実在の事件をもとに映画化した異色の西部劇

夕陽に向って走れ【坂本朋彦のシネフィル・コラム】

2月17日(金)[BSプレミアム]後1:00〜2:39

今回ご紹介するのは、ロバート・レッドフォード、キャサリン・ロス共演の西部劇。実際に起きた事件を映画化した作品です。

出稼ぎから故郷に戻ったパイユート族の青年ウィリーは、恋人ローラの父に結婚を認めてもらおうとしますが、反対され、誤って殺してしまいます。犯罪者となったウィリーはローラを連れて逃亡。保安官のクーパーが追跡を始めますが…。

先住民の若者の悲劇を、感傷を排した演出で描いたこの作品、脚本・監督をてがけたのがエイブラハム・ポロンスキーです。1910年生まれのポロンスキーは、リアルでありながら文学性の高いセリフを作りだす名脚本家として知られ、ボクシング映画「ボディ・アンド・ソウル」(1947)の脚本や、脚本を手がけ監督デビュー作にもなった犯罪映画「悪の力」(1948)は傑作として高く評価されました。

しかし、そのころ、ハリウッドでは共産主義者や同調者などを追放する“赤狩り”が吹き荒れていました。かつて共産党員だったポロンスキーは、活動の中心だった非米活動委員会に喚問されましたが、証言を拒否。多くの映画人とともにブラックリストにのり、映画の仕事ができなくなってしまいました。60年代の赤狩り終息後、ポロンスキーは、ドン・シーゲル監督の「刑事マディガン」(1967)の脚本に実名でクレジットされ本格復帰。21年の歳月を経た監督第2作がこの作品です。この作品で、ポロンスキー監督は差別や迫害というテーマを寓話ぐうわ的に描いています。反骨の映画作家としての矜持きょうじを持ち続けた自身の人生とも重なる、深い洞察と思索に基づく演出が、この映画をまったく古びない傑作にしているのだと思います。

悲しみをたたえた表情が印象的なウィリーを演じたのはロバート・ブレイク。子どものときから俳優として活動、本作での演技は絶賛されました。そして、この作品、テイストは異なりますが、同じ年に公開された傑作西部劇「明日に向って撃て!」(1969)のキャスト・スタッフが集まっています。サンダンス・キッドを演じたロバート・レッドフォードが、本作では冷徹な保安官クーパーを演じ、キャサリン・ロスは薄幸の女性ローラ役。撮影監督は、当時ロスと結婚していたコンラッド・ホール。3度のアカデミー撮影賞を受賞した名匠のなかの名匠です。本作では横長のワイドスクリーンを生かしたダイナミックな構図、茶、オレンジ、黄のくすんだ色彩を生かした映像表現が作品のテーマに寄り添い抜群の効果をもたらしています。ぜひ、映像美にもご注目ください。

プレミアムシネマ「夕陽に向って走れ」

2月17日(金)[BSプレミアム]後1:00〜2:39


坂本朋彦

【コラム執筆者】坂本朋彦(さかもと・ともひこ)

1990年アナウンサーとしてNHK入局。キャスターやニュースなどさまざまな番組を担当。2014年6月からプレミアムシネマの担当プロデューサーに。

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