの巨匠アルフレッド・ヒッチコック。
今も世界中の映画作家から敬愛され、目標となっています。
華麗な映像テクニックを駆使して見るものを映画の世界に没頭させる演出は、どれだけ技術が進歩しても及ぶものはありません。50本以上の長編は傑作ぞろいですが、なかでも最高とされるのが、この作品です。

舞台はサンフランシスコ。高所恐怖症のため警察を退職したジョンは、旧友と名乗る男から妻・マデリンの様子がおかしいと相談され、尾行を始めます。マデリンが海に飛びこんだところを救い、彼女を深く愛するようになってしまったジョン。しかし、過去の死者に取りつかれていると語るマデリンは塔から身を投げてしまいます。マデリンを救えず、失意のどん底におちいるジョン。ところがある日、ジョンの前にマデリンそっくりの女性が現れます…。

ミステリーでありながら、男と女の暗い情念を描き切った、映画芸術の極致といえるこの作品。ヒッチコック監督は、完璧な演出で、現実のようで現実でない、まるで夢を見ているような不思議な世界を作りだしています。

例えば、ジョンがマデリンを車で尾行する場面は、セリフを排し、坂の町・サンフランシスコの高低ある地形を生かして、迷路をさまよっているような感覚を表現しています。そして随所でカメラを複雑に動かして“めまい”の感覚を演出。また、卓抜なデザイナー、ソール・バスによる冒頭のタイトルも、丸い幾何学模様がからみあい、回転・めまいを表現しています。さらに鮮烈なカラーの数々。マデリンの衣装や髪はもちろん、深紅の壁のレストラン、ピンクの花、白い波、緑のネオン…、細部に至るまで計算しつくされた色彩が、登場人物の感情や、現実から遊離した感覚を表現しています。

音楽は名作曲家バーナード・ハーマン。美しくも切ない弦楽の響き、管楽器の不穏な音、全編を流れる甘美な旋律が登場人物の心の声を語り、見終わった後も深く記憶に刻まれます。

ジョンを演じるジェームズ・スチュワートは善良で誠実な男性を演じてきた名優ですが、この作品では、中年男性の絶望的な欲望や感情を表現しきっています。
マデリンを演じるキム・ノヴァクは、ゴージャスな美貌で映画ファンをとりこにした大スター。白昼夢をみているかのような薄幸の女性を見事に体現しています。

ヒッチコックの途方もない演出に感服する傑作中の傑作。じっくりお楽しみください。

プレミアムシネマ「めまい」

5月19日(水)[BSプレミアム]後1:00〜3:09


坂本朋彦

【コラム執筆者】坂本朋彦(さかもと・ともひこ)

1990年アナウンサーとしてNHK入局。キャスターやニュースなどさまざまな番組を担当。2014年6月からプレミアムシネマの担当プロデューサーに。

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