カメラは重い。生理はもっと重い。でも「ガマンしなくていいんだよ」って叫びたい【#生理の話ってしにくい】

突然ですが、みなさんは「生理」について、周りの人たちと話したことがありますか?

からだが女性の人であれば、誰もがなんだかんだと振り回されている。
なのに、なぜかとーっても話しにくい。

もっとオープンに話せたらいいんじゃないか?
というわけで、NHK職員が「#生理の話ってしにくい」というテーマで、自分にとっての生理や、それぞれの職場で感じていることなどについて記事を公開していきます。

今回は、報道カメラマン2年目の田中さん。
生理の話って、しにくい…?

山口局2年目。報道カメラマンの田中です。

取材先の方に「珍しい!女性のカメラマンだ」と言われることも多く、まだまだ“カメラマン=男”というイメージが強い職種の一つだと思います。

実際に、カメラは8.7kg、カメラを立てる三脚は8.4kgとどちらも重く、体力勝負の仕事で大変なこともあります。

特に働き始めて大変だと感じたのは“生理”です。

不規則な働き方のためか、会社に入ってからどんどん生理が重くなっていきました。

しかし、山口局のカメラマンは私以外全員男性。
生理について相談できませんでした。
そんなとき、「ほかにも自分と同じように“生理”に悩んでいるのに我慢している人がいるのではないか?」

そんな思いから、生理について取材して放送したところ、思わぬ変化がありました。声を上げるって大事だなとジブンゴトとして痛感したこと、シェアさせていただきたいと思います。

カメラは重い!

わたしがNHKに入局したのは、学生時代に見た森達也監督の『A』というドキュメンタリーがきっかけでした。現場の空気感までもが伝わってくる生々しいシーンの数々に衝撃を受けました。

実際に現場に行くことができ、その場にいなくてはわからない出来事や雰囲気、自分が感じたことを撮影し伝えることができる“報道カメラマン”という仕事に魅力を感じました。

昨年の春、報道カメラマンとしてデビューした私は、人生ではじめて報道用のカメラを触りました。

8.7kgのカメラを担ぐ身長160cmの筆者(左から2番目)

「お…重い…」想像以上の重さ…。

カメラを担ぐ右肩に毎日あざを作りながらも、毎日新しい現場に行って、取材をする日々に刺激を受け、もっと撮影技術も取材力も上げたいと奮闘していました。

そして、生理はもっと重い…。

そんなある日、入局して半年が過ぎたころ、取材中に突然目の前が真っ白になりました。

生理前の貧血の症状でした。
少しすると視界が戻ってきましたが、今までにない経験に驚きました。

幸いそのときカメラは担いでなかったものの、もし重いカメラを担いだまま倒れたりしたら…と考えると怖くなりました。
カメラ本体やレンズなど取材用の撮影機材は貴重品なのです!

学生のときから、生理の時の気分の落ち込みや腹痛に悩んでいましたが、
仕事を始めてからはさらに重くなり、生理周期が崩れて月に2回生理がきたり、立てなくなるほどの腹痛が襲ってきたりと、生活に支障が出るレベルになりました。

しかも、頑張りたいときほど生理がかぶる

学生時代は「女性だから」という理由で何かを諦めた経験はありませんでした。むしろ男女の差なんてほとんどないと思っていました。

しかし…報道カメラマンとして働き始めてからは、違いを痛感させられることばかりです。

出勤時間や食事のタイミングは、取材の予定にあわせてバラバラ。事件や事故があったら現場に直行。暑い日や雨が降る日も屋外で取材することだってあります。

もちろん安全に配慮しての取材ですが、体力的にきついこともあり、頑張りたくても頑張れず、ほかのカメラマンがうらやましく感じることも多くなりました。

小柄で体力のない、私のようなカメラマンは不利に感じられました。

交通安全呼びかけの取材現場にて、他社のカメラマンと並ぶ筆者

しかも、なぜか「生理は頑張りたいときにかぶる」のです。

自分が担当している取材のロケ日や大雨の取材など、特にモチベーションがあって、気合いが入っているときほど、不思議と眠気や腹痛がいちばんつらい日とかぶることが多いです。

しかし…
そんな泣き言ばっかり言っていられませんでした。
周囲には体調不良のことを黙ったまま、低用量ピルをのみ始め、それでも立ち上がれないぐらい腹痛がひどいときは、痛み止めを服用し、なんとかごまかしながらやってきました。

そんな毎日の中で、上述の通り、生理前の貧血で倒れかけてしまいました。“我慢する”という“生理”との向き合い方は、私の体調も悪化させ、それによって仕事にも支障をきたすところだったのです。

問題が起こる前に上司に相談することにしました。

活用しきれていない生理休暇。どうしたら職場の理解が広がる…?

上司はきちんと理解をしてくれ、生理休暇を取得することを提案してくれました。

NHKでは生理休暇は「エフ休暇」と呼ばれています。
ただ、今まで局内で生理休暇を取った女性は少なく、女性カメラマンは私だけなので、上司も私自身も取得方法がよくわかりませんでした。

私も具体的な取得方法を知らなかったように、まだ浸透していないように感じました。同世代の女性記者からも「生理休暇ってとっていいの?」と聞かれたこともあります。

せっかく制度があるのに、活用しきれていないもどかしさがありました。

男性が圧倒的に多い職場なので、生理休暇の制度について浸透していないのも当たり前です。そこで、「我慢する」のではなく「きちんと相談する」ことが、仕事と生理について職場が理解する一歩になるのではと考えました。

山口放送局の風景。男性多め…?

