はじめに

大河ドラマ「青天をけ」のTD(テクニカルディレクター:技術統括)を担当している東川と申します。

大河ドラマ「青天を衝け」は、12月26日(日)、いよいよ第41回(最終回)「青春はつづく」の放送を迎えます。一年間の長らくのご愛顧、ご視聴、本当にありがとうございました。スタッフ一同、感謝の気持ちでいっぱいです。

渋沢栄一の人生について、このドラマで初めて知ったという方も多いのではないでしょうか。恥ずかしながら、私もそうでした。

埼玉県深谷市の藍農家で生まれ、日本を代表する経済人へと立身していくストーリーが、群雄割拠の戦国もののイメージが強い大河ドラマの中で、果たして受け止めてもらえるだろうかと、収録前は不安もありました。

しかし、脚本の大森美香さんの、登場人物たちへの深い愛情と、奇をてらわない真っ向勝負のストーリー展開、そして主演・吉沢 亮さんのひたむきでまっすぐな演技が、この番組をグイグイと引っ張り、回を追うごとに栄一とドラマ全体の魅力がますます深まっていきました。

これほどいちずでかっこいい大河ドラマがかつてあっただろうか、と声高に言いたいところをぐっとこらえて、そろそろ技術の話に移ります。

上:群馬県安中市でのロケの様子 下:スタジオでの撮影の様子

「青天を衝け」の映像、これまでの大河ドラマと比べ一味違うと皆さん、お感じになりませんでしたか。芝居が引き立つ奥行きのある映像ときれいな色彩による臨場感あふれる質感、そしてカメラが役者にググっと迫る描写で、心情や迫力がより伝わりドキドキするような感覚…(ありましたよね?)。

第5回「栄一、揺れる」より
第40回「栄一、海を越えて」より

今回は、どのようにして、この「青天を衝け」の世界観を作り上げていったのか。現場の最前線で働いていた撮影と照明のメンバーから舞台裏を紹介させていただきたいと思います!

左から、NHK放送技術局 制作技術センター制作技術部 照明 井本敬人
NHK放送技術局 制作技術センター 制作推進部 撮影 堀内 將
NHK放送技術局 制作技術センター 制作推進部 TD 東川和宏

1.撮影の取り組み

NHK放送技術局 制作技術センター 制作推進部 撮影 堀内 將

撮影サブチーフを担当しています堀内といいます。これまで4年間、さまざまなドラマの撮影を担当してきました。立ち上げの段階から担当するのは「青天を衝け」が初めてで、撮影チームの中ではまだまだ若手です。

今回の大河ドラマでは、撮影は1チーム7名の2班体制で、使用するカメラは3台。カメラマンは、チーフ、サブチーフ(別名:セカンド)、サードの3名が担当しています。

チーフ

撮影の責任者です。演出陣と、物語の起承転結や各回の肝を見極め、撮影の方向性を決定します。チーフの映像(マスターショット)により現場のすべてがスタートするため、重責ですが、やりがいのある仕事です。

サブチーフ

美術セットの入れ替えや照明の準備など、できるだけ現場がスムーズに進むよう、撮影する順番(撮り順)を決定し、すべてのスタッフに周知する、現場の要となるポジションです。チーフに撮影に集中してもらう環境づくりをしています。

サード

自由度が一番高いポジションです。ゆえに高い技術力が求められます。俳優陣の表情をとらえる。物語のテンポを作る。シーンをより印象深くするためのカットを撮影します。

信頼のおける撮影メンバーと、1年半に及ぶ撮影を終えた私からは、「青天を衝け」で使われた最新技術と、カメラマンとしての思いについて、お伝えしたいと思います。

・新しい大河ドラマの始まり

大河ドラマの撮影では題材が決まってから、それをどのような映像で表現するのが適切なのかを議論し、そのためにはどのような機材が必要かという選定に半年ほどの時間が必要です。

この準備・テスト期間に、どれだけ映像をつきつめられるかがドラマの成否を左右すると言っても過言ではありません。

「過去の全大河ドラマ、そして未来の大河ドラマにとって挑戦状となるような“新しい大河ドラマ”を目指す」

これは、撮影チーフ・山口カメラマンの、技術スタッフに向けた宣言です。

動画配信サービスなども含め、世界中の完成度の高い作品があふれる今、あらゆるジャンルのコンテンツにふれている視聴者の皆さんがドラマに求めるレベルは高くなっていると思います。

現状に甘んじることなく、魅力ある物語に頼り切らず、いかに作品を表現するに足る映像を撮りにいくのか。撮影チーフを中心に模索の日々が始まりました。

カメラテスト(2020年2月)

