震災取材10年。学生と語って改めて震災報道の意義について考えたこと

はじめまして。NHK仙台拠点放送局のニュースカメラマン、伊藤正人です。東日本大震災の発生から10年。カメラマンとして被災地の取材を続けてきました。

そして、ことしの3月12日、震災10年の翌日、オンラインで全国の学生の皆さんと、震災報道や被災地取材について話をしました。

左から 利根川真也アナウンサー(司会)、筆者、井上浩平記者(NHK仙台拠点放送局)

「震災を伝え続けることで、教訓が未来につながる」
「あの時の恐怖やつらい経験を忘れたいという気持ちもある」

など、学生の皆さんからさまざまなコメントをいただきました。みなさんとの対話で、報道に携わる人間として何を感じたか、つづらせていただきます。

無力感にさいなまれながら

10年前の巨大地震の直後、わたしは津波で甚大な被害を受けた宮城県石巻市で取材しました。
被害の大きかった地区では、ほとんどの建物が流され、辺り一面にがれきが積み重なり、津波のあとの火災でところどころ焼け焦げていました。そのなかを行方がわからない家族や友人を捜し求める人たちの姿がありました。
これほど甚大な災害を取材した経験はそれまでありませんでした。少しでもこの惨状を伝えようとカメラで記録しましたが、同時に、「自分にできることは何もないのではないか」という強烈な無力感にさいなまれました。
自分は誰のために、何のためにこの取材をしているのか。自問自答しながら取材、撮影を続けました。
それから10年がたちましたが、当時の思いが消えることはありません。
いまも日々悩みながら取材を続け、なんとか放送につなげています。

100か所余りを定点で記録・定点映像

大きな無力感にさいなまれたのは、わたしだけではありません。多くの同僚のカメラマンや記者、ディレクターが、いまも「自分に何ができるのか」と悩みながら、被災地の取材を続けています。

そうしたなか、東日本大震災の被災地で、この10年間、NHKのカメラマンが続けてきたことがあります。「定点映像」の記録です。

震災の発生直後から、岩手、宮城、福島の沿岸に、250人のカメラマンが定期的に通い、同じ場所、同じ画角で被災地の様子を記録してきました。いわゆる、被災地10年間のタイムラプスです。

▼宮城県気仙沼市鹿折(ししおり)地区の様子▼

こちらから、それぞれの定点映像をごらんいただけます。(※映像のタグから「定点映像」を選択)

定点、あの日から 東日本大震災定点映像アーカイブ ▶

この膨大な記録映像を見直し、ことしの3月11日にはNHKスペシャル「定点映像10年の記録~100か所のカメラが映した“復興”~」として放送しました。

Nスペ 5min. 定点復興 東日本大震災から10年 ▶

定点映像には、防潮堤や住宅などハード面の再生のみならず、津波や原発事故の被害から暮らしを取り戻そうとする人たちの営みがつぶさに記録されていました。様変わりする町並みへの複雑な思いや、亡き家族への鎮魂の思いなど、番組では復興の知られざる物語を描き出しました。

また、番組と平行して、10年間の定点映像をもとに、「定点、あの日から」と題したシリーズも放送しました。その取材への思いをつづったものがこちらです。

定点、あの日から 被災地10年それぞれの物語 ▶

「学生さんたちと話してみませんか?」

実は、番組放送の数週間前、上司から、NHKスペシャルや、これまでの震災の取材について、大学生や高校生と語るトークイベントに参加してみないかと話がありました。
震災を忘れず教訓を未来へ伝えるために、NHKが放送番組以外にも展開してきた展示などのイベントの一環として、オンラインのトークイベントを行うというものです。

わたしは、ふだん、取材や撮影で相手の話を聞く機会はあっても、人前で話すことはほとんどなく、慣れてはいません。それに、被災者ではない自分が震災について語ることは、ことばにするのも難しいことです。

ただ、取材で感じたことや、定点映像を通して伝えたいと思ったことを率直に話すことならできるかも、と感じました。また、震災や震災報道について、学生のみなさんがどんなことを考えているのかを知ることができるのではないかという期待もあり、参加を決めました。

自分たちの思いは伝わるのか…

参加してくださったのは、全国の大学生や専門学校生など80人以上。いつもなら自分がカメラで撮影する側ですが、この日はカメラに向かって話す側です。オンラインでつながったみなさんも画面に映し出され、ふだんとはまったく違った緊張を覚えました。

10代、20代の学生のみなさんのなかには、10年前の出来事で、震災のことはよくわからないという方もいらっしゃるかもしれません。どこまでわたしたちの思いが伝わるのか不安もありました。

とにかく、わたしが感じてきたことや考えてきたことを率直にお話しするしかない。そう思い、私は、学生のみなさんに、当時の無力感や、その後、震災取材を続けてきた思いをお伝えしました。

時とともに忘れてしまいがちなことは当然あるが、被災された方々にとっては、忘れることはできず、ずっと悲しみを抱えながら生きることに変わりはない。そうしたなかで、被災していない地域や経験していない人たちが、震災をどんどん忘れていってしまい、報道も無くなれば、震災がなかったことになってしまうのではないかという危機感がある。震災に無関心ではいないことが、被災され、悲しみを抱えている方々にとって、人のつながりを感じられることになるのではないか。震災を伝える映像を通して、何かを想像したり、考えたりするきっかけになればと思う。

