NHK手話ニュースの恋ダンスが話題に! の裏側、調べてみました

俳優の新垣結衣さんとシンガーソングライターで俳優の星野 源さんが、5月19日、結婚することを発表しました。

世間がにぎわう中、その日の夜に放送された「NHK手話ニュース845」にはネット上で多くの反響が。

「恋ダンスが一瞬入ってる!!」
「手話の人が恋ダンスしてる!!」

その動画がこちら。

なぜ手話ニュースに恋ダンス? その裏側について、広報局スタッフが調べてきました!

「手話ニュース」制作ルームに潜入!

向かったのは、報道センター内にある手話ニュース制作班の部屋です。

ここから毎日、1年365日手話のニュースを放送しています。キャスターは10人、全員聞こえない人、ろう者です。会社員や教諭などそれぞれ仕事をこなしながら、手話ニュースに出演しています。聞こえる職員やスタッフと聞こえないキャスターが一緒にニュースを制作しています。

まず話を聞いたのは、掛江浩之プロデューサー。

「手話ニュースでの恋ダンスの振りが話題になっていましたが、あれは手話なんですか?」
「もちろん、手話ですよ。」

と、原稿を見せてもらうと…ん、んん!!??

「恋ダンス」の言葉は元の原稿にはなかった!

「新垣結衣さんと星野 源さん結婚」のニュースの元原稿はこちら。

ドラマなどで活躍する俳優の新垣結衣さんと
シンガーソングライターで俳優の星野 源さんが
結婚することを発表しました。
2人は平成28年に放送された民放のドラマで共演していました。

しかし、放送では、この原稿のあとに10秒ほど、キャスターが手話を続けて、そこに「恋ダンス」の振りが入っているのです。

手話を日本語に”再翻訳”すると…

ドラマなどで活躍する俳優の新垣結衣さんと
シンガーソングライターで俳優の星野 源さんが
結婚することを発表しました。
2人は、平成28年に放送されたドラマに夫婦役で出演しました。

皆さんご存じですよね。この恋ダンス、はやりましたよね。
この2人が現実でも結婚するということです。

元の原稿では「民放のドラマ」としか表現されていなかった部分に、わざわざ恋ダンスの情報を付け加えていたんですね!

「手話ニュースでは、日本語のニュース原稿をろうのキャスターが手話に翻訳して伝えています。手話は、手だけではなく、表情や体全体の動きで構成する言語です。どうすればわかりやすくなるか、キャスターは日々、工夫しています。今回の恋ダンスもその工夫のひとつなんです」(掛江プロデューサー)

なるほど!
今回の場合は「民放のドラマ」とだけ表現するよりも、実際に恋ダンスをすれば一発で、ああ、あのドラマね、と伝わるというわけですね。

マリオも!にんにんにんも! 話題になった手話ニュース

「実は、恋ダンスのほかにも話題になった手話表現、たくさんあるんですよ」と掛江プロデューサー。
例えば、去年の新語・流行語大賞にノミネートされた言葉についてのニュースでは

また、ことし2月に、大阪のテーマパークに「マリオ」をテーマにしたエリアがオープンしたニュースでは…

さらに、ちょっと古いですけど、2017年の2月22日、忍者の日には…

どの動きも、放送後ツイッターで話題になったそうです。

手話ニュースができるまで

木村晴美キャスター

そうこう話を聞いているうちに、時刻は午後8時に。この日の手話ニュース845を担当するのは木村晴美キャスターと、板鼻英二キャスターの2人でした。メイクをばっちり決めて、準備も大詰めです。

板鼻英二キャスター

この日のニュースは大雨や新型コロナ関連など、計8本。原稿に目を通し、手話に訳していきます。

その後、番組15分間まるまるリハーサルが行われます。

通常、ニュース番組は、キャスターが原稿を読む時間を計るだけで、一つ一つのニュースのリハーサルはしませんが、手話ニュースの場合、手話のキャスター、声を出して読むアナウンサー、送出するスタッフや技術が、リハーサルをして、全体の演出や流れを確認します。そして、時間がオーバーしている場合は、原稿を短くしたりして、放送時間に納めます。「恋ダンス」などの動きは、時間はかかりますが、わかりやすく伝えるために必要なので落としません。

リハーサルのスタジオに入らせていただくと…
原稿が床一面に!

手話では両手を使うため、ニュース原稿を自分でめくって読めません。このためこうして床に広げておくのだそうです。

声を出して読むアナウンサーは、壁を隔てた隣のスタジオにいます。手話キャスターの動きなどをモニターで確認し、タイミングを合わせて読んでいるそうです。

キャスターと制作スタッフは、手話でやりとりします。この部署で仕事をし始めてから手話ができるようになった人もいるそうですよ。

キャスターも恋ダンスの反響にびっくり!

放送を終えた直後の木村晴美キャスターと、板鼻英二キャスターに、スタジオでお話を伺いました。

まずは、ツイッターで恋ダンスの動きの手話ニュースが話題になったことについてお聞きすると…

板鼻英二キャスターは

「手話ニュースが注目されたということは、すごくうれしく感じました」

木村晴美キャスターは

「私は、とにかく驚きました。わたしたちにとっては、わかりやすい動きを手話の中に加えることは当たり前のことなんです。それが、ツイッターなどでこんなに反響があって、本当に驚きました。手話に興味を持ってもらえたならうれしいです」

そして、板鼻さんが担当した「マリオ」のニュースについて…

「実は、マリオの動きでは1回転したんです。腕の動きだけでもマリオを表現できるのですが、コロナで世の中が暗い感じなので、少しでも明るい気持ちになればと、オーバーな動きにしてみました。本番でうまくいくように何回も練習したんですよ」

手話は、動きで表現する言葉です。このため特徴をとらえて表現するのは、当たり前のこと。でもそこにキャスターそれぞれが、工夫を凝らしたり、個性が発揮されたりするんですね。手話という言語の豊かさと奥深さ、そして手話キャスターの「伝えよう」という熱さを感じました!

最後に、手話ニュースを放送するときに心がけていることをお聞きしました。

木村さんはご両親が80代で、ろう者だそうです。

「両親とも高齢で、読み書きが苦手なんです。なので、手話ニュースは大切な情報源として、毎日見てくれています。私も、高齢の方を含めてみなさんに、きちんと伝わるようにと日々心がけて手話ニュースを伝えています」

板鼻さんは

「キャスターを始めた当初、NHKのプロデューサーに、“ろう者にも聴者にも愛される手話ニュースを作らなければならない”と言われました。この言葉をいつも念頭に置いて、両方にわかりやすいニュースを心がけています。」

お二方とも、きっかけは何であれ、少しでも手話に興味を持っていただければすごくうれしい、とおっしゃっていたのがとても印象に残りました。

手話ニュースは、毎日、ご覧の時間で放送しています。

放送した内容は、こちらでおよそ1週間ご覧いただけます。
https://www.nhk.or.jp/shuwa/

そして、手話についてもう少し知りたいな、と思ってくださったあなた、NHKでは手話を学ぶさまざまな番組を放送、サイトでも動画などの情報を掲載しています。

みんなの手話|NHK福祉ポータル ハートネット

ワンポイント手話 - NHK

手話シャワー | NHK福祉情報サイト ハートネット

Twitterでのみなさんの投稿がきっかけで、広報局の私たちも初めて手話の奥深さに触れることができました。
これからも、NHKの知られざる一面をご紹介したいと思います!

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