今回は、映像表現がテーマです。

映像表現とは、映像技術のテクニックを駆使して、演出意図に沿った映像を届けること。

…? よくわからない…。そして、なんか地味そう…。

はい、よく言われます。説明するのも難しいところもあり、いまだに自分の仕事を自分の家族がちゃんと理解してくれていない気もします。

今までよりかなり地味な内容かも知れませんが、「そんなことまでしてるの!?」「ドラマの世界…奥深いわぁ」とドラマの見方がチョットは変わるかもしれないくらいおもしろい内容だと思うので、よろしければお付き合いください。

早速ですが、こちらの画像をご覧ください。
「ひなたの初出社のシーン」ですが、違いがわかりますか? 上と下の画像の、ひなたの表情にご注目ください。

実はこの2つは全く同じカットです。でもほんのわずかに、表情から感じるものが違いませんか? 上は加工前のもので、朝の光の青みがあり少し冷えた印象。そして下は加工後のもので、ひなたの顔の血色が良くあたたかいシーンに感じると思います。

これまで自分の未来がいまいち見えていなかったひなたが、条映映画村でのバイトを通して、やっとやりたいことが明白になり、条映映画村に就職しての初出社。きっと希望に満ちあふれた心情だったんだろうと想像し、映像加工を行いました。

ほかにも第2週で、「安子と稔の2人が川越しの夕日を眺めるシーン」ですが、エフェクトで太陽の光を追加し、川に反射する光を足すなどの加工をしています。

映像加工前
映像加工後

映像加工をする前で放送してもいいかもしれないけど、加工後のほうがもっとよく見えませんか? この細部へのこだわりがドラマ全体の出来につながってくる…と信じて。そんな僕らの仕事を紹介したいと思います。

自己紹介

はじめまして、「カムカムエヴリバディ」で映像技術を担当している今村昂司と申します。

私は、父が大河ドラマが好きだったこともあり、小さいころから一緒に見始め、ドラマのおもしろさを感じていました。学生時代にはVR(Virtual Reality)の研究をし、NHKに入局。映像の1カット1カット細かく丁寧に調整、加工して、魅力的な映像を作り出すことができる映像技術の仕事に楽しさを感じ、今も携わっています。

ですが、この「映像技術」という仕事、そんなに知られていません。

映像技術の仕事とは

それでは「カムカムエヴリバディ」の音作りについて、まずは「SE」=「効果音」のお話をさせていただきたいのですが…

連続テレビ小説は、総勢100名以上のスタッフで制作に取り組んでいます。映像技術は、技術チームに属しています。映像技術は、VE(Video Engineer)とも呼ばれ、撮影後の映像加工だけが仕事ではありません。

ドラマの制作フローについて示します。大まかにオレンジで示した部分が、収録前の作業、緑が収録中の作業、青で示したのが、収録後の作業です。映像技術はというと、赤枠で示した部分に携わっていて、幅広く番組制作に携わっています。

番組は、放送の2~3年くらい前から地域をリサーチし、検討を重ね企画をたてていきます。役者さんとの出演交渉・脚本の執筆、ロケ地の選定など、ある程度の番組の方針が決まったら、カメラテストを行います。

さまざまな打ち合わせを重ねたのち、スタジオ、もしくはロケでの収録となります。ここでは、映像技術者は、映像の管理、収録作業をします。具体的には照明、演出とシーンの時間帯や意味合いなどを話し合いながら、各シーンの明るさや色を決めていきます。

収録後、オフライン編集と呼ばれる、演出のカット割りをもとに、番組の15分という長さに合わせ込む作業があります。その後、やっと今回のお話の核となるオンライン編集に入ります。オンライン編集では、Before Afterの写真を見せたような映像の色や明るさを調整するカラーグレーディング、VFXなどの作業を行っています。

こうしたように、映像技術の担当者は大勢の制作スタッフから、最終的なバトンを託される仕事でもあります。

映像を加工する

オンライン編集では、収録現場で撮影した映像に新たなものを加える「VFX作業」もその一つです。

▼「VFX作業」について詳しくはこちら!▼

例えばきょうの「ひなたの条映映画村への初出社シーン」では…

映像加工前
映像加工後

下の画像の上部、「条映映画村」の看板は、本来の映像にVFXで足したものです。(こちらとは逆のパターンで、時代にそぐわない現代物などを消したりする作業も行います。)

ただこうした、ある意味派手な映像加工だけではない、マニアックな(繊細な)仕事が、主に私の担当する「カラーグレーディング」です。

カラーグレーディング作業は、映像全体、もしくは映像の一部の色や明るさなど細かい補正を行い、シーンや番組の意図や世界観を引き出す作業です。NHKだけでなく、いろんなドラマやほかの映画作品では、必ずと言っていいほど、このカラーグレーディング作業を行っています。