はじめに、既存のシネマ用大判カメラの描写力を最大限に活用するため、最先端の光学性能を持つ単焦点シネレンズをメイン機材に選定しました。

このレンズの特徴はボケた(フォーカスが合っていない)部分の描写がなめらかで嫌味に目を引かないため、フォーカスが合っている部分により視点を集中させることができます。

つまり、これにより視聴者のみなさんのドラマへの没入感をより高めることができるというわけです。海外映画などでは使用実績がありますが、日本の映画、ドラマで使用するのは「青天を衝け」が初となります。

ただ、単焦点レンズはズームができないため、同じカメラ位置から違うサイズの映像を撮ることができません。そのため、多様なサイズの映像を撮るためにはカメラ位置を何度も変えて撮影する必要があり、時間がかかりやすいというデメリットがあります。
効率が求められるテレビドラマ制作において、この選択は非常に大きな決断でした。

大河ドラマの収録期間はおよそ1年半、一見充分な時間があると感じる方も多いと思いますが、収録する話数も全41回と膨大です。そのため限られたスケジュール内で撮り切るには、ある程度ルーティン化された撮影スタイルを確立することが重要です。

初のスタイルへの試みに2020年2月にテストを開始したものの、コロナ禍による緊急事態宣言で、作業は一時ストップ。最新機材の習熟と撮影スタイルの確立に誰もが不安を覚えましたが、限られた時間を大切にし、一歩ずつ準備を進めました。

そして迎えた2020年7月。試行錯誤を重ねて臨んだ、クランクイン直前の最後のカメラテスト。そこで私は、今まで見たことがないような映像を目の当たりにします。色調、陰影、背景のボケ具合の美しさなど、“新しい大河ドラマ”にふさわしい映像美だと確信しました

この結果に、チームの皆も色めき立ちました。

この“新しさ”への挑戦は、今思えば、新しさを恐れず、新しい世を作った、渋沢栄一の大河にふさわしいものだったと思います。チーム全体がそのムードにあったのは、運命だったのかもしれません。

そして、いよいよクランクイン。私にとっての「初めての大河」はチーム全体にとって「新しい大河への挑戦」となりました。私自身は、これから大変な1年が始まるという恐怖の方が勝っていました。ただ、怖いぐらいワクワクしている先輩方を見ると、なぜか自分もほんの少しだけワクワクしたのを覚えています。

・撮影テーマは「距離感!」

血洗島、京都、パリ、静岡、東京。

栄一が歩んだ人生において共通しているのは、常に走り続けているということです。物理的な話だけではなく、栄一はどの局面に置いても人生を駆け抜けていて、熱量のある生き方をしています。

そんな栄一に対して私たちが選んだ撮影法は…「いい距離感で、一緒に駆け抜ける」です。

演出とも、「栄一のダイナミックな人生に寄り添い、ドラマを近くで見ているようなものにしたい」という意識を共有しました。

象徴的なのは第2回のラスト、江戸行きが決まりぐるぐるする栄一。

第2回「栄一、踊る」より

これは「Steadicamステディカム」(カメラスタビライザー)という機材を使用しています。

この機材はカメラマンが直接カメラを担いだときに起きる人為的な映像の揺れを、防振装置で抑えることが可能です。その持ち味を活かし、カメラマンもぐるぐる栄一の周りを回りながら撮影しました。

セリフや動き、そして表情が見えるタイミングなど、栄一を演じる吉沢さんとカメラマンの呼吸が一致しなければ成立しない難しいカットでしたが、本番は見事一発OKでした!

山口カメラマンと村上カメラマン

「Steadicam」は演者と共に動くことによって、より臨場感あふれる映像を表現することができます。しかし、そのワークに失敗すればシーンを台無しにしてしまうなどスキルが要求される表裏一体の機材です。

Steadicamは他のドラマでは使用頻度はそこまで高くありませんが、青天ではほぼ毎日使用し、血洗島を出て、栄一の活躍の場が京都、パリに移り、時代が明治に移り変わっても効果的に使用しました。演者に肉薄した撮影により、演者の鼓動が伝わるような映像制作にこだわりました。

全編通して、特に栄一の心が震えた瞬間、どんな映像をわれわれが意識していたのか!?お時間ある方は、ぜひもう一度、見直していただけるとうれしいです。

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・「静」の芝居を撮影する難しさ

一方で、徳川慶喜と栄一のシーンでは、先ほど説明したような特殊な機材は使いません。

二人のシーンは、「静」の印象が強いので、「シンプルに二人の芝居を撮りにいく」ことを意識しました。しかし、シンプル、これが一番難しい!

