激シブ!と思った動画があれよあれよと拡散し、NHK和歌山に衝撃が走った話

2021年9月28日、NHK和歌山放送局にプチ衝撃が走りました。きっかけは、NHK和歌山放送局のツイッターアカウントから当日ツイートしたこちら ※NHKサイトを離れます

このツイートは、合気道の創始者として知られる和歌山県出身・植芝盛平さんの演武を紹介するニュースをカラー化した映像。

一晩で動画再生回数1万回以上、1000いいね…そこからもどんどん数は増え続けました。

二度と越えられないと思っていた和歌山の大スター・HYDEさん関連の投稿 (※NHKサイトを離れます) をはるかに超える再生回数のペースで、中の人を担当するツイッター班はざわつきます。ふだんのツイートの動画再生回数は200~300回、いいねは20~40件くらいなのです。

さらに、リツイートやコメントで多くの反響があり、ひとつひとつ読んで今回の衝撃の要因を探しました。すると、私たちが思っていた以上に貴重な動画だということがわかったのです!

みなさんにその価値を「再発見・拡散」していただいたこの動画について、お知らせしたいと思います。

はじめまして。NHK和歌山・広報担当シバタです。

この衝撃をお伝えするのは、2021年7月にNHK和歌山局に異動してきた広報担当シバタです。

前任は岡山局で丸3年、営業の仕事で受信料に関する業務が中心でした。

和歌山局では部署が変わり仕事内容が一変。局のツイッター運用や番組の広報など、今までとはまったく違う仕事で、触れるものすべてが新鮮な毎日です。

マスコットキャラクター「わかまる」と一緒にいろんなことに挑戦しています!

NHK和歌山の屋上でスケボーに挑戦するわかまる

NHK和歌山局ツイッターでは、NHKの番組紹介や和歌山に関するニュース、災害情報などを発信しています。

「一人でも多くの人に情報が届いてほしい!」との思いで投稿内容を考えています。野球好きの担当者は、智弁和歌山の甲子園優勝を実況ツイートしたり、和歌山のアイドル・パンダの癒やし動画をツイートしたり、もちろん、大雨や地震などの災害時にはライフライン情報などをいち早く発信したり…と内容はさまざまです!
※NHKサイトを離れます

過去の映像を現代によみがえらせる「タイムスケープ企画」

NHK和歌山放送局では、夕方の県内向けニュース番組「ギュギュっと和歌山」の中で、「わかやまアーカイブス」というコーナーを放送しています。

NHKに残された貴重な映像から、当時の和歌山の風景や出来事を振り返るコーナーです。

今回話題になった動画は、こうしたアーカイブス映像を、AIを使ってカラー化し、現代によみがえらせたものです。

このカラー化の技術は、NHK技術研究所が開発し、さまざまな番組に使われているほか、いまは各地域局でも運用が広がっています。

▼白黒映像の自動カラー化技術▼

▼白黒映像の自動カラー化システムの開発▼

4月、和歌山放送局の技術スタッフが中心になり、和歌山タイムスケープ企画を始動。

担当の技術スタッフ・コシイさんがカラー化作業を行う様子

過去の白黒映像から、みなさんの興味関心が高そうな5本を選んでカラー化に臨み、「ギュギュっと和歌山」で紹介し、HPにも掲載しました。

▼特設ページ▼

さらにそれを、和歌山局のツイッターでも投稿し、多くの方に見ていただこうということになったのです。

放送に先駆けて8月に投稿したのがこちら ※NHKサイトを離れます

夏休みといえば、ラジオ体操! ということで、昭和7年、和歌山県内でのラジオ体操の映像をカラー化したものです。

この投稿は、通常の投稿より再生回数やリツイートが多く、企画が本格始動するきっかけとなりました。

「激シブ」と思ったツイートが突然バズる!

そして、9月27日に、あの「合気道」動画を投稿することになったのですが…。

投稿したのは、ビフォー(白黒映像)とアフター(カラー化映像)の各回2種類。

※ビフォー ※NHKサイトを離れます

映像は、昭和27年に新宿の道場で撮影されたもの。

植芝さんが和歌山県出身ということから、技術担当者が選んで、東京のアーカイブスという映像を保管している部署から取り寄せたものです。

20代のわたしにとっては激シブ映像で、一体どれくらい反応があるものか…と懐疑的でした。

映像は、同じ日に、和歌山県内向けの夕方の番組、「ギュギュっと和歌山」でも放送したのですが、放送時の接触率はタイムスケープのコーナーではやや下降気味に。

やっぱり…なんて思っていたら、投稿後、ツイートに即座にこんなコメントが。

「スゲー…」
「すごい貴重な映像だなこれ」

ふんふん…確かに貴重な映像ではあるな。と思っていると、あれよあれよという間にコメントがどんどん増えていく!

お…!?
なんだか、合気道ファンにすごく刺さっている!

