「鳥」が人間を襲う! 傑作パニック・スリラー

鳥【坂本朋彦のシネフィル・コラム】

3月8日(水)[BSプレミアム]後1:00〜3:00

巨匠アルフレッド・ヒッチコック監督。亡くなって40年以上になりますが、華麗な映像テクニックで物語を語る名演出は、映画芸術の最高峰として、今も世界中の映画ファンを魅了し、映画作家たちから敬愛されています。今回ご紹介するのは、ヒッチコック監督が理由なき恐怖を描く傑作パニック・スリラーです。

はねっかえりの令嬢メラニーは、ペットショップで出会った弁護士のミッチに好意を抱き、ミッチが週末を過ごす小さな漁村にやってきます。ところがカモメが突然メラニーを襲います。そして鳥たちが次々に…。

前作「サイコ」(1960)が大ヒット、テレビドラマではホストを務め、有名になり人気者となったヒッチコック監督は巨額の製作費を投じてこの作品を作りあげました。鳥の襲撃場面では、調教した本物の鳥や模型、別の場所で撮影した鳥と、逃げ惑う人たちを巧みに合成。また、ガラスに描いた風景画を実写と重ねてリアルな映像を作りだすマット・ペインティングなど、当時最先端の視覚効果が駆使されています。

メラニーを演じるティッピ・ヘドレンはモデルとして活動していましたが、この作品で主役に大抜てきされました。特殊メークや視覚効果が使われたとはいえ、鳥に襲われる場面は肉体的にも精神的にも過酷で、撮影終了後には倒れてしまったということです。

印象的なのは音響。この作品、登場人物の感情に寄り添ったり、場面を盛り上げたりするメロディーなど、いわゆる“映画音楽”はありません。鳥の鳴き声や羽ばたく音が全編に散りばめられ、見るものの不安や恐怖をかきたてます。実はこの音は電子楽器。ヒッチコック監督は、名コンビの作曲家バーナード・ハーマンとともに、トラウトニウムという楽器の作曲・演奏の第一人者だったレミ・ガスマンとオスカー・サラを起用し、リアルで衝撃的な音響を作りあげたのです。1950年代以降、アメリカのジョン・ケージやドイツのカールハインツ・シュトックハウゼン、ギリシャのヤニス・クセナキスや日本の武満徹といった作曲家が、電子楽器やテープレコーダーなどを使った前衛的な音楽を発表し、世界的に注目されていました。新しいテクノロジーに敏感だったヒッチコック監督、最先端の音楽にもなみなみならぬ関心を持っていたのだと思います。

細部まで作りこまれたヒッチコック監督の名演出は何度見ても驚嘆させられます。黙示録的な場面で幕を閉じる怪物のような戦慄の作品。改めてご堪能ください。

プレミアムシネマ「鳥」

3月8日(水)[BSプレミアム]後1:00〜3:00


坂本朋彦

【コラム執筆者】坂本朋彦(さかもと・ともひこ)

1990年アナウンサーとしてNHK入局。キャスターやニュースなどさまざまな番組を担当。2014年6月からプレミアムシネマの担当プロデューサーに。

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