男性の上司がわからない「生理」をきちんと知ってもらうことでお互い働きやすくなるなら、「もっと広く生理のことを知ってもらいたい」と思うようになったのです。

そんなとき、あるニュースが飛び込んできました。
ことし6月、山口市の市立小中学校で生理用品の無償設置が始まるというのです。

生理と仕事のことで悩んでいた私は、女子中学生たちも学校生活の中で同じようなことを悩んでいるのではないかと、生理用品の無償設置をきっかけに「生理についてのイメージ」や「学校生活への影響」などについてアンケート取材を行うことにしました。

私の提案を聞いた上司は「一般的にはまだまだ“カメラマン=男性ばかり”というイメージがあるからこそ、女性であるあなた目線の取材ができたらおもしろいと思う」と言って背中を押してくれました。

取材してみたら…生理がひどくても、それを「悩み」と認識していない現状が!

アンケートは、市内の女子中学生2320人を対象に行いました。

全体の56.4%にあたる1308人から回答がありました。

生理のイメージについて訪ねた項目では、

・生理がなければいいと思う 56%
・生理痛がつらい      48%
・気分が沈んでつらい    29%
(複数回答)

しかし、生理の悩みがあるかを訪ねた項目で、「ある」と答えた生徒はわずか14%でした。
つまり、生理痛がひどくても、それが「悩み」であると認識していないということです。

つらかったり、気分が沈んでいたりしてもそれは当たり前のことで、多くの学生が私と同じように生理は“我慢する”ものだと思い込んでいるのではないかと感じました。

生理を理由に学校を休んだことはあるかを訪ねた項目では、12%の生徒が「休んだことがある」と回答。
また19%の生徒は「休みたい日があったが休んだことはない」と回答しました。

ほかにも「大会やテストの日に生理がかぶり、本気が出せないのが嫌だ」「水泳の時間に生理で見学すると点数がマイナスされる。納得がいきません」などの意見が書かれていて、生理が学校生活に影響を及ぼしていることがわかりました。

こうしたアンケートの結果を、夕方の山口県内向けのニュースの中で放送しました。

過去に生理の悩みを打ち明けられず学校を休んでいた女性の話や、実際に中学生がアンケートに書いてくれたコメントを伝え、今まで聞こえてこなかった当事者たちの声を意識的に多く取り上げました。

また、生理に関して相談できる窓口を作ろうとしている民間団体の活動を取り上げ、学校や親など身近な人に相談がしづらい人も相談できる場所があることを伝えました。

放送後、視聴者の方からは「中学生の生の声は大きかった。遠い場所の問題ではなく、山口県でも実際に悩んでいる人がいるんだと感じることができた」という声をいただきました。

話せる機会や雰囲気がないからこそ、“ない”ことにされてしまっていた生理の悩み。それが他人事ではなく、実際に身近で存在することを伝えられてよかったと思いました。

▶︎ 都立高校での事例とともに、WEB記事になっています

「生理のつらさを伝えてくれてありがとう」

反響は、取材した中学生や視聴者の方々からだけではありませんでした。

同じ山口局で働く女性記者の先輩から「生理のつらさを伝えてくれてありがとう」と言われたのです。報道の仕事をしながら生理に向き合う大変さと15年以上戦ってきた大先輩です。

年の近い女性職員からも、「実は私もPMS(月経前症候群)がひどくって…」「どうやって生理休暇とった?」「上司が男性だから相談しづらいんです…」などの声をかけてもらう機会が増えました。

山口局内の生理トークも活発に

また、私が取材の相談をしていた先輩カメラマンから「俺いま人生でいちばん“生理”って言っている…」と言われるほど、取材を通して男性職員からも「生理」と言うワードが頻繁に出るようになり、生理に関する質問や悩みなどの話をしやすい環境に少しずつ変わっていきました。

優しく愉快な先輩カメラマンたち

「生理がしんどくてもガマンしなくていいんだよ!!」と伝えている本人が我慢し続けているようでは、世の中に訴えることはできません。

「もっと広く生理のことを知ってもらいたい」。放送を通して社会に向けた私のそのメッセージが、最も身近な自分の職場のみんなにも思いがけず届いたことは、とてもうれしく感じています。

もっともっと“生理”を知ってほしい

今回の取材を行ったことで、私の職場では生理の悩みを共有できる仲間が増えました。また、生理を経験しない男性や、生理が重くない女性にも生理の大変さを理解してもらう一歩になったと思います。

しかし、少しずつ変わってはいるけれど、まだまだ生理の休暇制度は利用しにくいと感じている人が多くいます。

その理由としては「休むことで今後大切な仕事が振られなくなるのではと不安…」という精神的な理由や、
「自分の働き方と合わない」「1日単位しか取得できないため、体調悪くなったから午後休むとか、朝は貧血だけど午後は頑張りたいなどができない」など、制度的な理由もあるようです。

どのようにすれば使いやすくなるのか、利用したい女性と女性を部下に持つ男性などさまざまな視点の声を聞いて、まずは自分の職場から変えていきたいと思っています。

生理のつらさを“我慢しない”こと。そして生理のつらさを“知ってもらう”ことで、社会の中に“生理”が認識されるようになり多くの人にとってよりよい環境が広がると思います。

山口局 報道カメラマン 田中

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