ドラマ10「大奥」衣裳の秘密

皆さん、「大奥」楽しんでいただけておりますでしょうか??
今回、衣裳いしょうのディレクションを担当している岡田敦之です。

「大奥」は原作にファンが多い作品のため、ドラマ化するにあたり、さまざまなこだわりがありました。
衣裳いしょうもそのひとつです。

キャラクターがどんな性格なのか、どんな時代を生きているのか。
そんなことを考えながら作り出した衣裳いしょうについてお話しします。

【原作のイメージを映像で表現したい】

この世界を志したきっかけは、高校生のころにはやっていたトレンディドラマ。
ドラマを見ているうちに「衣裳いしょう」という仕事を知り、洋服に関わることをやりたいと漠然と思うようになりました。
専門学校を経て業界に入ってからは舞台の仕事にも携わり、映画『青の炎』・『踊る大捜査線』シリーズや、朝ドラ「まんぷく」の衣裳いしょうデザインなどを担当してきました。
気づけば、この世界に入って23年目になります。

衣裳いしょうのディレクションとは、台本を読み、どんなキャラクターなのかを考え、こういう人なら着る服はこうではないかと、主役からエキストラまでプランニングしていく役目です。

さらに今回のドラマ「大奥」は、原作がある作品。
ファンとして原作のイメージを壊さないように心がけました。

そのために事前の打ち合わせは綿密に行います。

今回は、監督との扮装ふんそうイメージ打ち合わせのあと、各将軍時代の扮装イメージ、カラーを決め、一人ずつキャラクターを作り上げていきました。
そして、メインキャストを原作と照らし合わせながら生地を選別していきました。

【将軍・吉宗、質素倹約を衣裳いしょうで描く】

それぞれの将軍時代には、テーマがあります。

例えば、吉宗の全体のテーマは、「倹約、質素」。色はブルーです。

質素倹約の象徴として、生地の粗い綿麻をベースに原作をリスペクトしつつ韓国生地を使用しました。
日本では機能性のいい生地しかないため、あえて粗い網目の生地を使用しています。

使用した粗い網目の生地

吉宗は、モノトーンコーディネートの為、差し色で赤を使用し、肩口と、裾に銀ねずみの桜を手刺繍ししゅうでバランスよく配置しました。
ミシン刺繍だとどうしても細かいニュアンスが出ないので職人の方にお願いして手刺繍で枝や葉の形など、細かく配置していただきました。

打ち掛け、だけでなく、引き着(打ち掛けの中に着る、引きずっている着物)も生地に凹凸や、網目がわかる生地など表情があるものを選んで製作しています。

このこだわりで、通常の生地よりも数倍重くなってしまいました…。
その重さ、約15キロ!
冨永さんには体力的にかなり負担がかかってしまっております。
が、とても気に入っていただき、いつも笑顔で打ち掛けを羽織ってくれてありがたかったです。

そんな冨永さんの全身の立ち姿、とてもかっこいいです。

吉宗の衣裳いしょうとは正反対に設計したのが、大奥の中臈ちゅうろうたちの衣裳いしょうです。ずらっと並ぶ御鈴廊下は圧巻です。

中臈たちの衣裳いしょうは、「豪華で品のいいかみしも」を目指しました。
こだわったのは、その派手さ。
刺繍の裃だと、映像にしたときの派手さやインパクトが足りないと思い、日本画家の方たちに裃の背中の絵を描いてもらうことにしました。

さらに、今作品で最も大切なのは男女逆転の世界観。「男性を綺麗きれいに美しく」、を頭に入れて進めていきました。
中臈たち=男性キャストの衣裳いしょうは、あえて女性物の着物を仕立て直すことによって、中性的に見えるようにしています。
女性用は身幅、袖の作り等違いがあるのもそうですが、柄、色使いなど女性にしか使わない色をたくさん使っています。

苦労したのは、身長に合わせて長さを合わせること。
今回は男性キャストが高身長になると聞いていたので女性の着物だとゆき丈が3寸から4寸ほど足りないのです。
使わない別の場所から生地をとって袖に生地を足して仕立て直しをしてもらいました。
その数、70枚ほど!

【ドラマの象徴となっていく“流水紋”】

この作品の節目に必ず出てくるのが「流水紋」です。
主張しすぎず、しっかりと目を引く流水紋の裃を作るにはどうしたらいいのか。
水野の裃のデザインは、原作をそのまま再現することを目指していたので、色と素材を重視しました。

そこで選んだのが、「黒の墨」と「黒のはく」、の2つでした。

サンプルを制作し、監督とイメージにあうのはどちらかと相談。
カメラテストで実際にサンプル裃を両方とも映像に撮ってもらい、どちらが今作品ではよくみえるのか監督と話し合いました。
その結果、墨ベースに決定。そして、流水の流れをいぶし銀の糸で水の流れを刺繍することで光沢をだすことに成功したのです。
原作のイメージを生かして作ることができたと思っておりますが、みなさん、どうお感じになったでしょうか??

【家光、有功、ふたりの距離を衣裳いしょうで描く】

家光の時代のテーマは、イエロー、ほこり、土煙でした。
戦国時代の名残がまだまだある天正時代。
麻を利用した天正裃に、柄やぼかしを多用しました。そして、それぞれのキャラクターの特徴を生かしました。

例えば、有功のイメージは、“シンプルに品よく着こなす”人。
テーマカラーは、白~ブルー系としました。
さらに、柄を入れずに、ぼかしやグラデーションで濃淡をだして、イメージ通り“シンプルに品よく”仕上げました。
(このシンプルさが、総取締りの流水裃につながっていきます。)

対して、はじめは男装スタイルだった家光。
鮮やかな紫系から、有功と打ち解けていくことで有功のカラーであるブルー系に寄せていっています。
色で、家光の心の変遷を描こうと考えました。

【元禄時代、きらびやかな綱吉の時代】

綱吉のテーマは、「きらびやか、豪華」です。
世はまさにバブル期。
そのため、綱吉は原色の強いカラー、例えば、レッド、イエロー、グリーン、ホワイト、ゴールドをベースにコーディネートしました。

右衛門佐は、有功との違いを出すため、大人の魅力をどう表すのか工夫をしました。
シンプルにみえつつさりげなく柄をぼかしたり、生地を高級感あるものにしたり。裃の背中には、派手ではない梅の枝を墨で全体に描きいれてもらいました。

【最後に…】

今作品は、原作も読んでいたので、その世界観をどう表現するのか試行錯誤しながらも楽しい時間でした。
私1人では到底賄えない規模感の作品でしたので、歌舞伎、舞踊等他の部署の方たちからも力添え、協力してもらいながらクオリティーの高い衣裳いしょうを提供することを目指していきました。
衣裳いしょうチームみんなでアイデアを出し合い、生地感や衣裳いしょうのデザインを監督と打ち合わせを進め、ブラッシュアップしながら1人ずつのキャラクターを作っていきました。

衣裳いしょうは役に命を吹き込む仕事だと私は思っています。
どのように命が吹き込まれたのか、その姿を見ていただけたらうれしいです。

ドラマ10「大奥」衣裳いしょう担当 岡田敦之
(松竹衣裳いしょう株式会社)

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