10月はメロドラマ! 巨匠ダグラス・サーク監督作を放送!

悲しみは空の彼方に【渡辺祥子のシネマ温故知新】

10月6日(木)[BSプレミアム]後1:00

5月のカンヌ、8月のベネチア、そして10月は東京…東京で国際映画祭が開催される季節になりました。第35回の今回は10月24日から11月2日まで。

さて、10月放送の映画で気になるのは映画祭や賞に関係なく、40年代ハリウッドを代表する俳優ラナ・ターナー(1921~1995)の娘役を演じたティーンの俳優、サンドラ・ディー(1942~2005)がかわいいと評判になった映画、「悲しみは空の彼方に」(1959)だ。ジョン・M・スタール監督がクローデット・コルベールを主演に撮った「模倣の人生」(1934)のリメイク作。原作は、ニューヨークのコニーアイランドを舞台に、黒人差別と資本主義をおう歌するアメリカ社会を描いた、ファニー・ハーストの小説だ。

監督のダグラス・サークはメロドラマの巨匠と呼ばれ、“泣かせ”の名人でも知られた。ドイツ出身の彼は、これを最後にハリウッドを去っている。「模倣の人生」はしみじみとした情感が人気だったようだが、こちらサークの作はラナ・ターナー演じる人気俳優の家で働く黒人家政婦の娘がクローズアップされ、人種差別の苦しみが語られている。

そしてこの映画が公開時に評判になったのはラナと実の娘シェリルのスキャンダルのせいでもあった。
1958年、ラナの愛人で当時彼女と同棲していたギャングのボディガード、ジョニー・ストンパナートをラナと2人目の夫との間に生まれた娘シェリル・クレインが刺殺する事件が発生した。原因は寄宿学校から帰ってきたシェリルが、ケンカをしている母と彼を見て、母が殺される、と思い包丁で刺した、ということだったが、じつは娘シェリルがジョニーを愛していて、嫉妬から刺した、という声もあった。裁判の結果シェリルは正当防衛で無罪。この事件の様子はカーティス・ハンソン監督の「L.A.コンフィデンシャル」(1997)の中でも描かれるほど有名になった。ラナは悪女や“ファム・ファタール(運命の女)”の役が多かったのが、この事件を機に“母もの映画”の主役にイメージチェンジ。8度の結婚・離婚を繰り返して74歳で亡くなった。

娘役のサンドラ・ディーは、次回作「避暑地の出来事」(1959)で、トロイ・ドナヒューを相手役に人気アイドル俳優にのし上がり、60年代を代表する俳優になった。

ダグラス・サークを敬愛するスイスの映画作家ダニエル・シュミットが撮った「人生の幻影」(1983/原題のMirage de la vieは「悲しみは空の彼方に」のフランス公開時のタイトル)は、ダグラス・サークの足跡を追ったドキュメンタリー。スイスのテレビ映画だが日本では中編映画として劇場公開されている。ドイツのハンブルクに生まれ、ドイツとアメリカで映画の仕事をしたサークの83年現在とサーク作品「パリのスキャンダル」(1946)「天はすべて許し給う」(1955)「いつも明日がある」(1956)「風と共に散る」(1956)「悲しみは空の彼方に」(1959)などを引用しながら彼の作風をひもといたもの。サークはこの映画の完成から4年後の87年に亡くなった。

いまになってみるとダグラス・サークの傑作メロドラマということになるが、公開時にはラナ・ターナー母娘のスキャンダルに彩られた派手な話題作だった…。

プレミアムシネマ「悲しみは空の彼方に」

10月6日(木)[BSプレミアム]後1:00〜3:06


渡辺祥子

【コラム執筆者】
渡辺祥子(わたなべ・さちこ)さん

共立女子大学文芸学部にて映画を中心とした芸術を専攻。卒業後は「映画ストーリー」編集部を経て、映画ライターに。現在フリーの映画評論家として、新聞、雑誌、テレビ、ラジオ等で活躍。映画関係者のインタビュー、取材なども多い。また映画にとどまらずブロードウェイの舞台やバレエなどにも造詣が深い。著書に「食欲的映画生活術」、「ハリウッド・スキャンダル」(共著)、「スクリーンの悪女」(監修)、「映画とたべもの」ほか。

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