みんなが生きやすくなるカラフルな世界であるために

NHK海外ドラマ「ファースト・デイ わたしはハナ!」

放送から1週間はNHKプラスで配信します

レビュアー:長濱ねる(タレント)

「きのう何みてた?」は、さまざまな書き手が多様な視点から番組をレビューするコーナーです。
今回取り上げるのは、ジェンダーやアイデンティティーの問題を描いたオーストラリア制作の海外ドラマ「ファースト・デイ わたしはハナ!」。レビュアーはタレントの長濱ねるさんです。

(番組は見逃し配信「NHKプラス」でも配信中です。リンクは記事末尾にあります。)

オーストラリアに住むハナというトランスジェンダーの女の子が、中学校入学をきっかけに、生まれたときの性別に結びついたそれまでの名前とは違う「ハナ」という名前を名乗り、ありのままの自分で新生活をスタートさせる物語です。

ドラマの中では、もがきながらも進んでいくハナとまわりの人々が描かれています。

なかでもいちばん印象的だったのが、「みんなと同じようにしたいだけなのに」とハナがぼそっとつぶやいた言葉。本当にそうだよな、と私も一緒にため息をつきました。トランスジェンダーであることで特別視してもらったり、気を遣って優遇してもらったりしてほしいわけじゃないのです。ただただみんなと同じように、当たり前のことを当たり前にしながら過ごしたいだけなのです。

実際それがかなわない現実であることに、より危機感がつのりました。

ハナが、意を決して信頼している友達に自分がトランスジェンダーだということを伝えるシーンがあります。自分を見る目が変わってしまうかもしれない、言いふらされるかもしれない。そんな不安を抱えながらも、でも大切な人には本当の自分を知っていてほしい、というハナの葛藤がひしひしと伝わり、苦しくなりました。大丈夫だよ、といますぐ抱きしめにいきたかった。

ハナから話を聞いた友達は、「みんなに伝えてみようよ。絶対大丈夫だよ。」と答えます。

私は頭を抱えました。だって、そのように言う友達のほうの気持ちも分かるっちゃ分かるのです。ハナの心と生活が少しでも楽になるように手助けしたい。そこには何の悪意もなく、むしろハナのことが大好きだからこそなんです。

私も2年ほど前、友達が「同性を好きになるんだよね。」と教えてくれたことがありました。その子はいまはもうまわりにカミングアウトしているのですが、当時は彼女が私にだけそのことを話してみようと思ってくれたことがとてもうれしかったんです。同時に、自分が力になれることなら何でもしたいと強く思いました。彼女が生きやすくなるにはどうしたらいいのか、私自身が悩んでいました。

しかし考えても考えても、どうすることがベストなのかわからず、友達に直接尋ねてみたところ、「何もしなくていいよ」という答えが返ってきました。自分はただ伝えたかった、それだけなんだと。

身近な自分ごととして考えてしまう

それ以来、人と接するときに心掛けることが増えました。

まず決めつけないこと。

性だけじゃなく、相手がどんな人なのか、何を考えているのか、私には理解しきることはできません。他人に見せている像と本当の像が全然違うこともあります。「女の子らしくてかわいいね」というひと言が、褒め言葉のつもりでも、相手を傷つけてしまうことだってあるんだと知っておくこと。それだけできっといいんです。

私はスカートやワンピースを好んでよく着るのですが、たまにカジュアルなパンツスタイルでいると、友人に「あなたらしくないね。」と言われることがあります。

もちろん、そこには他意がないことは理解しています。とげのある言い方ではないし、悪い気もしません。だけど、自分らしいってなんだ、と考えるのです。自分はどう見えているんだ。知らぬ間に自分が何かのイメージで縛られているような。

どんな人も、性の自認や自分のキャラなどを決めつけなくていいと思うのです。ゆらゆらと境界線を行ったり来たりしていい。本当は、もっと曖昧で境界線なんてなくていい。自分自身に対してもそう思っておくことで、相手への理解や受け入れる姿勢が変わってくるんじゃないかな、とこのドラマを通してあらためて感じました。

そして、委ねること。私が友達に、「そのままにしておいて、何もしなくていいから」と言われたように、その子が自分自身のタイミングでしたいとおりにできるように。ありのままに、過ごしたいように過ごせるように。それがいちばんだよなと、ぼんやりと考えていました。

でもそりゃ、まだ中学1年生のハナたちには難しいよ。初めてのことだらけだろうし、学校という狭くて区別が多い環境の中じゃ生きづらいよ。ハナたちの抱えるモヤモヤに共感しました。

誰ひとり拒絶せず、みんなが生きやすくなるカラフルな世界であるには、どうしたらいいのでしょう。私もはっきりとは分かりません。

ただこのドラマを見て、自分の日常を考え直してみたり、知らなかったことを知ったり、それだけでも一歩前進できるような気がします。

いつの間にか身近な自分ごととして考えてしまう、とても素敵すてきなドラマでした。ちなみに主人公を演じる俳優さん(イーヴィー・マクドナルド)も、実際にトランスジェンダーであるそうです。

繊細な心の揺れをとても丁寧に表現されていました。

ぜひご覧になってみてください。

▶︎ NHKプラスでの見逃し配信はこちらから

★著者プロフィール

長濱ねる
1998年長崎県長崎市生まれ。3歳から7歳まで長崎県五島列島で育つ。2015年、「欅坂46」のメンバーとしてデビュー。その後、長崎市観光大使に就任するなど多方面に活躍する。2019年7月にグループを卒業。現在は「手話シャワー」(Eテレ)や民放テレビへのレギュラー出演のほか、雑誌でのエッセイ執筆など新たな活動を広げている。趣味は読書、音楽鑑賞。

★長濱ねるさんの「最近、何みてた?」

・「Genの本棚食堂」(YouTube)
淡々と料理と深く向き合うチャンネルです。再現シリーズもなんでここまで探究できるのか、目が離せずずっと観てしまいます。

・「クリエイターズ・ファイル GOLD」(Netflix)
ロバート・秋山さんによる、いろんなキャラクターが、著名人の方とコラボしている壮大なコントです。ひたすらおもしろい。

・『復讐の未亡人』(漫画)
ある女性が人生を懸けて復讐ふくしゅうしていく、ゾクゾクとする漫画です。美しく華麗な復讐劇にページをめくる手が止まらず、1日で全巻読んでしまいました。

★レビュー番組

NHK海外ドラマ「ファースト・デイ わたしはハナ!」

【放送】毎週金曜[Eテレ]後7:25(全4回)

ハナはもうすぐ小学校を卒業し中学生になる。
新しい学校、新しい制服、新しい友達。
大きな決心をして最初の登校日に臨む。

ハナはトランスジェンダー。小学校まではトーマスという名前で男の子として生活していた。日本の中学校にあたる7年生に進学する機会に、ハナとして生きる決意をした。学校はハナを女の子として受け入れるというけれど「トイレは“だれでもトイレ”を使う」など制約付き。ハナ自身も「同級生に本当のことを知られたらどうしよう?」と不安を抱えながら登校する。友達もできてすべてが順調に進んでいたとき、なんと小学校時代のいじめっ子が同じ学校に!…ハナは自分らしい学校生活を送れるだろうか?

主演はイーヴィー・マクドナルド。その声を担当するのは井手上 漠。声優は初挑戦!

【原題】First Day

【制作】2019年 オーストラリア

放送から1週間はNHKプラスで配信します

6月26日(土)Eテレ で集中再放送!

午後2:50から全4回まとめて再放送します。

また、NHKプラスでは7月2日(金)午後7:50まで全4話をまとめてご覧いただけます!

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