今回、この映像を選んだ理由は合気道の開祖・植芝盛平さんが和歌山県出身だったから、とシンプルな理由。

それがこんなに大きな反響があるとは、技術チームも私もまったく予想外。みんなでスマホをのぞき込んでは、増えていく動画再生数、コメントの数にただただ驚きました。

最終的には、動画再生回数15万回超え、43コメント、2267リツイート…!!(2022年1月時点)

なぜ? なぜ一体!? 答えを求めて…

なぜこんなに多くの皆さんに見ていただけたのか…その理由がどうしても知りたい!! 誰か…教えて…。

しかし、和歌山局には実は合気道に詳しい職員はいません。そこで、全国のNHK職員を対象に作られた、とあるチャットに情報提供を呼びかけると…

「合気道経験者です。おそらく、稽古動画として何回も見た方がいるのでは」
「知り合いが習っています。道場の先生に聞いてみましょうか?」

などの書き込みが!

たどりついたのは「NHK合気道部」

そして、その後も情報収集を進めると…。
なんと、NHKに「合気道部」があることが判明! その前部長にたどり着くことができました!

【NHK合気道部】
ことしで創部から45年。週2回の自主稽古に加え、毎年合気会の全国演武会にも出場している歴史ある部活だそうです。(現在は、新型コロナの影響で稽古はお休み。全国演武会も休止になっています)

解説をしてくれたのは、後段真ん中の森脇雅人プロデューサー。合気道を始めたのは、NHKに入局してからだとか。

森脇プロデューサーが担当しているのが、武術の神髄に達人たちの技とトークで迫る「明鏡止水」(BSプレミアム)という番組です。

カラー化動画の解説をお願いしたいと連絡すると、NHK合気道部を月に一度指導してくださっている、合気会・合気道本部道場の栗林孝典七段師範にも動画を確認していただいた上で、この動画の「すごさ」を解説してくれました。

森脇プロデューサーと、筆者柴田(右上)、広報局note担当日野(右下)

「やはりこれは、すごい動画ですよ!」と森脇プロデューサー。その解説ポイントを一つ一つご紹介します。

植芝盛平のカラー映像は過去に存在していなかった。

森脇プロデューサー

「実は、植芝盛平翁のカラーの映像というのはひとつもないんです。今回、この映像をカラー化したということで、多くの合気道愛好家たちが狂喜乱舞したのだと思います」

合気道は、実は日本だけではなく、世界各地に合気道愛好家が100万人以上いるという、海外でも「Moving Zen」として大人気の武術だそうです。

その開祖である植芝盛平翁の演武の映像は数少なく非常に貴重であり、さらに、カラー映像は、(合気会本部によると)実はひとつもないことから、今回、貴重な演武の姿が、さらにカラー化されたことは、合気道家にとってはたまらない映像となったというわけです。ふむふむ。

実際に、ツイートに投稿されたコメントでも

「植芝先生の動いている映像初めて見ました 貴重な演舞の様子をしかもカラーで公開していただきありがとうございます」
「わー! 合気道ならってたけど開祖が動くとこ初めて見ましたわ」
「キャーッ!! 開祖に色がついてるぅ~~♥♥」

など、圧倒的に、植芝さんの映像のインパクトの強さ、そして演技のすばらしさへの礼賛が多く見られました。

しかし、それだけではなかったのです。

映っている大物は、開祖だけではなかった。

今回のツイートには43リプライ、323引用リツイートの反響がありました! その内容を調べたところ、公開されているアカウントのコメント数・全299件のうち、植芝さんの名前がでてきたのは、59件でした。

実は、それを上回る人物の名前が多く投稿されていたのです。

「これ、17秒ぐらいのところで投げられているの、塩田剛三先生じゃない!?」
「若い頃の塩田さんもいる!」
「おぉ、若き日の塩田剛三先生もいらっしゃいますね!」

…とコメントを投稿した方が多数。

それがこの方です。

伝説のスター 塩田剛三

森脇プロデューサー

「塩田剛三先生は、合気道開祖・植芝盛平先生のもとで修業した後、独立して養神館合気道を創設した方です。世界的にも『合気道でものすごく強い人がいたらしい』という、伝説の武道家です。小柄でスピーディーな技の持ち主で、来日したロバート・ケネディ司法長官が塩田さんの道場を訪問した時、申し出によりケネディー氏のボディガードと手合わせを行い、倒して抑えたというエピソードもあるんです。格闘漫画などのキャラクターのモデルとしても有名で、板垣恵介作の漫画「グラップラー刃牙」やアニメ「バキ」に登場する「渋川剛気」というキャラクターも、この塩田剛三先生がモデルなんです。そういう意味では、合気道界隈以外でも、非常に有名な先生ですね」

ふむふむ、アニメなどでもモデルになる、合気道界のスターなんですね。

さらに…。

開祖晩年のスタイルの継承者・斉藤守弘も

「塩田剛三師範っぽい人と、齋藤守弘師範っぽい人が写っているような気が、、」
「若い頃の #斉藤守弘 先生がスリムでイケメン? ですね」

と、斉藤守弘さんの名前を挙げる人も。

それが、7秒くらいに映っている、この方。

森脇プロデューサー

「斉藤守弘先生も、開祖翁先生からじきじきに稽古を受けた一人です。開祖は、晩年、木刀などを使った武器技に力を入れられたのですが、その武器技を正式に伝授された指導者は斉藤守弘先生のみなんです。いわば、開祖晩年のスタイルの後継者として、開祖晩年の地、茨城県岩間の道場を守られた、合気道界には欠かせない歴史上の人物です」

なるほど。そんなにすごい方も!