映像の明るさを変えること、色を変えることによって、そのシーンが持つ印象を大きく変えることができます。

印象を左右するカラーグレーディング

具体的なところで言うと、元映像を明るくすると、太陽の日ざしを感じ、夏っぽさが出てきたり、元気なイメージになります。逆に暗くすると、曇天のような感じで冬っぽさを感じ、不気味さも増します。

また、赤くすると、夕方のような印象になり、あたたかみが出ます。逆に青くすると、早朝のようなイメージが出て、冷たさなどが出てきます。こうした、明るさや色の印象を使い、シーンの持つ世界観をより高めています。

カラーグレーディングを担当する映像技術者は、オフライン編集が完了し、15分尺に収まった番組(と言っても、音楽も何もついていない役者さんの演技だけの映像)を『最初に見られる視聴者』だと思っています。

そこで思ったことや感じたことを、いかに映像として意味を強めることができるか、魅力的な映像、番組として作ることができるかを常に試行錯誤しながら作業しています。

心情をどう表現するのか?

やり方は人それぞれだと思うのですが、特に私がカラーグレーディングで意識していることは、役者さんの心情やシーンの意図に「寄り添うこと」です。

このシーンでは、この人はどういう気持ちだったのか…。どういうことを伝えたいのだろうか…。ここで入る回想は、この人にとって楽しい記憶なのか、苦しい記憶なのか…。回想のシーンで言うと、具体的には苦しい記憶のときは、ザラザラとしたノイズを足して色味を減らしてモノクロに近づけたり、寂しいシーンではチョット青くしてみたり…そういったことを考えながら1カットずつ仕上げていきます。ちなみに、月曜から金曜までおよそ700カット近くあります。

お気に入りのシーン

こちらは、「モモケンさんが初めてお店に来た際に、るいさんが産気づいたところをモモケンさんが優しく手を差し伸べたシーン」です。

映像加工前
映像加工後

なんてモモケンさんは優しくて男前なんだ! ひなたにとっては、ずっと憧れの存在ではあったものの、さらに神のように感じたことだろう。ならば、モモケンさんの優しい男前な雰囲気を出したくて、彩度をあげ、色豊かに。モモケンさん以外のところの周りはぼかして、モモケンさんが引き立つような回想にしました。お気に入りのシーンの一つです。

もちろん、あとで放送を見返しても、「あぁ、もうチョットこうしたら、もっとよかったかも!!」などと思うことも多いです。感情や感覚は人それぞれなので、「これで完璧!!」「100点満点の出来だ!!」と言えるものは作れないのかなと思っています。しかし、そこにこの作業のおもしろさがあるのかな? と思っています。

印象的なシーンの作り方

もう1つ意識していることは「印象的なシーンを作ること」です。
完全に自己満足の世界かも知れませんが、チョットした遊び心を忘れないように取り組んでいます。

例えばモモケンのCM撮影シーン。昔のカメラで撮った映像をイメージしました。コントラストを強め、周りはレンズによるボケや色のズレ、エッジは若干強めに。それだけでなく「キリっとしたかっこよさ」を際立たせるために、青みを強めて緊迫感ある映像にしました。

こうした過去の映像ふうにするときは、過去の映像などを見返したりしています。ある程度、年代がわかるので、その当時の映画やドラマなど映像をネット上などで探し出し、何種類かの映像を見て、特徴などを盗み、どうやったら再現できるかなどを試しています。なので…あまり設計せずに、たまたまいい感じになった…というものもあります。

また、若干のうそもついています…。これは、ファインダー越しの映像ですが、当時のカメラにはファインダーにはこうした四角の枠みたいなものはなかったようです。ただ、ほかの映像との違いを明確にする、四角の枠をつけたほうが、よりカメラのファインダー越しの映像だよとわかりやすいということもあり、採用しています。

映像加工前
映像加工後

まとめ

私たちは、最初の視聴者として、番組がより見ていただいている視聴者のみなさんが「おもしろかった!」「泣けた!」「感動した!」と番組自体を楽しんでもらえるよう、1つのシーン、1つのカット、さらに言ってしまえば、1つのフレーム単位で細かく調整を行っています。

たくさんのスタッフから託されたバトンをしっかりと、視聴者のみなさんに届けられるよう、これからも丁寧に映像の仕事に取り組んでいきます。

映像技術 今村昂司

2009年入局。鳥取局初任後、東京にてドラマ映像ポスプロ業務に携わる。東京では、単発ドラマ、連続テレビ小説「とと姉ちゃん」、「半分、青い。」、大河ドラマ「おんな城主 直虎」「いだてん」「麒麟がくる」を担当。2021年に大阪拠点放送局に転勤し、「六畳間のピアノマン」の制作に携わり、現在、連続テレビ小説「カムカムエヴリバディ」映像技術担当として携わる。


制作チームから視聴者のみなさまへ

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