「ダメ出しなんて、私はそんなきついオネエじゃないのよ(笑)」ブルボンヌ×NHK

NHKでは、メディアなど各界で活躍する方にNHKについてのメッセージをお聞きし、1分のミニ番組として随時放送しています。

1分のミニ番組といっても、もちろんたっっっぷりお話を伺っています。
その内容は、放送だけではもったいない!ということで、編集で泣く泣くカットした部分も含めて、全文公開させていただくことにしました。

(ご快諾いただいた話し手のみなさま、ありがとうございます!)

今回は、女装パフォーマーのブルボンヌさんにお話を聞きました。

「できるかな」ノッポさんの謎・ゴン太くんの謎

Q:特に記憶に残っているNHKの番組はありますか?

リップサービスで言うわけじゃないんですけど…本当にたくさん見ているので、どれと言われるとどうしようって困っちゃうんですけど。 でも、子ども心に覚えているのは、学校で見ていた教育テレビの番組の数々で、特に好きだったのは「できるかな」なんですよね。

「♪で、きる、かな、で、きるかな」、っていうあの軽快な音楽とその後の「ハテハテフム~」という合いの手も大好きだったんですけど。

まず『ノッポさんがしゃべらない』という謎、そして『ゴンタくんがどんな生き物なのか』という謎とか、子どもながらに、えっこれどういうことなの? って思うことがいっぱいあって。

▶ 「できるかな」とは?

▶ 番組の雰囲気を動画で!

でも、『そんな細かいことはいいじゃない』とでも言わんばかりに番組は進行して、身近なものを使ってロケットを作ったり、え、こんなものでこんなもの作ってくれるんだ! みたいな…今的な言葉で言うとクリエイティブな世界を見せてくれたんですよね。

当時の、まだネットもない田舎の小学生だった自分にとっては本当に夢が広がる番組だったんです。

子どものころ見ていた番組っていうのは大人になるまでずっと残るし、大人になってからのお仕事の方向性にも実はすごく影響してくるんじゃないかと思います。

私は図画工作が好きだったから「できるかな」が好きだったというのはあると思うんですけど、今もそれを生かして顔面に塗装をするという、ちょっと応用的なこともできているのかななんて思います。

Q:「できるかな」は、ノッポさんとかゴン太君とか、キャラクターも特徴的ですよね。

そうなんですよ。なんでノッポさんしゃべらないの? とか、ノッポさんという名前だけに、すごく背が高い感じとか。

いろんな形のいろんな存在があるんだよってことをさりげなく教えてくれる設定だったのかなって、今考えると感じるんですよね。

大人になると説明がほしくなっちゃうんですけど、子どものころって、ただそこにキャラクターがいたり、何か不思議な動きをしているっていう“ありよう”のほうに興味をそそられるので。

でも、もしかしたら作っている方の中にはちゃんとメッセージがあって、そういう隠し味みたいなものを子どもたちは受け取っているのかなって思いますね。

「わたしは偏見を持っていました」視聴者からのお便り

Q:では、ご自身が出演された番組の中で印象に残っているものはありますか?

もう、ありがたいことにいろいろ出させていただいているんですけど、特にたくさん出演させていただいているのが、「ハートネットTV」という福祉に関する番組ですね。

私は、性的少数者の当事者の立場で出演することが多いんですけど、スタジオなどでは、障害のある方とか、自分とは違うテーマの少数者の方とお会いできるんですね。

そうすると、以前は自分の「性的少数者」という立場では偏見を感じたり、いろいろ思うところはあったんですが、別の少数者の方とお会いすると、自分自身も偏見が残っていたりすることに初めて気づいたり。

いろんな方々と交流することで、気づくことがたくさんありました。私自身が出ることによっても、見てくれた方にそんな機会を与えられるかもと思っていて。

以前、私が出演した回をご覧になった高齢の女性の方から番組にお便りが来たと担当のディレクターさんから聞いたんですけど。

「ああいう見た目の人がこんなに真面目に話すなんて意外だった」「私は偏見を持っていました」というような内容だったそうです。

やっぱりしゃべっている姿を見てもらうとか、実際に触れ合うとか、そういうことで人って世界が広がっていくので、どんどん見てもらえる機会、話を聞いてもらう機会を作る番組というのは、本当に貴重だと思います。

いい意味で「いじわる」な目線の番組も

Q:いわゆる“マイノリティ”の方への姿勢という部分で、今後NHKに求めたいものはありますか?

一昔前までのNHKさんって…何だろう、“王道”のもの…特に大河ドラマや“朝ドラ”のイメージもあるので、「みんなが最大公約数的に愛するものを放送するべき」だ、もしくは、放送している局だってイメージがあったかもしれないんですけど。

最近だと、いい意味でラディカルというか、特にEテレやBSの番組なんかはものすごくオシャレだったり、ものすごくスカしてたりとか、いい意味でいじわるな目線でものを伝えてくれるんだって思う番組ってたくさんあるんですよ。

たとえば「昔話法廷」っていう番組が大好きなんですけど、一見子どもの大好きな昔話をモチーフにしているようで、今の裁判員制度とかにもすごく通じる問いかけをしている。

▶ 「昔話法廷」とは?