他にも合気道界の歴史に名を刻む高弟が

そして、さらに…

「開祖の受けを取ってるのは、塩田剛三師範、藤平光一師範、斉藤守弘師範とそうそうたる顔ぶれですね」

と、藤平光一という名前を投稿された方も5件。
それが、15秒くらいに映っているこちらの方。

森脇プロデューサー

「藤平《とうへい》光一先生は、植芝開祖の元で修業をした後、合気道に中村天風の「心身統一法」の理論を取り入れて、気の原理(心が体を動かす)に基づき、心身統一合氣道を創設した方です」

合気道の歴史に名を刻むお歴々が、一つの動画にギュギュっと! そしてさらに…。

森脇プロデューサー

「実は最後の方に、本当にちらっとですが、耳が大きい人が映っているんですが、それが現在の合気会本部道場師範、多田宏先生九段です。92歳で、現在の合気会本部道場師範を務められている、いわば、開祖の直系の道場の現役指導者です」

ツイートのコメントにも

「何度となく見たあの映像がカラーに! 若き日の多田宏先生もカラー!」
「受けの中に塩田剛三先生のほかに多田宏先生もいらっしゃいますかね」

と、多田宏さんの名前を挙げる人が。
これには、森脇Pも「多田先生がわかる人は相当勉強していますね」とうなっていました。

以上まとめますと…今回カラー化した動画は、合気道開祖・植芝盛平さんの貴重な演技に加え、植芝さんの高弟として、合気道普及に多いに貢献し、のちに独立して一大会派を築いた人々を含む、合気道界の若き日の4大スターが映り込んでいるという、ものすごく貴重な映像だったのです。

さらに、森脇プロデューサー制作のNHK「明鏡止水」に出演された合気道家・白川竜次さん(合気道神武錬成塾 道場長)もリツイートをしてくださったことも、この動画が合気道ファンに広く知られるきっかけとなりました。

ということで、突然バズったワケについて、

「貴重な映像→カラー化でもっと貴重な映像→ファンの間で広まる→新たな発見が生まれる→もっとたくさんの人へと広まる」

このような流れで、和歌山局のバズりツイートは発展していったと思われます。

みなさんに教えてもらった過去映像の“価値”

今回、この映像をカラー化した技術担当・コシイさんに、森脇プロデューサーの解説を伝えると、

「カラー化しているときは、“きれいにできたけど、よろこんでくれる人はどれくらいいるんだろう?” なんて思っていましたが、この解説で、自分はなんて価値のある映像をカラー化したのかと驚きました! 植芝さんの偉大さと、合気道人口の多さとにびっくりしました」

とのことでした。

全国の合気道ファンのみなさんにこのツイートを気付いていただき、反応をいただき、みなさんに過去映像の価値を教えてもらいました!

その中で、NHKが記録してきた膨大な映像資料の中には、自分だけでは気づかない、非常に貴重なシーンが記録されているということを、今回ツイートしてみて、改めて気づかされました。

今まで、ほとんど一方的に情報を発信してきた和歌山局のツイッターでしたが、SNSを通じて、全国のみなさんとお話することができたような、とてもうれしいできごとでした!

今回のツイートで、植芝盛平さんの演武動画について、反応してくださったみなさん、解説してくださったみなさん、本当にありがとうございました!

みなさんのおかげで気づいた過去映像のおもしろさ、これからも「タイムスケープ」などの企画で発信していきます!
楽しみにしていてくださいね!

必要な情報を、地域密着型で

今回のタイムスケープ映像投稿で、NHK和歌山放送局のツイッターは、動画の総再生回数14万回超え、115フォロワー増加しました!

和歌山県内の視聴者向けのアカウントなので、全国から反響を得ることができたのは初めてだったこともあり、ツイッター班はやりがいを感じ、これまで以上にツイッターでの情報発信に力を入れていこうと意気込んでいます。

NHKとして、一番力を入れているのは災害時の情報発信です。

和歌山県にあるテレビ局はNHK和歌山局と民放1社のみ。

和歌山県内では断水や地震、台風など、ここ1年だけでもさまざまな災害が発生し、災害に関する最新の情報やライフライン情報をみなさんに届けることが重要だと感じています。

いざという時にみなさんの暮らしを守る情報を発信できるように、また暮らしを豊かにする情報を発信できるように、これからもツイッターをはじめ、地域に向けた放送に力を入れてまいります。

NHK和歌山放送局のTwitterはこちらから!

※NHKサイトを離れます

シバタ
2018年入局。岡山放送局初任後、和歌山局で広報を担当。
番組広報やツイッターの運用など、視聴者のみなさまに番組を届ける仕事をしています。
趣味、深夜ラジオ。いまの目標は、大好きなラジオパーソナリティと仕事すること。

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