ドラマの撮影では、事前に、演出がカット割という映像イメージを作成し、それらを美術の図面と照らし合わせながら、撮影チームが、撮影方針を検討します。

しかし、二人のシーンはその検討があまり意味をなしません。撮影当日に、目の前で繰り広げられる芝居がわれわれの想像を超えるすばらしいものであるからです。

リハーサルでさえ、目の前で見ていると慶喜さんの所作、表情、体から発せられるオーラは非常に強烈です。

カメラというものを通してそれが薄れてしまったらどうしようと思うくらい、徳川慶喜を演じる草彅剛さんの演技は驚異的でした。それを受ける栄一、吉沢 亮さんも本当にすばらしい。

もう汚したくない空間が二人の芝居からは生まれていました。

左:演出・黒崎さん、右:山口カメラマン 話し合いの様子

では、どうするか。とにかく演出と撮影3人で、どう描くのがベストか、細かく、迅速に話し合うしかありません。

3台のカメラをどのように配置し、誰が何を狙うのか、どの瞬間を撮るのか。結果的にシンプルな画になっているかもしれません。しかしそれがいちばん思いが伝わる、現場の空気が届く、と信じて私たちが撮影したカットです。

映像からそのように感じてもらえたならばとてもうれしく思います。

第26回「篤太夫、再会する」より パリから戻った篤太夫と慶喜の再会

・第39回では初めてチーフ担当しました!

12月11日に放送された第39回「栄一と戦争では撮影チーフを、初めて担当しました。

第39回は、ドラマの大きな流れの中で、重要なシーンであふれている、というのが最初に台本を読んだときの印象でした。

撮影チーフは現場のリーダーであり、チーフの映像でシーンの意図、物語の方向性が決まります。事前に丁寧に話し合い、考え抜き、これが正解だ、という気持ちで毎シーン撮影に臨むのですが、現場のスタッフ30名近くを先導し、カットを重ねるのは非常に胆力がいります。私も胃が痛い思いが続きました。

第39回「栄一と戦争」より
左:尾高惇忠と慶喜の会合 右:内に秘めてきた思いを語ることを決意する慶喜

「基本的に全部まかせる、好きなようにやっていい」という先輩の言葉は、プレッシャーでしたが、演出を担当した村橋ディレクターとの1年半に及ぶ信頼関係、一緒に撮影する先輩カメラマンの存在が、本当に心強かったです。

そして変な話ですが先輩方が撮影する姿を隣で見つめ続けてきた経験が自信にもつながったように思います。

左写真 演出意図を共有する 左:村橋ディレクターと右:筆者
右写真 真ん中:筆者と二人の先輩カメラマン

反省もたくさんあります。ただ、私自身としては第1回から栄一の人生をカメラマンとして見つめ、青天チームと力を合わせて培ってきた経験を、すべてぶつけられたと感じています。

だからこそ第39回は、視聴者の皆さんにも、共に作り上げた青天チームにも誇れる作品だと言えます。

このような機会を与えてもらえたことに感謝すると共に、この経験で得たものを次につなげられるよう、まだまだドラマ撮影の世界を駆け抜けていきます。

・最終回に向けて

ドラマ制作の現場も、人と人とのつながりでできています。栄一さんと自分を比べるのもどうかと思いますが、受け継いだ意志を大事にする、という点は、自分も大切にしています。

私はまだまだこれからですが、これからも現場で学んだひとつひとつの教えを、つないでもらった意志を大切に、何かを誇れるカメラマンを目指したいと思います。

そんなことを考えながら撮影していた大河ドラマもいよいよ最終回。このドラマの栄一の人生をとおして、視聴者の皆様が、自身の生き方を少し見つめなおす、そんなきっかけとなることをなっていたらと願っています。