また、一緒に登壇した仙台放送局の井上浩平記者も、これまでの取材の経験をもとに、震災取材を続ける背景にある思いを包み隠さず話しました。

日々、震災のことは片ときも忘れられないが、取材は何年たっても難しい。答えがないことの繰り返しだ。伝えてほしくないという方もいる中、伝えてほしい、忘れてほしくないという方もいる。毎日、報道することは難しいが、月命日などのタイミングで放送を続けたいと思っている。いま何が起きているのか、被災者が何を思うか、町がどうなっているのか、繰り返し伝え続けることに尽きるのではないか。毎日議論をして、何をどう伝えていけるかもがきながら、試行錯誤している。15年、20年、まだまだ伝えていく。震災の恐ろしさ、備えの大事さを気にとめてもらうようにするのがメディアの役割だと思うので、心していきたい。

学生の皆さんから熱いコメントが

伊藤、井上ともにアラフォーのおじさんの話にどこまで関心をもってくださるのか、正直、不安もありました。

しかし、そんな不安はすぐに吹き飛びました。定点映像のNHKスペシャルを見た感想や、わたしたちの話への質問など、1時間弱のイベント中に、チャットで次々にコメントをいただいたのです。

『定点カメラは現地の様子が分からない多くの方々に知ってもらうとても貴重な映像であると感じました。』

『「もう10年前か」と思っていましたが、その10年間には私の知らない多くの物語があることを実感でき、大変貴重な番組であったと感じました。』

また、コメントを送ってくださった学生さんのなかには、当時、岩手県で被災したという方もいらっしゃいました。

私は岩手で被災しました。住み慣れた町が津波に飲まれていった様子は十年たった今でも忘れられません。当たり前に生きてきた毎日があっけなく失われていく様子は忘れられません。十年経っても被災者の心の傷は消えるわけではありません。前を向いている人、向くことができないでいる人、さまざまです。フラッシュバックすることもあります。被災者の心のケアは今後の課題だと感じています。報道を通して、被災をされていない方々にも、自分の身に起こった時、自分や大切な人を守るためにはどうすればよいか考えてほしいと思います。

さらに、当時の記憶と向き合う複雑な思いをつづってくださった学生さんもいました。

「忘れてはならない、伝えていかなければならない」という思いと同時にあの時の恐怖やつらい経験を忘れたいという気持ちもあります。変わりゆく街の姿を拝見し、複雑な気持ちになりました。

被災した方々の心の傷が消えるわけではないこと。報道をきっかけにさまざまな感情を抱く方々がいらっしゃること。学生の皆さんからのコメントをいただき、さまざまな思いがあることを忘れてはならないと強く感じました。こうした思いをしっかりと心に留めて、カメラマンとしてどのように映像で震災を伝えていくことができるのか日々考えながら取材を続けなければと、あらためて感じました。

ほかにも…

『自分は震災や復興について何も知らなかったと思い知らされました。直接震災を経験していない人々にも、当事者の思いを広く伝えることができるのは、報道の力なのだと思います。』

『事実を伝え続けることの重要性を感じます。震災の報道についても伝え続けることで、震災の教訓が未来につながるのではないかと考えます。』

『災害について報道し続けること、それ自体が大きな、忘れないための活動になり、支援につながると思います。これからも頑張ってください。』

『震災から10年が経過し、当時小学生だった私たちは大学生になりました。さらに10年が経過すると、震災を経験していない世代が大学生となります。震災教育や公共メディアでの情報が、震災を多くの人に知ってもらう、語り継いでいくきっかけとなります。』

『何が自分にできるのか、これからも考えていきたいと感じることができました。』

『忘れてはいけないという思いを今度は私たち若者が伝えていかなければならないことを自覚しました。』

ここですべてご紹介はできませんが、コメント数は30件を超えました。そのどれもが、それぞれの立場で震災について関心をもち、真剣に考えたいという思いが伝わるものばかりでした。

NHKスペシャルで伝えたいと思っていたことや、どんな思いで震災取材を続けているのかなど、わたしたちが考えていた以上に、学生の皆さんはしっかりと受け止めてくださいました。

今回、NHKスペシャルの放送後すぐに、イベントを通して率直に自分の気持ちをお話しすることができ、学生の皆さんが東日本大震災や、防災・減災について少しでも「自分ごと」としてとらえるきっかけになったのであれば、本当によかったなと、ほっとしました。特に、事実を伝え続けることの大切さを感じ、今度は自分たちに何ができるか考えたいという学生の皆さんのことばには、とても勇気づけられました。

リアルな姿を伝える

NHKに入局して、ことしで18年。カメラマンとして取材や撮影を続けてきましたが、こうしてじっくりと、震災取材の経験や番組制作の背景にある思いを人前で話すということは、ほとんどありませんでした。

そんなわたしのつたない話を聞いてくださり、とてもありがたく感じ、わたしたちが取材した番組や、トークイベントで話したことが、少しでも学生の皆さんに届いたのであれば、本当によかったと感じています。

トークイベントに参加したことで、わたし自身、震災取材への思いを見つめ直す機会にもなりました。

そして、学生の皆さんから真剣で熱いコメントをいただき、悩みながらも取材を続け、なんとか放送につなげている、そんなわたしたちのリアルな姿や思いを率直にお伝えすることも大切なのではないかと、気づくこともできました。

これからも取材はまだまだ続きます。東日本大震災で被災した地域のいまの姿や被災した方々の思いを見つめ、伝え続けていきたいと思います。


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