そういうことができるって、昔の民放の深夜番組的な…オシャレさんみたいな、サブカルさんみたいな人たちだけってイメージでしたけど、実は今そういうのをいちばん持っているのが公共放送のNHKというのは、とてもすばらしいことだと思うんですよね。

やっぱりそういうものをちゃんとキャッチしている若い世代は絶対いて。

そうするとただただ売れるだけじゃない、しっかりセンスもあるものづくりに将来つながるんじゃないかなと思うので。

「いいものを作る」というプライド

Q:そういったものを踏まえてかもしれないですが、公共放送として、NHKのあるべき姿、どんなふうにお考えですか?

そんな生意気なことを言ってって思われるかもしれないですが…おべっか使うわけじゃないんですけど、今ってむしろNHKの役割とか意義がより増しているんじゃないかなと思って。

確かに今はネット全盛の時代ですから一人一人が発信局になれてしまうし、いわゆるニュースのまとめサイトみたいなものもお手軽でいろんな人が使っているとは思います。

でもやっぱり時間をかけた丁寧なものづくりって、逆に貴重になっていると思うんですよね。

制作現場の方たちにとってはいろいろな横槍が入ったり大変なこともあると思うんですけれども、やっぱりNHKがじっくりと丁寧に、そんなに奇をてらわず、目先の視聴率とかウケ狙いに走らず作ってくださっている番組の空気って、本当にますます唯一のものになっているんじゃないかなと。

あんまりガチャガチャ騒がない空気は本当に気に入っているところなので、そこは大切にしていただけたら。

私たちの業界って「プライド」って言葉を大切にしているんですけど、自分たちが生み出すものとか、自分自身を好きであることって、結局受け手の人にも伝わると思うんですよね。

自信を持って「いいものを作っているんだ」っていう気持ちが入っている。そういうものはちゃんと届いているんじゃないかと思うんですよね。

自分が知らない世界は「種」となって創造性を広げる

Q:制作者の思いとか、時間をかけるのは大事ですが…一方で“数字”、視聴率もある程度は必要だと思うんですけど、そういう部分はいかがでしょうか?

うーん、言葉が悪いかもしれないですけど…数字が取れる取れないだけで言うと、少数者というのはそもそも人数が少ないわけですから、共感を得られる人も少ないかもしれないし、カットされやすいテーマだと思うんですよね。

でも、そういうものって「種」みたいなもので、のちのちになって、あのとき見たもの・聞いたものは、後になって花が咲く。当時は知らない世界だったけど、いろんな形で広がって創造性につながっていくと思うんです。

売れる・人気が出るとわかっているわけではないテーマをちゃんと取り上げる余裕がある、いろんな広がりや可能性を持つテーマを届けてくださるってことは、すごく大事なことなんじゃないでしょうか。

Q:ありがとうございます。現状のダメ出しなどもあれば、ぜひお願いします。

ダメ出しなんて、私はそんなきついオネエじゃないのよという思いなんですけど(笑)。

ただ、今メディアのあり方がすごい問われているじゃないですか。受信料の問題もニュースにもなっていて、否定的なことを言う方もいるかもしれないけれども、やっぱり、さっき私がお話しした「NHKの良さを持った真摯しんしなものづくり」みたいなものがなくなってしまうと全部の番組が一緒になってしまうし、本当に大事なことを伝える機会がむしろ失われるんじゃないかなと思うんですよね。

NHKの方も、もしかしたら弱気になる瞬間とかやってらんねえよって思う瞬間があるかもしれないんですけれども、まあ、好きだって応援してくれている方たちをなるべく見て、感じて番組を作っていただければ。

ますますNHKを大好きにしてくれるような真摯で丁寧なものづくりを、これまでと変わらず、外野の声に左右されず作っていただきたいですね。

…私はあんまりNHKに言いたいことはなくて…むしろ、本当にいろいろ言われて大変だろうけど、負けないでって気持ちばっかりなんですよね。

ホントですよ。


「真摯な姿勢で丁寧に番組を作り続けることの大切さ」を繰り返し語ってくださり、NHKへのメッセージ、ありがとうございました。

自分自身を好きでいること、プライドを持つことを教えてくださったブルボンヌさん。

NHKラジオ第1で、5日間にわたり、10代のみなさんのための性にまつわるお悩み相談番組にご出演されました。

放送後、1週間はNHKの「らじる★らじる」で聞き逃し配信中です。

▶ 「らじる★らじる」で聞く

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