2.照明の取り組み

NHK放送技術局 制作技術センター制作技術部 照明 井本敬人

照明チーフを担当した井本と申します。ドラマ照明をはじめて9年目。人生初の大河チーフです。

「青天を衝け」の照明チームは、『見やすく、ドラマティックに』をモットーに、収録に取り組んできました。

もうすぐ迎える最終回。視聴者の心に残る印象的な映像となるよう、私も精いっぱい幕末から明治へ、栄一と一緒に駆け抜けました。

楽しいシーンも、悲しいシーンも、胸が“ぐるぐる”するシーンも、チームの思いがあふれた照明となっています。今回は、そんな照明の世界を紹介します。

照明の仕事とは、暗闇に光を灯し、映像というキャンバスに情景を色彩豊かに表現することです。

とある昼間のシーン、どんな明かりの中で芝居をしてもらえると印象的なシーンとなるのか、まず“太陽光”を設計することから始めます。

私たちが太陽光に選択したのは、スーパーレオというスポットライト。24kwの電球が装填そうてんできる、照明業界でも非常にパワーのあるライトです。

24kwと聞いてもピンと来ないかもしれませんが、ご家庭でよく使用されている電球が100wなので、比べるとなんと240倍の明るさになります。

サイズも大きいスーパーレオ
セットが無いとこんなに広い106スタジオ

こんな強力な器具が必要になるのはなぜか!?
大河ドラマを撮影している放送センターのCT-106スタジオは200坪という広さです。

そこに栄一の生家である2階建てで庭付きの大きな「中の家なかんち」をはじめ、徳川家の江戸城、パリで滞在したペルゴレーズの館、さらには晩年栄一が過ごした飛鳥山邸など、週替わりでさまざまなセットが、スタジオいっぱいに建てられます。

こうした広いセットをリアルに見せるためには、一台で広い面積をカバーし、強力なパワーを持ったライトが必要となります。

今回選んだライトは「青天を衝け」の太陽光として大いに活躍し、スタジオ内においてもロケ(外での撮影)に負けない、光あふれる映像を演出することができました。

中の家なかんち」の屋内はセット、玄関から一歩出るとロケ(群馬県安中市)だったのですが、皆さんお気づきでしたか?

・補助光も必要です

次に、太陽光が当たっていない部分は、補助光を当てて映像にさらに厚みをもたせていきます。

太陽光が反射したり拡散したりして発生する光を二次光と言います。実世界ではこの二次光がいたるところに回り込むことで、太陽による明るさを享受することができますが、スタジオでは二次光の明るさが足りません。

そこで二次光をスタジオ内で再現するために、別のライト(補助光)を使用し、俳優さんの顔をより美しく見せたり、日陰となる部分を補ったりしています。

庭や街並みのセットでは、写真にあるように、天井にぶらさがっている円筒形の「ディフューズランタン」とよばれる布の中にLED器具を装着し、大きな幕を透過させることで、二次光を作り出しています。

スタジオの天井にぶら下がる円筒形の照明器具
LED器具 色と明るさを自由にかえられる。

説明は一部ですが、このような照明器具をセッティングした後に、映像と音声を整える調整室で、モニターを確認しながら、照明器具の明るさや色調を調整し、視聴者のみなさまが期待する、大河ドラマに相応しい映像表現に取り組んでいます。

副調整室内の様子 手前2人:照明チーム

・スタジオ撮影に見えますか?(おすすめのシーン①)

ここからは、スタジオ撮影で特に印象的に作り上げることができたシーンを紹介します。

第27回で、渋沢栄一(篤太夫)と五代友厚が出会うシーンです。昔の家(旧家)が立ち並ぶ屋外を表現したセットです。

200坪の広いスタジオと言っても、本当の屋外撮影と比べると、リアルな奥行きなどは、どう頑張ってもかないません。

そこで照明チームの腕の見せどころです。
このシーンでは、町の半分に光が当たるように太陽光をセッティングしました。なぜ半分かというと、影を映像の中に作りたいからです。

このシーンでは、太陽光の位置を計算してセッティングして、セット全体に陰影のある映像を狙いました。屋根の影、干している服の影、葉っぱの影、役者さんの顔にも影がうまれ雰囲気が良くなります。

さらに、この影を先ほどのLED器具などを使った二次光でコントラストを巧みに調整して表現します。影にもグラデーションをつけて奥行きを表現します。そうすることで、立体感が生まれ、迫力のある映像となり、二人が出会うシーンを盛り上げることができました。

第27回「篤太夫、駿府で励む」より

・夕方って何色?(おすすめのシーン②)

同じく第27回の後半、戊辰戦争で喜作(成一郎)が戦い続ける森の中でのシーンも頑張りました。数少ない戦争シーン、時間設定は夕方です。このシーンも、CT-106スタジオで撮影しました。

夕方は太陽の高さが低くなり、赤く色が変わるなど、照明担当としてこだわるところです。さらに、今回は青天と名の付くドラマなので、空の色にもこだわりました

夕方は、夕陽が沈む西の空と東の空では、色が違います。この微妙な色の調整でLED器具を活用し、色彩豊かな映像を創り上げました。同時に、LED器具は使用電力を削減する事が可能で、省エネにも貢献しています。

しかしまだまだこだわりは終わりません。
このシーンのセットは、ドーナツ状に同じところをぐるぐる回り続けられるような形状となっていて、長い道のりを走り続けることと、迫力ある演技をさまざまな角度で撮影することが、両立されたセットデザインとなっています。

しかし、夕方の低い太陽をリアルに表現すると、ドーナツ状の森は暗いところが多くなりすぎます。そこで、スタジオ上部にLED器具をまんべんなく配置し二次光で包み込めるようにしました。

準備や片づけには骨が折れましたが、森の中でも鬼気迫る喜作の表情を見せることができ、戦争というセンシティブな芝居に夕方の印象的な色彩を組み合わせ、深みのある心に響く映像に仕上がったと思っています。

第27回「篤太夫、駿府で励む」より 森の中を走る成一郎

・最終回の見どころはコチラ!

