1972年の沖縄本土復帰直前、日本全国で大ヒットした特撮ドラマ「ウルトラマンシリーズ」。そこに脚本家として参加していたのが、沖縄出身の金城哲夫と上原正三でした。
沖縄復帰50年のことし、当時のことを知る人々の証言を交えながら、ヒーロー誕生の舞台裏を描いたドキュメンタリードラマをお送りします。
脚本・演出は、沖縄在住の映画監督・中江裕司さん。満島真之介さん、佐久本 宝さんら沖縄出身俳優とともに、金城、上原、2人の人生を丁寧に描きます。
【あらすじ】
1965年、「円谷特技プロダクション」を沖縄出身の上原正三が訪れる。待っていたのは脚本家であり、故郷の同胞・金城哲夫だ。金城は、天才的発想で『ウルトラQ』の脚本を執筆していた。やがて円谷 一らを中心に、若い監督たちが集結し、『ウルトラマン』を創りだす。沖縄の日本復帰が近づくなか、金城と上原は二人が交わした「ヤマトゥーンカイ、マキティナイミ!(日本人に負けるな)」の言葉を胸に、それぞれの道を歩みだす──。
時代にもまれても夢を追い続けた男たち!
<主な登場人物>

金城哲夫
(満島真之介)
“特撮の神様”と呼ばれた円谷英二の愛弟子で沖縄出身の天才脚本家。その沖縄人らしい発想と優しさは、のちに金城自身を苦しめることに。

上原正三
(佐久本 宝)
「ウルトラQ」で脚本家デビューをした沖縄出身の脚本家。リアリズムやテーマ性を得意とする。やがて金城とは道を分かつことに。

円谷 一
(青木崇高)
円谷英二の長男で、テレビ局の監督。熱気の塊のような男で、脚本作りでは、金城を叱咤する一方で、ときには兄弟のような愛情を示す。

上原正三(60歳)
(平田 満)
60歳になった上原は、金城の帰郷後の足跡を知るために沖縄へ向かった。そこで知ったのは、金城の沖縄に対するあふれるばかりの愛情だった。
当時を知る人たちの貴重な証言とは?
番組では、金城さんと上原さんの活動をそばで見つめてきた人々が当時の様子を鮮明に語ります。2人の仕事に対する考え方や生活の様子、また挫折や悲しみなどが明らかになります。時代を作りあげた方々の名言もお見逃しなく!
【当時を語る証言者たち】
・「ウルトラQ」の助監督、監督・満田かずほさん
※かずほさんの名は正しくは「禾(のぎへん)」に「斉」
・円谷英二の三男で当時の助監督・円谷 粲さん
・「ウルトラマン」の監督のひとり・樋口祐三さん
・「ウルトラセブン」の助監督、「帰ってきたウルトラマン」の脚本家・田口成光さん(89分版のみ)
・「ウルトラマンシリーズ」に多く携わった元テレビプロデューサー・橋本洋二さん(89分版のみ)
・「ウルトラマンシリーズ」の脚本家、作家・藤川桂介さん(89分版のみ)
・金城さんの妻・金城裕子さん
・金城さんの妹で染織家・上原美智子さん


左から円谷 粲さん、満田かずほさん
怪獣たちもたくさん登場します!
番組には、金城さん、上原さんが愛した怪獣たちも登場します!
資料映像からは、『ウルトラセブン』のキングジョーやチブル星人。『ウルトラQ』のガラダマ(ガラモン)も。
ドラマの中にも怪獣が出てくるんだとか…? どんな場面に登場するのでしょうか、探してみるのも楽しいかもしれません♪

