ある“音”で映画ファンに親しまれる名作

遠い太鼓【坂本朋彦のシネフィル・コラム】

2月24日(金)[BSプレミアム]後1:00〜2:42

今回ご紹介するのは、アメリカ映画の巨匠ラオール・ウォルシュ監督の傑作活劇です。

舞台は1840年、湿原の広がるフロリダ。この地域の警備にあたるワイアット大尉はセミノール族の捕虜となっていた人たちを救出します。帰還中、一行はセミノール族に追われ沼地に逃げ込みますが、そこにはワニや毒蛇が。無事に生還できるのか…。

先の見えない状況の中、ジャングルのような湿原で次々と襲いかかる危機、ハラハラドキドキの展開とアクション、アメリカ映画ならではの魅力がいっぱいです。

監督のラオール・ウォルシュはハリウッドの伝説的大監督。映画ならではの抜群の構図ときびきびした編集、その名演出は多くの映画作家に影響を与えました。1887年生まれのウォルシュ監督はスマートでハンサム、サイレント時代は俳優として活躍し40本以上の映画に出演しましたが、西部劇「懐かしのアリゾナ」(1928)の撮影中に事故で右目を失明。以降は監督に専念し半世紀以上にわたって多彩なジャンルの作品を発表しました。なかでもハンフリー・ボガート主演の「ハイ・シエラ」(1941)やジェームズ・キャグニー主演の「白熱」(1949)などの犯罪映画は傑作中の傑作とされています。

ワイアット大尉を演じるゲーリー・クーパーは、ヒューマンドラマ「オペラハット」(1936)、西部劇「真昼の決闘」(1952)、恋愛ドラマ「昼下りの情事」(1957)などの名作で知られるスーパースター。本作では、仲間を束ねて危機を乗り越えようとする主人公を、類いまれなオーラで見事に演じています。

そして、この映画は、ある“音”で映画ファンに愛され、親しまれています。それは兵士がワニに襲われて叫ぶ声。効果を高めるためにアフレコで製作された音なのですが、この作品以降、ほかの映画でも同じ声が使われているんです。「スター・ウォーズ」(1977)で、ダース・ベイダーの深い呼吸やライトセーバーなど、さまざまな音を製作した音響デザイナーのベン・バートは、西部劇「フェザー河の襲撃」(1953)でも使われたこの声を“ウィルヘルムの叫び”と名付け、「スター・ウォーズ」や「インディ・ジョーンズ」のシリーズに使用。さらに、ほかの音響デザイナーにも広まり、「バットマン リターンズ」(1992)や「キル・ビル」(2003)など、400本以上の映画やアニメ、そしてテレビゲームでも、主に男性のキャラクターが吹き飛ばされたり、倒されたりする場面であえて、この叫び声をリスペクトをこめて使っているということです。映画史上の名作。“音”にもご注目ください。

プレミアムシネマ「遠い太鼓」

2月24日(金)[BSプレミアム]後1:00〜2:42


坂本朋彦

【コラム執筆者】坂本朋彦(さかもと・ともひこ)

1990年アナウンサーとしてNHK入局。キャスターやニュースなどさまざまな番組を担当。2014年6月からプレミアムシネマの担当プロデューサーに。

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