いよいよ最終回です。印象的なシーンがさらに多く登場します。照明の雰囲気は時間だけでなく、場所でも変化させています。アメリカ、ロンドン、敬三の部屋など、芝居の内容に合わせて、映像をつくっています。

照明は演技の邪魔をせず、かつより良い映像、番組になるよう力を注いでいます。「青天を衝け」最終回、照明やセット、撮影など、録画やNHKプラス、NHKオンデマンドで何度も視聴してぜひ楽しんでください。

おわりに

NHK放送技術局 制作技術センター 制作推進部 TD 東川和宏

撮影と照明の話、いかがだったでしょうか。
私が今回担当したTD(テクニカルディレクター)は、現場だけでなく、演出・美術など制作に携わるすべてのスタッフと技術スタッフ間の相談・交渉ごと(スケジュールや予算やワークフローなど)を一手に引き受け、現場の収録から放送されるまで、滞りなく進行させるとともに品質を管理する役割を担っています。

それはもはや選手兼コーチ兼監督兼フロントのような、なかなか重要な役割です。(本当にそんなに頑張っていたのかと言われると…)

「あんたがうれしいだけじゃなくて、みんながうれしいのが一番なんだで」

これは、第1回で和久井映見さん演じる栄一の母親・ゑいが、子供時代の栄一に伝えたせりふです。私の仕事のスタンスも生意気ですが実は同じ。ドラマ制作中もよほど気に入っていたのか、ことあるごとに思い浮かべていた気がします。TD業務にもぴったりの言葉です。

渋沢栄一の芯でもあり、今回のドラマ制作の核となっていたのも、実はこの言葉ではなかったか、と思っています。本当はこっそり私だけの言葉にしたい。

筆者の職場 106スタジオ 副調整室

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以下、最終回のネタバレがあります!
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さて最終回です、80歳を越えた栄一は、実業界を引退したにも関わらず、移民排斥問題で悪化した日米関係の改善のためアメリカを訪問、関東大震災では救護所を開設、中華民国の水害ではラジオで義援金を呼びかけるなど、老いた体にムチ打ち、民のために、国のために働きます。

ここで、私からも照明チームと撮影チームの気持ちがこもったシーンを紹介します。

照明では、病床の大隈重信を栄一が見舞いに訪れるシーン。新しい日本を作るため、時には協力し、時には反発し合うなどこれまで紆余うよ曲折あった二人です。
二次光を控えめにして、部屋に差し込んだ太陽を強調したシルエット調の照明で、これまでの人生を語り合う二人の様子を、絵画のような印象的な映像で表現しています。

撮影では、水害にあった中華民国を救うため、91歳の栄一がラジオで募金活動を呼びかけるシーン。
自宅に設置したラジオ放送用のマイクに向かい、もう無理ができない体で必死に聴衆に訴える栄一の姿と表情を、これまで幾度となく迫ってきたカメラワークの圧倒的な描写力でその想いを伝えます。あたたかい栄一の言葉が心に染み込んできます。

どんな映像になっているかは放送をお楽しみに。「青天を衝け」では、日曜日の午後6時からBS4Kでもお楽しみいただけます。

今回、紹介した映像のすばらしさの数々、その真の実力を堪能していただけるのは、実はこちらなんです。

4Kはハイビジョンの4倍の高解像度。
より細やかな質感と鮮やかさで臨場感がぐんと増しています。お芝居と物語の世界にもっとどっぷり漬かっていただきたい。お気に入りの俳優さんをもっと間近に感じられるかも。可能な方はぜひBS4Kでもご覧になってみてください。

今回は撮影と照明を紹介しましたが、技術チームは他にも、CG/VFX、音声、映像技術(編集、映像)と多くのスタッフが、「青天を衝け」に全力で関わりました。

チームワークは良かったと信じたい。このチームで大河ドラマを完走でき、最高に幸せな時間を共有できました。

すべてのスタッフの思いが注がれた最終回はまもなくです。ぜひティッシュをお手元に用意してテレビの前にお座りください。60分拡大版、お楽しみに。

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