◆脚本・演出 中江裕司インタビュー

中江裕司 映画監督
1960年京都生まれ、沖縄在住。代表作は、「ナビィの恋」(1999年)、「ホテル・ハイビスカス」(2002年)、NHKドラマ「甲子園とオバーと爆弾なべ」(2019年)など。
僕自身、もともとウルトラマンオタクだったんです。オタクの中では、金城さんが「ウルトラマン」のメインライターだということは有名でしたが、沖縄の人たちにはあまり知られていませんでした。なんとかみんなに知ってもらいたいと思い、金城さんを再評価するイベントを自主的に行い、金城さんの書斎まわりや脚本などの資料整理を数か月やっていた時期がありました。
そんなときに、「がんばれ!!ロボコン」「秘密戦隊ゴレンジャー」も手がけ、「ウルトラマン」から金城さんと肩を並べてきた脚本家の上原さんから、金城さんをモデルにした映画の脚本を書きたいと連絡がありました。いざお会いしても、僕は本当に金城さんに夢中だったので上原さんにさえ金城さんの話ばかりしていたところ、上原さんに「君たちは本当に金城、金城って伝説のように話すけど、僕だって(ウルトラマンシリーズの脚本を)結構書いているんだよ」と言われ、それ以来、その言葉が25年ずっと引っかかり続けていたんです。

そして今回、NHKから沖縄をテーマに番組を作りませんかとお話をいただき、上原さん側から見た金城さんを描いてみてはどうかと提案をさせていただきました。上原さんと金城さんは、同じ時期に活躍していた同志でしたが思考や性格はとても対照的で、互いにいろいろな葛藤も抱えていました。また、時代に翻弄された金城さんを、その時代を“泳ぎ切った”上原さんの目線から描くことで、あの時代の空気を伝えられるのではと思ったのです。
物語のベースは、映画化は実現しませんでしたが、上原さんが金城さんをモデルに書いていた『ウルトラマン島唄』です。上原さんはもっと金城さんにライバル心を持っていたのかなと思っていましたが、読んでみるとまったく違いました。その本には、自分を脚本家にしてくれたのは金城だとはっきり書いてありました。改めて、互いに同志と思っていたことが分かり、ドラマに大きく反映できました。

ほかにも金城さんや上原さんを調べていくと、円谷英二さんの長男で、「ウルトラマンシリーズ」の監督を務めた円谷 一さんの元に人が集まっていたことも分かりました。金城さんから見たら兄貴分のような存在で、とても仲がよかったそうですし、上原さんの著書にも2人の間には入れなかったようなこともつづられていました。金城さんの奥さんからの証言でも、やはり一さんが軸だったのだということも確信しました。そんなところから、「ふたりのウルトラマン」というタイトルには、金城さんと上原さんという意味はもちろん、実は金城さんと円谷 一さんの“ふたり”という意味もふくんでいます。
番組では、金城さんとやりとりしていた一さんからの本物の手紙、金城さんが実際に切り抜いていた海洋博の新聞記事、そして、金城さんの実際の書斎も登場します。調べれば調べるほどに、これまでに分かっていなかった事実がたくさん出てきて、それもドラマに反映しているので、ウルトラマンファンには驚く内容にもなっているかもしれません。
それを裏付けたのは、証言をしてくださった方々の言葉でもありました。ふだんこういった場には出てこられない、元テレビプロデューサーの橋本洋二さんは、「ウルトラセブン」の後期から「怪奇大作戦」「帰ってきたウルトラマン」のあたりを取り仕切っていたうちのひとりです。証言からは、金城さんの脚本家としての葛藤や、僕の中では、金城さんと上原さんの立場が変わっていった様子などが明確に見えたので、貴重な証言をいただけたと思っています。

出演者、そしてスタッフの一体感をとても感じられた番組になったと実感しています。金城さん役の満島さん、上原さん役の佐久本さん、そして一さん役の青木さんは、現場でもすごく仲がよくて、スタジオ収録の最後はみんなで一緒に迎え、3人で涙の別れをしていました。3人が金城さん、上原さん、一さんに見えて、なんだかうれしかったですね。

当時の円谷プロのように、わいわい言いながら出演者も含めてみんなで修正を重ねながらちょっとずつ作りあげました。当時のウルトラマンを創り上げたスタッフたちの熱気と共に、復帰前後の沖縄県民の強い気持ちも同時に感じられる番組になったと思います。
「ふたりのウルトラマン」
【放送予定】
4月29日(金・祝)[総合]後7:30~8:42 <九州沖縄ブロック>(鹿児島を除く)【72分版】
5月2日(月)[BSプレミアム]後9:00~10:29 ※BS4K同時放送【89分版】